第43話 共同壊滅作戦11

源頼光の四人の部下『ライコウ四天王』の一人卜部季武うらべすえたけ。弓の名手であり、知力による頭脳戦も得意としていた。四天王唯一の女性であったが、古の時代女性は戦士になれなかったため、性別を隠すため男性の名を語っていた。


腰下まで延びる鮮やかなブルーの髪、ふわりと舞う天女のような薄いピンクの羽衣を纏ったウラベスエタケ覚醒の姿。風を操り、弓矢を得意とする。彼女の刀『痣丸ああざまる』はいくつかの型に変化するのが特徴である。


痣丸あざまる 変異弓の型へんいゆみのかた 円舞えんぶ 参射さんい


周りの空気が渦を巻くように右手に集まり空気が圧縮される。光の屈折度合が変わり矢が出現し藤那蓮樺ふじなれんかに目掛け矢が放たれた。


「えっ! 何なの!?」


藤那蓮樺を狙うには結界を避けなければならなかった。そのため矢は結界を避けるために3本の矢を左右上の3方向に放物線を描く軌道で放ったのだが、全ての矢は結界に吸い込まれていった。


「私の矢は物理的な矢ではなく、陰陽力による術矢。風などには影響しないはず。まして3本全てが軌道を外すはずがない」

「もしかして、この結界・・・重力結界・・・? この位置から射るのは無理だ」


この時、公園東エリアから七転のチームが近づいてくるのが見えた。


重力結界とは、結界内の重力を大きくし、中にいる物を圧し潰す術である。結界の外でもその影響は受け、近づくと結界に吸い込まれてしまうのであった。

本来結界とは魔物から身を護る魔除けの術であるが、藤那蓮樺から見ると五芒星は逆五芒星、まして死霊の血肉で描かれているため結界の威力は大きく結界を破るのは困難であった。ライコウ達が黄泉の国へ封印された術はこの重力結界を強力にしたものであった。


「あなたがここにいたのは最初から分かっている」

「私がこの力を得たのは全てあなたのおかげ。能力の開放トリガーはその弓で射られ死ぬことだった。1000年前に受けたあの痛み、苦痛を思い起こさせること」

「この藤那蓮樺、神鬼四天王の1人である星熊童子ほしくまどうじはあなたには感謝している」


「ぐぅ、圧し潰される・・・ 俺たちは結界に閉じ込められたようだ。この結界内の重力がどんどん大きくなってきている。動けるやつは結界内から出るんだ」


月ヶ瀬が指示をしたが、動けるのは脚が特殊肉体である口鬼だけであった。口鬼はタクマ担ぎ上げた。


「何するんだ!? お前だけでも早く逃げろ」


口鬼は何も答えず、体制を低くし飛び上がる体制を取った。


「さすがの俺の脚でも、何歩も動けねぇ、お前を担ぎ全体力を一回の跳躍に集約する」

「この術を使う奴、まだ始末できてねぇ・・ まして俺が生き残ったって、俺がどうかできる相手でもねぇ」

「お前でしか倒せねぇよ。後は頼んだ・・・」


”ゴゴゴゴゴォォォ”


「地面が割れていくぞ」


「いや違う!口だ!口が開いた!この結界内のですべてが飲み込まれるぞ」


「逃げるんだー! この結界から出るんだ! 生き残れ!!」


月ヶ瀬の叫びが響く。


”ぐわぁ”


大きくて不潔でものすごい悪臭の獣の巨大な口は、そこにいた全員を飲み込んだ。

口鬼は冷静であった。獣の舌を踏み台にしてタクマを担いだ状態で上空高く飛び上がった。跳躍が頂点に達したところでタクマは放し体を反転させ、タクマを結界の外へ大きく蹴り出した。

口鬼は全ての力を使い果たし、獣の口の中に落ちていった。


公園東エリアを調べていた七転は、北エリアの空間が歪んでいることに気づいた。月ヶ瀬へ無線連絡するも応答はない。


「北エリアで何か起きてる。急いで向かうぞ!」


「待ちなさい」


そこに、ウラベスエタケ覚醒が現れ行く手は阻んだ。


「なんだてめぇー。ひらひらした格好して・・女か?」


「五行陰陽師の隊員や十鬼は重力結界の中です。おそらくあと数分で圧し潰されてしまうでしょう。これ以上近づくと、あなた達までも結界に引きずりこまれてしまいます」


「そんなもん、行ってみねぇーと分からんだろうが。俺は兄貴を助けに行く」


舌鬼ぜつきが走り出そうとした瞬間、ウラベスエタケ覚醒は弓を引いた。


「舌鬼、やめるんだ。この人はライコウ四天王の一人、卜部季武さんだ」


七転が止めに入った。


「ドサッ」


そこに上空からタクマが落ちて来た。舌鬼はタクマの襟をつかみ上げ、口鬼の存否を声を荒げて聞くが、タクマは無言のままであった。


公園北側の空間の歪みは消え、辺りは静まり返った。


ウラベスエタケ覚醒は今回のことは藤那蓮樺を逃していた自分のせいであると責任を痛感していた。


第3章 ―完―

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