第18話
夕食後の談話室。テレビを見たり、ゴロゴロしたりしている寮生たちの中に
「キッコちゃん?お客様よー」
「
ソファに膝を抱えて座り、つまらなそうにファッション誌をめくっていたキッコが勢いよく立ち上がり、その勢いのまま、奈子の後ろに立つ燈弥の元へと跳ねるように向かった。
「どうしたの?こんな時間に、何かあった?」
キッコの声のトーンがいつもより高く、テンションが上っていることが伺える。もしキッコが半獣化でもしていたらその背後にブンブンと勢いよく揺れる尻尾が見えただろう。キッコの様子から、二人の仲が良いことがわかる。
「違うよ。キッコに言っとかなきゃいけないことがあって来たんだ」
にっこりと笑みを浮かべてキッコの頭を撫でる燈弥は、なかなかどうして爽やかなイケメンだ。頬に擦り傷があるのと眉尻の横あたりに絆創膏が貼られているのを差し引いたとしても、イケメンの部類だろう。
「扉と鍵狩りのことは、この間聞いたよ?」
小さく首を傾げるキッコに、燈弥は首を振り返した。
「そのことじゃなくて、もっと大事なこと」
その言葉にキッコの頭にクエッションマークが浮かぶ。
「あら、お話しするなら談話室使う?」
「鍵ならあるぞー」
奈子の言葉に「お願いします」と燈弥は返事をし、ゴロリと横になってテレビを見ていた
「さ、行くよ」
「はーい」
腕にキッコを絡ませた燈弥は、そのままキッコと共に談話室へと消えた。
騒がしかったキッコがいなくなると、寮生たちは
「え!
雄治郎と話をしていた
「……あぁ」
あまり興味がないのだろうか、手元の本から目線を離さないまま気のない返事をする翼に流は苦笑いを浮かべる。けれど、鈴音は気にしていていないようで、雄治郎と話を続けている。
「
鈴音の話によると、人懐っこくて今日一日ですでにクラスのアイドル状態だという。
「今までは翼くんが大人気だったんだけど、目の保養になる人が増えてクラス中……ううん、学年中が大盛りあがりなんだよ」
「へ〜……ていうか、翼ってそんなに人気があるのか?あんなに
雄治郎がチラリと視線を翼に向けて言うが、オレもその意見には同意する。
「翼くんはクールでカッコいいって言われてるよ。ただ他人に興味がなくって無表情なだけなのにねぇ」
鈴音のセリフもなかなかひどいが、当の本人はどこ吹く風だ。
「でも、こんな時期に二人も転校生が来るって珍しいよね」
近くでテレビを見ていた
確かに。ゴールデンウィークも過ぎたこの時期に転校してくるのは珍しい。しかも、一年生なんて、ついこの間入学したばかりだろうに……
「亜輝くんは、お兄さんが青海学院に通ってて、そのお兄さんと同じ学校に通いたくって……って言ってた」
「へぇ〜……うちの転校生は、家庭の事情って言ってたな」
まぁ、高校生の転校の理由のほとんどは家庭の事情だろう。
「寮は?どこの寮なの?」
「亜輝くんは通学生だよ。学校の近くにお部屋を借りてるんだって」
転校生で通学生とは……。青海学院ではかなり珍しい部類に入るかもしれない。
「生徒のほとんどが寮生の学院にわざわざ転校してきて通学生って……よっぽどワケアリなのかもしれないね?」
そう言う総士はどこか面白そうな表情だ。それを見た
「総士〜。あんまり
突っ込んだ首が回らなくなって、サポートをする羽目になるのは大概同じ学年の光太郎だ。光太郎は一見神経質そうに見えるけれど、面倒見の良い寮生たちの兄貴分なのだ。
「でも気にならない?何かありそうだよね〜」
光太郎と反対に害のなさそうな顔をしていながら、ちょっと性格に癖があるのが総士だ。その性格で厄介事を寮に持ち込んだことも一度や二度ではない。溜息を吐きながら、光太郎は続ける。
「今はもっと気にしないといけないことあるだろ?」
その言葉は言外に『鍵狩り』のことを言っている。けれど、総士はどこ吹く風だ。
「ウチは今、鍵も扉もいないもん」
「そういう問題じゃない」
呆れたように言う光太郎のあとに、テレビの前に横になって見ていた研太がゴロンと振り返って続ける。
「鍵狩りが狙ってるのは、鍵と守護者だけじゃないんだよ」
先日襲われた
「研兄は、転校生たちのこと何か知らない?」
総士は身を乗り出して研太にも尋ねる。
「知ってたとしても教えねぇよ。個人情報だ」
「ってことは、何か知ってるんだ?」
総士に重ねられて、研太はムと口を閉ざし大きな溜息を吐く。
「お前のそういうところ、オレは嫌いじゃないけど、あんまりしつこいと女子にモテないぞ……」
研太に言われて身に覚えがあるのか、総士はちぇっと舌打ちしながら視線をテレビの方へと戻す。
「ホント、全員注意しろよ?」
はーと溜め息を吐きながら言う研太の言葉に、その場にいた寮生たちは「はーい」と大人しく答えるのだった。
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