第24話

 ……な、何だったんだ?

 パタンと閉じたドアをながれは呆然と見つめる。

「はぁ〜……」

 由稀ゆきは大きく溜息を吐き、ガリガリと頭を掻きながらリビングへと戻ってくる。その顔は、つい十分前とは比較できないほど疲労感に溢れている。

「お疲れ」

 流は苦笑いをしながらポンと由稀の肩を叩いた。

「悪かったな。騒がせちゃって……」

「いや、別に……。むしろ、見たことない由稀見れてちょっと面白かったぞ?」

 笑いながら流が言うと、由稀は眉間に皺を寄せて渋い顔をする。それを見て、たすくも小さく頷いている。

「面白いって……」

 はぁーと大きく溜息を吐いて、由稀はソファにどっかと座る。すっかり冷めたコーヒーに口をつけて、由稀は吐き出すように言う。

亜輝あきと一緒にあいつも編入してきたんだろ?だから学校行くのヤなんだよ……」

 めんどくせーと呟きながら由稀は、少し伏せていた目線を流に向ける。

朔月さつきは昔っからオレのことが嫌いなんだよ」

 続けて、頭をガリガリと掻きながら「詳しい理由はわかんねーけど」と零す。

 確かに。朔月のあの態度は『敵視』とみていいだろう。流や亜輝に対する態度とは明らかに違っていた。

「へー……?」

 誰にでもなくつぶやくように言う由稀に、流は重くならないように相槌を打つ。

「顔合わせるとさっきみたいな言い合いになってさ……めんどくせぇ……」

 心底嫌そうな声音で言って、由稀は再び深い溜息を吐く。

「まぁ……クラス違うし、学内で会うことも少ないんじゃないか?」

「……だと良いけど」

 ふと目を向けた窓の外は、もう日暮れに近付いているようだった。

「流……そろそろ……」

「あぁ……」

 翼に声をかけられて、流も頷く。。時刻は十八時を過ぎようとしているところだった。それを見て由稀も声をあげる。

「もうそんな時間かー」

「長居して悪かったな」

「んにゃ、むしろ助かった。亜輝に会うのもすげー久しぶりだったんだ」

 由稀は苦笑いを浮かべて言う。

「一人だと何していいかわかんないとこだった」

 その表情はどこか悲しい。事情はあるにせよ、由稀自身は弟である亜輝を決して嫌ってはいないようだ。

「知ろうとすることが、大事なんじゃないか?」

 誰だって、人の心は分からない。だからこそ、知りたいと思って知っていくことが、お互いの距離を縮めることになるんだと思う。

 ……

 そこまで考えて、流はふと翼の顔を見た。

 ……相変わらず、何を考えてるかわかんない顔してるな……

 それでも何となく機嫌が良さそうなことがわかるのは、長い間側で見てきているからだろう。由稀と亜輝ももっと一緒にいる時間が増えれば、より分かり合えるだろう。

「あと、合わないヤツとはどうやっても合わないモンだよ」

 流の脳裏に同じ寮生として一年以上を共にしつつも、顔を合わせると何やかんや突っかかってくる男の顔が浮かぶ。悪いヤツではないとはわかっていても、どうにも仲良くはできそうにない。

 ……光太郎こうたろうはいいヤツなんだけどなぁ……

 兄と比べられる弟の苦悩は流にもわかるつもりだけれど、雄次郎ゆうじろうはどうにも流とは意見が合わない。話していても二人の意見が交わることは決してない。

「そっか……まぁ……そうだよな」

 上を向いて「ふぅーっ」と大きく息を吐いた由稀は、流に顔を向けるとニカッと笑った。

「ありがとな。月曜からは学校行くわ」

「ん。じゃあ、また学校でな」

「おう」

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