第4話
「ふわぁ〜」
「犬みたいだなぁ」
「うるせー、犬じゃねぇ」
呆れたように言う
「最近ずっと眠そうだよな」
「う〜ん……そうだな……」
確かに、白昼夢を見て以来、夜も眠りが浅い日が続いている。寝付きも悪いが、寝付いたと思ったら、悪夢で飛び起きるという日も少なくない。だからと言って昼間の授業中にその分を取り返すこともできず、欠伸を噛み殺して授業を受けている。前の席に座る由稀は、流のそんな様子に気づいているのだろう。
「無理すんなよ?」
「ん。さんきゅ」
流と由稀は並んで廊下を歩いて昇降口に向かう。
「今日はどっか寄って帰るのか?」
「お!付き合う気になった?」
流の問いに由稀はにこにこと笑顔を浮かべ、腕を流の肩に回してくる。
「そうだなぁ……」
久しぶりに街に降りてみるのもいいかもしれない。
流が「うん」と返事をしようとしたところで声がかけられた。
「
振り返るとクラス担任がちょいちょいと手を動かしてこっちに来いと言う仕草をしていた。
……何だ?
そのちょっと渋い表情に
「お前、
「は?」
明るい栗色の髪とくるりとした黒目がちな瞳のせいで童顔に見られるが、流たちの担任である彼……
「……
流の後をついてきていた由稀が二人に問う。
「……兄貴だよ」
「で、オレとはダチなの」
研太はにっと笑って答える。唇の端から見える犬歯が可愛いと女生徒たちには人気だ。今も遠くのほうできゃぁーという声が聞こえる。
そう研太と流の兄・
「何で
「和久井先生と呼べ。お前たちが無視するから、オレのとこに連絡くるんだよ」
お前たち…という中には、翼も含まれている。
「……だって、水とメールすると長いんだもん」
「『もん』じゃねぇよ。ちゃんと連絡マメにしないから、長くなるんだろ?電話やメールが面倒なら、ハガキの一枚でも送っとけばあいつだって満足するんじゃねぇか?」
思わず小さい子どものように口を尖らせた流の頭を、研太は髪の毛をくしゃくしゃにしながら撫でる。
「ともかく。オレは伝えたからな!あとは自分たちでどうにかしろよ?」
どうにかしろよと言われても……
去っていく研太の背を見送りながら、流は思わず溜息が漏れた。
「はぁ〜〜」
気が重い……。
「何?お前の兄ちゃんそんなにめんどくさいの?」
「めんどくさいっていうか……」
流と八つ歳の離れた兄・
流は由稀と並んで話しながら昇降口に向かい、上履きを履き替えると校門へと向かう。
「あと、目立つんだよなぁ……」
そこにいるだけで目を惹くタイプの人間が世の中にはいる。例えば
「目立つ……あんな感じ?」
由稀の指差す方には、何やら人だかりができているようだった。
「そうそう……あんな感じですぐ人が集まってくるん……」
その
「げ……」
もういるじゃん……
思わず肩を落としてしまった流を責められる者はいないはずだ。
「あ!やっと出てきた♪」
どこか歌うような声音を前に聞いたのは、年末年始の帰省のときだっただろうか。
「ごめんねーちょっと通してくれる?」
その言葉に人だかりがサッと割れる。その様は、まるでモーセの海割のようだった。人並みをかき分けて人だかりの中心にいた男……
「遅かったじゃーん。兄ちゃんだいぶ待ったよ〜」
兄ちゃんなんて、流は一度も呼んだことがない。
「近々って話じゃなかったのか?」
思わず溜息混じりで言う流の言葉は、水にとっては柳に風なのかもしれない。
「あ。
……あんにゃろ。
大方水から連絡がきていたことを昨日か今日か思い出して、慌てて流に教えに来たのがさっきなのだろう。基本的にはしっかり者の良い兄貴分だけれど、研太はたまにそういうところがある。
内心大きな溜息を吐きながら、流は由稀へと向き直る。
「悪い。今日も無理っぽい」
「だな」
由稀は肩を竦めると「またな」と手を振って校門を出て、街の方へと向かっていく。流は「おう」と返事を返すと目の前に立つ兄に目を向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます