第26話 横浜事件2

全日本自由経済連合会、通称全自由会は日本の代表的な企業、業種別団体、経済団体から構成される日本最大の総合経済団体。その影響力は国内外の政治にも及んでいる。


会場の中には300名程の出席者と数名の来賓と思われる者が壇上に着座し、全自由会会長柳田の挨拶が始まろとしていた。会場後方には白銀の長い髪の男、九条紫郎くじょうしろうが扉に寄りかかるように立っていた。


進行役と思われる黒スーツに銀縁メガネの男が壇上にあがりマイクに向かった。


「本日はお忙しいところ全自由会定期集会にご出席ありがとうございます。私は本日の進行役を務めさせていいただきます金山と申します。よろしくお願いいたします。皆様方のお力により、我ら種が世を創り、そして支配し続け、ご繁栄をお祝い申し上げます。本来なら会長の柳田からご挨拶させていただくところなのですが、本日体調不良とのことで代理にて先般隣国である華国かこくとの北海道開発協同事業を取りまとめにご尽力いただきました西園寺さいおんじ様よりご挨拶を頂戴いたします。」


会場が騒めいた。出席者のあちこちから、西園寺が次期中央執行部候補らしいと声が聞こえていた。


「ただいま紹介に与りました西園寺昌さいおんじあきらです。こうして皆様方にお目見えするのは初めてではありますが、以後お見知りおきをお願いいたします。本日は皆様へお話させていただきたいことがございます。人間はいつの時代も己の都合で、万物を破壊し、奪い合い、差別し、虐殺すらも行う、そして自らそれを非難し反対勢力を成す。それにより一部の人間が権力を誇示し富を独占しています。私はそのような愚行を繰り返す堕落した種を常に嘆いており、そして、その堕落した種の上で鎮座ちんざしほくそ笑んでいるあなた方一族の種に対しては嘆く以上にあわれみさえも感じております」


唐突な西園寺の話に対して、出席者はどよめき、次第にそれが罵声に変わった。それと同時に彼らの顔はどす黒い緑色や茶褐色に変化し頭部には突起状の物が盛り上がってきた。そうここにいる種とは鬼の種である。彼らは普段は人間と見分けがつかないが、怒りや恐怖の感情が姿を異形に変型するのであった。


「鬼の形相とはよく言ったものですね。その醜い異形の姿、黄泉の国では人気出ますよ」


西園寺はそう言いながら、数枚の紙のような物を手に持ち、それを出席者に向かいほおり投げた。


悪業罰示式神あくぎょうばっししきがみ  急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう


西園寺が唱えると、その紙を突き破るように無数の悪霊が出現し、出席者を次々に襲いかかり食いちぎられ、食いちぎられた体は灰となって消えていった。


「助けてくれー!俺らはただの下っ端なんだからぁー」


出席者は次々に襲いかかる悪霊から逃げるため扉に殺到するが、扉の前には九条がいた。


「どけーそこの長髪野郎! ぶっ殺すぞー!」


数十人が九条に飛び掛かるが、九条は虫を掃うがごとく吹き飛ばした。吹き飛ばされた者達はそのまま悪霊の餌食となり灰と化した。


「さすが九条くん。力をものにするのが早いですね。後かたずけはお願いしますよ」


西園寺は九条と目を合わせた後、金山と一緒に壇上から引き揚げて行った。


その頃レイナのヘリを横浜アリーナ近くの鶴見川河川敷に着陸させ、アリーナ前でタクマの到着を待った。レイナは画面を見て焦った。


「今までとは違う次元が力の反応だわ・・・タクマが到着しだい突入するけどミナトくんはここから離れないでね」


遠くから、タクマのバイクの音が近ずいて来た。

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