第4話 祭りの準備

バイクが立ち去った後、神社の前に一人の男がふらふらと歩いている。


「ゲ・・・」「ゲゲ・・・」

と、口元からよだれをたらす男。

意識は無く人形のように何かに引き寄せられて歩いている感じ。

この男、繁華街で西園寺に何かをされた男であった。


「匂う・・・」「匂う・・・」

目の色は無く空ろに独り言のように喋る男。


みこと』の匂い・・・」

たたずむ男。神社の白壁に映る影は、異形の影。


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神社の境内、地元の人達が祭りの準備の手伝いに来ている。


「ぎゃはは!何だよその顔!」と地元のおじさん。


「・・・」

ミナトの顔は絆創膏が付き、腫上がっている。クミの鉄槌を食らったのであった。

「スミマセン。手伝ってもらってるのにこんな顔で・・」


「かまわねぇよ!『エセかん』らしいじゃねぇかw」

「そうそう。『エセかん』だからね~」

大工道具や柱、板など持って、『神楽の舞』の舞台設営を手伝っている街の人達がミナトをからかった。

ミナトは地元の人達から可愛がられていた。



ミナトはその人達にお茶を運んできている。


「何ですか?その『エセかん』って?」とミナト。


「何やっても失敗するし」

「怪しいもん作ってる神主だから『エセかん』!」


「そんな呼び方しないで下さい!」


「いいじゃねぇかw面白れぇし!」


「ぼくはちゃんとした『神主』です!」


「すねるな、すねるな!ちゃんと手伝ってやっからよ!」

「なんたって、今日は年に一度のクミちゃんの『神楽の舞」』が、見れる日だからな!」


「そうそう!かわいいモンな~クミちゃん!」


「あれが見れると不思議と元気になるモンな!」


「あれこそ御利益ってやつだよな!」


「兄貴は二人ともダメだけどな!」


「頑張ってますよ俺は!」

「・・・」 ため息をつくミナト。

「・・・そんなに俺『才能』無いですかね?」

ミナトは問う。


「才能?」


「タクマ兄ィにも才能無いって言われたし・・・」


「才能ね~~~」


「俺は大工になったけど、昔は才能ねぇって、よく親方に怒らたけどな?」


「俺はバンドやってたけど、才能無いって思ってやめたな~」


「おれは実家継ぐから夢はあきらめたな~」


「俺は釣りの才能ありますよ!毎回大物取ってくるし!」


「嘘付け!毎回旦那が店で買ってくるっていってたぞ?」


「え?バレてんの!?」

みんなの笑い声が境内に響いた。


「・・・」ミナトは考え込むような表情をいていた。


「お前さんが言ってる『才能』が、何なのかは知らねぇけど、用はお前さんがそこで何をやりたいかって事じゃねぇの?」


「・・・やりたいこと・・・」


地元の人は続けた。

「『才能』なんて最初はなからわかってりゃ苦労しねぇけどな」

「『才能』あってもそれが楽しい事ってのとは違うだろ?」

「それとも『神主』やってんのが嫌なのか?」


ミナトは答えた。

「俺は好きですよ?」

「だって、ここには『夢』があるし」


「夢?」地元の人はさらに聞いた。


ミナトはキリっとした表情で

「夢を願うために通る場所・・・」

「ここは、人の希望がいっぱい詰まってるんです!」

「その夢の手伝いが出来るなんて嬉しいじゃないですか!」



「じゃあ宝くじ一等当ててくれ!」

「俺!ギブソンのレスポールが欲しい!」

地元の人達は笑いながら言った。


そういうの聞くのは辛いです俺に言われても・・・」

と困り顔のミナト。


「わはは!お前さんらしいよ!」


その様子を見ていたクミが微笑んでいる。


「じゃあ、『夢』のために、今日の祭りは盛大にしねぇとな!」


「・・・はい!」とミナトは元気に答えた。



舞台を造っていく街の人。


飾り付けをしながら、コードに絡まって笑われるミナト。


昼飯を持ってきてくれる、奥さん達。


篝火かかがりびが炊かれる。


神社に日が暮れていく・・・

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