第2話 ミナト

街外れの山のふもとの神社。

地理的には、狭山湖に沿っており、周りは畑や、田んぼが広がっている。


そこにある『神鳴かみなり氷川神社』と言う、めいを刻んだ石碑。

手入れはされているが、古くからあるような感じで、コケや、ひび割れ

が多く、雰囲気をかもし出している。

枯れ木が多く、神社の瓦屋根には落ち葉が降っている。


季節は秋。

境内に様々な神事で使う『神器』などが虫干しされている。


そこへ荷物を運んでくる白衣に浅黄あさぎ色袴の青年。この神社の神主の堂本ミナトである。

早くに両親を亡くし、この神社の跡継ぎとして神職についている。

4つ年上の兄と2つ年下の妹がいるが、兄は素行が悪く、どこかで喧嘩でもしているのかいつも傷が絶えない男であった。


落ち葉には集められ火が付けられているようだ。


横には、水を入れたバケツ。

ミナトは、桐の箱を置き、汗を拭って、

「これで全部かな?」

「今日は『大切な日』だからな~」

「晴れてよかった!」


天を仰ぐミナトであった。


「ちょっと休憩するか。そろそろ焼けたかな~?」

「あちち!」

と、焚き火に棒を突っ込むミナト。


そこに、老人が参拝に訪れる。

参拝に来た老人は青年に声をかけた。


「今日も精が出るね、ミナト君」


ミナトは、その声に気づく。

「おはようございます!」


老人はにこやかな表情で声をかける。

「いいねぇ。焚き火かね」


ミナトはその老人に

「近所からサツマイモを頂いたんで、焼きいも作ろうと思いまして」

「吉永さんもどうです?」


老人は不思議そうに

「かまわんが・・・」

「あれは新手の虫干しかね?」


「うわあああああ!!」

ミナトは思わず叫んでしまった。


見ると、虫干ししている神器からパチパチと音を立て、煙が上がっている。

あわてて、バケツに入った水をかけ火を消す堂本ミナト。

「うわ・・せっかく虫干ししてたのに焦げちゃった!」

と、巻物を手にとった。


「おや、それは?」

老人は興味気に尋ねると、


「あ、これですか?」

ミナトはパサリと巻物を広げると、そこには1人に武将の画が描かれていた。

「今日は特別な日なんで、色々飾って見ようと思いまして」


老人はその画を指して

「ああ、『源 頼光よりみつ』の絵だね」


ミナトはその画が今まで誰なのか分かっていなかった。


老人は続けた

「昔話に出てくる鬼退治をした武将じゃよ」

「刀を一振りすれば雷鳴が轟き、その威力雷光の如く刀術の達人だったそうじゃ。」

「それ故、雷人らいじんと呼ばれ、名前と相まってと呼ばれていたそうじゃ」

「実在の人物かどうかはよくわからんけどな」

「君のおじいさんが家宝だと自慢しとったよ」


ミナトが繁々と『源 頼光』の絵を見ていた。

「へえ・・・」

「って!?これ家宝なんですか!? “焦がしちゃった・・・”」


老人は笑いながら

「ははは!ミナト君は相変わらずじゃな」


そこに3人の子供たちがやってきた。

「や~い!エセ神主が神社燃やした~~!」

「エセ神主の罰当たり~~~!」


ミナトは大きな声でしかりつけた。

「誰がエセ神主だ!!」


子供たちは

「エセ神主が怒った!!」

「逃げろ~~!!」


ランドセルを背負った登校途中の小学生が、境内を横切り逃げていった。


ミナトは途中まで追いかけた。

「たく!ここは通学路じゃないだろ!」

「通るなら、お参りしろってんだ!」


老人は

「お祭りごとや風習も廃れてきたからねぇ」

「昔は事あるごとに神様に感謝するのが慣わしだったが、

今はお願い事をするのが普通になった。」

「これも時代の流れなのかね」


「そういえば、今日だね『氏神祭り』」

虫干しの神器を見て、ふと気づく老人。


ミナトは老人に

「はい!」

「年に一度の『特別な日』ですから」

「ぜひ来てください!」

「そうそう!お祭りの目玉にしようとこんなの作ったんです」

「みんな幸せになれるように『大吉』ばかりで作ったんです!」

「どうです?」

ミナトが見せたのは手書きの『おみくじ』であった。


そこにさっきの子供たちがまた現れ

「うわ!手書きだって。詐欺だ!」

「やっぱりエセ神主だ!」

「馬鹿神主だ!」


子供たちの声にショックと驚きの表情を見せるミナト。

「お前ら学校に行け!」


「エセ神主が怒った!」

「逃げろ~~~!!」


老人にこやかにその様子を見守っていた。


「手作りのほうが心がこもってると思うんだけどな・・」

ミナトがこう言うと、


老人は

「まあ、ミナト君らしいね」

「『氏神祭り』は寄らせてもらうよ。」

「『おみくじ』はさておき、ミクちゃんの『神楽かぐらの舞』は、毎年の楽しみだか

らね」

と、言って老人は立ち去る。


手を振り見送るミナト。ミクとはミナトの妹で神社で巫女みこをしていたのである。


ミナトは『おみくじ』を持ちながら、神社の境内を見てため息をついた。

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