第31話 平安の刻

「古事記とか日本書紀は多少知っとるかと思うが、そこでは語られない歴史があるんじゃ」


紅龍はそう前置きし語り始めた。


国生みの神、伊弉冉尊いざなみのみことは自ら産んだカグツチの炎により死亡。

黄泉の国にて、夫伊弉諾尊いざなぎのみことの裏切に合い、復讐のため伊弉諾尊いざなぎのみことの作った人間を滅ぼす計画を立てた。

伊弉冉尊いざなみのみことは体内のうじを世に放ち、蛆は人の悪想念を栄養にして成長し魑魅魍魎ちみもうりょうとなり人間を襲い始めた。後に伊邪那岐イザナギと呼ばれる、カグツチの血から生まれた神々の力を持つ特別な8人の人間は魑魅魍魎を退治し人々を守り、その力を人々へ伝え、使う者は陰陽師と呼ばれ、その筆頭は安倍晴明という青年だった。

安倍晴明率いる陰陽師は魑魅魍魎を一掃し、戦いに終止符が打たれるかと思われたが、伊弉冉尊いざなみのみことは黄泉の国から、後の鬼の一族の始祖八閻山やえんざんとなる八雷神やくさのいかづちのかみと、自分の肉体を切り刻み世に放った。その肉体は人間を滅ぼす為の最強最悪の軍団、五神鬼ごしんきと呼ばれた鬼の酒呑童子しゅてんどうじ茨木童子いばらきどうじ星熊童子ほしくまどうじ金熊童子きんくまどうじ虎熊童子とらくまどうじ熊童子くまどうじが誕生した。

伊邪那岐は五神鬼に対抗すべく、伊弉諾尊いざなぎのみことの剣から5つの刀を造り、武人源頼光みまもとのよりみつと4人の家臣、渡辺綱わたなべのつな碓井貞光うすいさだみつ卜部季武うらべすえたけ坂田金時さかたきんときを中心に五行陰陽師ごぎょうおんみょうじという戦闘部隊を創り人間の行く末を託した。その剣はかつてイザナミを死に追いやったカグツチを首を斬り落とした伝説の剣、十束剣とつかのつるぎであった。


源頼光達と五神鬼の戦いは、死者の血肉により大気を淀ませ、大地を腐らせて行った。鬼を倒す前に国が滅ぶのを阻止するため、安倍晴明は帝を説得し伊邪那岐と八閻山に休戦協定を結ばせ、黄泉の国の門を開き源頼光と家臣を五神鬼と共に黄泉の国に落とし、門は封印されたのであった。その後鬼の一族は帝から東北の地が与えられ沈黙を続けた。


数十年後、平安の世は栄耀栄華を極めた。

世に平穏が訪れ、人々はこの世を謳歌していた。

だが、その裏に潜むごうの姿・・・

作られ、捨てられていく物。弱きを虐げ、力を振るう豪族。淫靡いんびな色香に溺れる、貴族。

安倍晴明は京の都を見下ろせる場所から、欲のたがが外れた平安京の人々の姿を見て呟いた。


「紅龍殿、鬼の一族との戦いに終止符を打てた。だが、私が目指した『国生み』とは、これだったのか・・・?」


この言葉以降、晴明の姿は二度と見ることはなかった。


戦国の世になると陰陽師は表舞台から姿を消していた。乱世に乗じて鬼の一族は人界に紛れ、戦にてその強さを発揮し地位を築いて行った。そして彼らは、政治、経済の中枢にまでも入り混んで行った。

伊邪那岐、五行陰陽師は帝の直属秘密組織として、残存していた魑魅魍魎を退治し今もなお秘密裏に活動している。


「晴明殿は人の本性の醜さを嘆き、自分のしたことに疑問を抱いていたため、この時代を終わらせ新たな時代を作りだそうとしているのかもしれないのぉ」


紅龍のこう言うと、ライコウが言った。


「俺はまだこの世界のことは少ししか分からん。しかし、ここまでの時代に間違った行動や選択があったかもしれないが、自由に物が言え、やりたいことができる、誰でも政治にも参加できるこの時代は立派なもんだろう。晴明の野郎がどう思おうと、自分の思う世界と違うからって、国をぶっ壊すっていうのは納得できねぇな」


「そもそも、俺様を1000年以上もあのくせえー黄泉の国へ閉じ込めた恨みを晴らさんと気がすまねぇし」


「晴明ぶっ倒して、この国、この時代俺様が守ってやるよ。あのクソ鬼どもぶっ殺さないといけないし」


ライコウは熱く語った後、ミナトが聞いた。


「あのーちょっとお聞きしたいですが・・・それってボクの体でやるんです」か?・・・やるんでよね」


「あったりめーだろ! それ俺様のからだなんだから。鍛えとけよ小僧」


「ライコウの封印も解け、酒呑童子までも復活しているとすれば、残りの四天王や神鬼も現代にいるってことだよな」


タクマが紅龍に聞いた


「そういうことになるじゃろう」


「レイナ、五行の方で情報ないのか?」


「一人あるっちゃあるんだけど、ちょっと厄介で・・・」

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