第2話 彼女は
彼女も、僕を愛してくれていました。
沢山、深い愛でした。とても幸せでした。
それはもう――言葉では表せないほどに。
彼女は世界がなくなった――あの時、深くため息をついて、ぶるぶる震えた身体をぎゅっと固めながら、立ち上がって、
「生きなきゃ」
と僕に伝えました。
僕とこの死んでしまった世界で、生きようと。
それを聞いて僕は嬉しかったんです。
ああ、こんな世界で、僕と生きてくれる。
何て幸せなんだろうなぁ、と恍惚に浸っていたのです。
彼女は僕の手を取って、歩き始めました。
何もない焼け野原を、ずっと、二人ぽっちで。
不思議とお腹は減りませんでした。
二人で、ただただ何もない大地を、踏みしめて歩きました。
もう、元々どこに何があったのかも、分からないし、もと居た場所ももう見えなくなるくらい歩いた、その時です。
僕のつま先にゴツンと何かが当たりました。ふと下を見ると、小さな砂の山がありました。
何かあるのかもしれない、僕はそう思ってしゃがみこみ、その砂山を手で払ってみました。
すると、取っ手のようなものがありました。
彼女もどうしたの、と聞いてきました。
なんだろう、と取っ手を引っ張ってみると、ギイッと金属が犇めく音と共に、階段が出てきました。
彼女も僕も驚きました。
何かあるかもしれない、そう思ってその階段を下ってみました。
明かりもない真っ暗な通路の突き当たりまで来ると、黒い扉が一つありました。
僕はドアノブをしっかり握りました。
彼女は僕の服の袖をきゅっと握って僕の背中にくっついていました。
意を決してドアノブを引くと、そこには玄関のような場所と、目の前にはまっすぐ続く廊下のような場所がありました。
彼女と僕は靴をおそるおそる脱ぎ、廊下をただ歩きました。所々、どこかに繋がっているであろう扉もありました。
突き当たりまで来ると、また扉があって、今度は彼女がゆっくり開けました。
ギイッという木の軋む音が鳴りながら現れたのは、小さな灯りが付いた大きな部屋でした。
真ん中の大きなテーブルの上には、紙切れが一枚おいてありました。
僕と彼女が、それを覗き込むと、『それ』には、こう書いてありました。
『ここへ来たヒトへ
いるかどうかわからないけど、可哀想に。
ここまで来てしまったんだね。
君は、何かに選ばれて__助かってしまったのだろう。
俺は世界がなくなるのを知っていました。
そして、それを御偉いさん達が隠して、自分達だけ助かろうとしてるのも。
だから、俺はここを造りました。
彼らのシェルターは、不完全なものにしておこうと思う。
俺は、彼等に感付かれると困るから、そっちに行きます。
なんでそんなことするかって?
君の未来を奪った罪だ。
僕も、彼等も。
きっと、寂しく悲しく、途方に暮れている君のために。
どうか、生き延びて。どんなに辛いことがあっても。
電気も食料も、腐るほどある。腐らないようにはしてあるけど。(笑)
世界は優しくない。
けど、君の未来に、幸あることを。』
という書き置きを僕は読んで、嗚呼、こんな腐った世界に置き去りにされてしまったのか。
と思いました。
彼女はほおっと息を吐いて、きっ、と僕の方を向きました。
「生きよう。」
「……うん。」
この腐りきった、なくなった世界で、彼女は僕を愛して、一緒に生き延びてくれる。そう思いました。
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