第6話

「……それこそ電話かメールで良くない?」

「だって、二人ともオレからの電話出ないし、メールも無視するじゃん」

 泣き真似をしながら「兄ちゃん悲しい」とうそぶく水に流はさらに言葉を返す。

「父さんがかけてきたっていいだろ?それかとおるがメールくれるとか……」

「親父も竜もアナログだからさ〜」

 ……確かに。

 父はレンジでチンも怪しい程度にはアナログだ。……が、竜はそこまでひどくはなかったはずだ。水が家にいないときは、メールか何かでやり取りしていたはずだ。

「冗談は置いといて。オレが直接伝えたかったんだよ」

 水は小さく笑いながら言う。その顔からはほんのちょっとだけさっきまでのおちゃらけた雰囲気が消えている。

「神託の内容は聞いてないけど、二人に関係してるってなると一大事だからな」

 水の言葉に流の心臓はドクンと大きく音を立てる。水の表情は、しっかり兄の顔だ。たまにそんなふうに兄を出してくるから、水はズルい。

「……わかった」

 返事をする流の横で翼も頷く。ちらりと見た翼の表情はいつもと変わらないように見えるけれど、膝の上に置かれた拳がいつもより少しだけ強く握られているように見えた。

 少し、緊張してる……?

 二人に関係していることと言われると、思い当たることがあるのは流も翼も同じだ。むしろ水だってそうだろう。

「大丈夫だって。心配するなよ」

 水はニッと笑うと立ち上がって流と翼の背後に立つと、後ろから二人の頭をわしゃわしゃと強く撫でる。

「お前たちはひとりじゃないし、ふたりっきりでもない。オレも親父も竜もいるし、学院のみんなもいるだろ?」

 肩を並べて座る二人を背後からまとめてギュッと抱きしめるようにして水は言う。

「大丈夫だよ。大丈夫」

 言い聞かせるように水は呟いた。

 コンコンとノックの音が響き、水は二人から体を離すと「はーい」と答えながらドアを開ける。顔をのぞかせたのは奈子だった。奈子の後ろから圭斗がチラリと顔を出す。その目はキラキラしながら水を見つめている。

「ごめんね、お話し中。ちょっといいかしら?」

「大丈夫だよ。もう済んだ」

 奈子の言葉に水は返す。

「あら、そうなの?じゃあ、たいちゃんもう帰っちゃう?お夕飯食べてかない?」

 たいちゃんの分も作ろうと思って聞きに来たの、と続けた奈子に水はニコニコと言葉を返す。

「食べて帰るつもりだった♪というか、今夜は泊まって帰るつもりだった☆」

 ……なんだと!?

 話を聞いてちょっと身が固くなっていた流は、水の言葉に勢いよく顔を上げる。

「あらあら……そうなの?今空いてるお部屋ないから、誰かのお部屋に泊まってもらうことになるけど……」

 奈子は水越しにチラチラと流に視線を送ってくる。流はブンブンと頭を横に振って全力で拒否する。

 水と一晩過ごすなんて絶対ヤダ。

 水の寝相の悪さには、定評がある。子どもの頃、寝ている間に蹴飛ばされたのだって一度や二度ではない。それに水と部屋に二人っきりなんて、何を話していいかわからない……というか、十中八九じゅっちゅうはっく延々と水の話を聞かされるはめになるに違いない。

「宿泊には事前申請がいるぞ」

 奈子のさらに後ろ……廊下から、声が響いた。

「あ、研くん。おかえりなさい」

 奈子が身を引きドアが大きく開くと学院から戻ってきたばかりなのか、研太がネクタイを緩めながら室内へと入ってくる。

「家族が寮に宿泊するなら、事前申請がいるんだけど?」

 腰に手を当てて、少し睨むような目つきで研太は水に向かって同じ言葉を繰り返す。宿泊に申請が必要であることは、元寮生の水であればもちろん知っているはずだ。

「わかってるよそれくらい」

 ニコニコと笑いながら水は両手の人差し指をピッと研太に向ける。

「研のとこなら、申請いらないだろ?」

 確かに。寮則は寮生向けに作られており、それは寮監と寮母には適用されない。原則的なものはあるようだが、明文化はされていないらしい。

 視線と指先を向けられた研太は、肩を落として大きく溜息を吐いた。

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