第12話 柳田という男

時はさかのぼること数か月。


都内某所、人気の少ない一軒の料亭の前で待つ黒塗りの車。


誰が見ても、一般人を待っているのではないのは分かる。


店の中から、数人の男が辺りを警戒しながら出てくる。


安全を確認したのかその後に一人の老人が現れ、待っている車に乗り込んだ。


その老人の名は柳田。裏で政治を操っていると言われているフィクサーの一人。


運転手はその老人に行先を確認せず、すぐまさ車を出した。


「金山、なぜそんなに急ぐ」


老人は運転手に尋ねる。


「はい。よからぬ噂を耳にしたもので・・・」


「噂?・・・」


老人は考え込んだ。


「十鬼があなたのお命を狙っているとのことです。」


「はぁ?なぜ、十鬼が私を狙う。ワシは奴らの飼い主じゃぞ。」


柳田は知らなかった。自分はその標的になった事を。


「その噂の真意は今確かめております。はっきりするまで安全な場所でお過ごしいただくのが得策かと。」


柳田は金山の用意してあったボトルワインをグラスについで口にし、


「分かった。君の言う通りに・・す・・する・・」


柳田は、そのワインを飲み干すまえに、意識を失いシートに倒れた。


「ほぉー。さすがあの人が用意した酒だ。これ人間が飲んだら即死なんだろうな。」


そう言いながら金山は車を走らせた。


数時間後、


「んー・・・ 寝てしまったのか・・・。」


柳田は真っ暗な部屋の中で目を覚ました。


「金山、金山、ここはどこだ?明かりをつけてくれ。」


「お目覚めになられましたか?」


と金山の声がすると、部屋に薄暗い明かりがついた。


「ここはどこだ!? 」


コンクリートに囲まれた部屋。柳田は天井から吊り下げられた鎖に両腕が繋がれていた。


「なんなんだこれは・・・。金山 金山。」


柳田は叫び続けた。


薄暗い部屋は隅々まで見渡せることはできないが、柳田の前には大理石でできた大きな


テーブルとその上に布で覆われた何かがあった。


部屋の扉が開き、男が一人入ってきた。


「手荒い真似をして申し訳ありません。しばらくご辛抱ください。」


柳田は状況を把握できていなかったが、このような鎖を引きちぎるぐらい容易と思っていた。


「お前が何者だが知らんが、こんな鎖で私をどうかできると思っているのか?」


柳田は大きくゆっくりと息を吸い、全身に力を込めると、全身に筋肉盛り上がり、鎖を引きちぎろうとしたが鎖はまったく切れなかった。


「何故、何故切れない。まさかこの鎖・・・陰陽の陽力ようりょく・・ お前何者だ。」


「ご挨拶が遅れました。私は西園寺昌と申します。」


「西園寺?。お前のことなど知らん。目的はなんだ!?」


「私のこと覚えていらっしゃいませんか? 残念です。八閻山やえんざんといえども千年も経つと忘れっぽくなるんですかね? 強鬼ゴウキ。いやカグツチ六番目の神、羽山津見神はやまつみのかみさん」


柳田の表情が変わっていった。見開いた瞼から押し出されるほどに眼球は巨大化し、額は変形し3本の角に変形した。


「ほぉー。八閻山きっての武闘派強鬼。懐かしいお姿にお目にかかれました。何年ぶりですか?そのお姿。」


「何故? その名を知っておる。貴様、まさか!?・・・」


「思い出されましたね? ご無沙汰しております。ご足労いただいたのにはお願いがあるんですよ。」


「お願いという割に、この扱いは何なんだ!この鎖を外せ」


西園寺は柳田を無視し話を続けた。


「今、私のところにある遺物があって、それらを本来あるべきところに返したいのです。」


といって、机に上の布の下にある巨大は動物の爪か角のようなものを柳田に見せた。


一瞬にして柳田は大量の脂汗が噴き出た。それほど彼にとって恐怖するものであった。


「そ、それをどこで見つけた・・? やめろ、すぐにお前の術で封印しろ! さもなければこの国は滅ぶぞ。」


「それが目的なんですよ。この腐れ切った国を再始動させるんです。『国生み』です。」


西園寺は刀を抜き、柳田の頬に合わせた。


「私の体は傷つけられないのは承知だろ? そんな刀で何ができる。」


西園寺は柳田の頬を切りつけた、傷口からは蛆がぼろぼろ落ちる。柳田はその痛さに絶叫した。


「その刀・・・ 何故お前がそれを持っている・・・」


「我ら一族を切ることができるのは、伊邪那岐イザナギの刀。その5本すべては封印されたはず・・・」


西園寺は丁寧に答えた。


「これは伊邪那岐の刀ではありません。その証として何故、あなたの傷口から蛆がこぼれている


のですか?」


「これは、あなたたち種族をすべて無に帰すことができる刀、伊邪那美イザナミの刀なのです。」


「遺物の躯を見つけるため、あなたたちの蛆が必要なんです。申し訳ありませんが蛆一匹たりとも逃さず回収させていただきます。」


人間の体内に蛆を混入させると人間は変異し、邪鬼や餓鬼に変化するが、ある種の人間はその蛆を取り込み、遺物の躯体となるのである。そのため西園寺は大量の蛆が必要であった。


「やめろ、やめてくれ。蛆なら自分で出せる。それを使えばいいだろう。」


「そんな待ってられないんですよ。あなたが死んでしまうと蛆も死んでしまうんで、それでは困るんです。」


懇願する柳田に、西園寺は刀を振り下ろした。


柳田の体は真っ二つになり、その肉片は蛆へと変わっていった。


「金山さん。この蛆一匹たりとも逃さず確保して下さいね。」


「まじすっかー。これ気持ち悪いんですよ。虫苦手なんすからっ!」


「何いってるんですか、あなたの体のこれで出来たのですよ。」


金山は何も言い返せなかった。

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