第76話馬と犬

「いやー、まさか松風がこんなに美しく成長してるなんて思わなかったよ!」

僕は学食でスペシャルセットを食べている。

スッポンやウナギ、山芋やマムシなどの精力のつく食材を惜しげもなく使用した、夜のアスリート向けのランチだ。

ちなみに値段は金貨一枚、ザベスさんの奢りだ。


「そんなご主人も雰囲気変わったわね! なんか大人の余裕が出来たみたいな?」

僕たち三人はザベスさんの力で学食内にある個室で食事をしている。

三人とは僕とザベスさん、それから生き別れになった松風だ。


「ご主人さま? この巨大な生物は何者ですの?」

ザベスさんが松風に敵意まるだしで聞いてきた。


「紹介するね! この子は松風、僕の相棒だった馬だよ。」

ーー馬と言っても、今は身体の大きい女の子だけど。

最初は僕にも誰かわからなかった。

しかし、艶のある長い髪やしなやかな足の筋肉、それからニメートルを超える身長。

本人から松風だと聞いて納得してしまった。


「馬って、どうみても人間にしか見えませんわ……。」

ザベスさんが言うのもムリはない。

馬が人間になるなんて、普通ではない。

しかし、松風は何か相当な努力をして人間の身体を手に入れたのだろう。


「そうね、確かに今は人間の身体だけど、わたしは馬よ。全てミズっちのおかげよ!」

松風はその大きな胸を張って言った。

ーーデカい乳だな、エスパー伊藤が中から出てきてもおかしくないレベルだ。

いつかあの胸の谷間に全身で挟まってみたい。きっと新たな扉が開けるだろう。


「ミズっち?」

ザベスさんが松風に質問する。


「そうよ、相当なお金持ちで、頭が良い女の子よ。わたしにこれをくれたの!」

松風は胸の谷間に手を突っ込んだ。


「おお!! すごい、規格外だ!」

僕は松風の胸にくぎ付けだ。


「じゃじゃーん! ドラゴラムステッキ~!」

松風は谷間から魔法少女が持っていそうな杖を取り出した。


「ドラゴラムステッキ? なんですの、それ。」


「これを使えば、人間は他の動物に、動物は人間になることが出来るの! 相当な魔力が無いとムリだけどね!」

松風がステッキに頬擦りしながら説明した。

僕の股間のブラックドラコンステッキもすりすりして欲しい。


「すごいね、そんな魔道具を作れるなんて、ミズっちさんに僕もあってみたいな!」


「今は不在にしてるわ。仕事でどこかに行ってるから。ご主人には帰って来たら紹介してあげる!」

さすが松風、頼りになるな。

いつか僕もすごい発明をしてみたい。


「ところでご主人さま? この子とは、どういった関係ですの?」


「わたしとご主人は恋人なの! ご主人が浮気して、わたしは家出してたけど迎えに来てくれたから許してあげる!」


ボキボキッ!


松風が僕にくっついてきた。

おそらくあばらの骨が何本かおれた。


「痛いよ、松風。きみは力が強いんだから、もっと優しくしてよ。」


「あっ! ごめんなさい! つい嬉しくって……。」

松風が離れてくれた。


「いいんだよ、すぐに治るから。でも良かった、また松風に跨がって草原を駆けてみたいな!」


「そうね! わたしもご主人とお散歩に、行きたいわ!」

僕と松風は上手く仲直りできた。



「松風が良ければまた一緒に住みたいな。どう? 来てくれるかい?」


「ええ、もちろん! ご主人と一緒なら何処へだって行くわ!」

ーー家に馬小屋を作らないと。後でザベスさんにお願いしよう。


「ちょっとお待ちを! ご主人さま? もしやこの女をペットにするおつもりですの?」

ザベスさんは何か気に入らない様子だ。


「まってよザベスさん、もともと松風は僕の馬だ。いわばザベスさんの先輩だよ? 松風に失礼な態度はやめろよ。」

犬は上下関係にうるさい。しっかりと順番をつけなければ気がすまないのだろう。


「あらぁ? もしかしてわたしとご主人の絆の深さに妬いているのかしら?」

松風がザベスさんを煽った。


「ぐぬぬぬ! 松風さん、そのステッキ、ちょっと貸して貰えないかしら?」

ザベスさんが松風からステッキを奪うようにしてとった。


「ご主人さま、この女に乗らなくてもわたくしがご主人さまを背中に乗せて差し上げますわ!」

そう言うとザベスさんはステッキに魔力を込め始めた。


「あ! ちょっと、なにかってに使ってるのよ!」

ザベスさんが光に覆われた。

どんどんシルエットが小さくなっていく。


「ワン! ワン!」

ザベスさんはチワワみたいな小型犬になった。


「おお! すごい、ザベスさんが遂に身も心も犬になった。良かったね、ザベスさん!」


ザベスさんも喜んでいるのか、僕にくっついて尻尾を振っている。


「ハッハッハッハッ!」


僕はザベスさんを抱き抱えた。


「ちょっとご主人、また浮気するきなの?」

松風が怒って近づいてきた。

殴られでもしたら、全身粉砕骨折間違いなしだろう。


「ま、まってよ松風! そうだ、今日からまたブラッシングしてあげるよ! 帰ったら寝るまで一緒にいよう、ね?」


「ほんと!? やったわ! 約束よ?」

ーー松風が単純な子で助かった……。


ーー

僕たちは放課後にまた合流して一緒に帰る約束をして食堂を出た。


ーー


「おーい、おまつさーん! どこに居るんですかー?!」

遠くで獣人の勇者が誰かを探しているのが見えた。


「ザベスさん、元の姿に戻らないと授業受けるとき不便じゃない?」

教室の前までザベスさんを抱えて来たが、そろそろ戻って欲しい。


ボフンッ!


ザベスさんから煙が上がり、人間の姿に戻った。


「ご主人さま、これでわたくしも正式なペットとして認めて頂けますか?」

ザベスさんが期待の目で僕に聞いてきた。


「何を言ってるんだ、ザベスさんは前から僕の大切なペット、そう言ってるじゃないか!」


「ご主人さまぁー! ハッハッハッハッ!」

ザベスさんが抱きついて僕のほっぺをペロペロ舐めてきた。


「くすぐったいよ、ザベスさん!」

人間と犬、種族は違えど互いに理解し尊重し合うことで深い絆が生まれるーー

僕は人間と動物はそうやって共生出来るのだと改めて実感したーー



ーーーーーー

ーーーー




「ここがご主人のおうち? なかなか立派じゃない!」

放課後に松風と合流し、家の前についた。


「でしょ? 自慢の我が家さ!」

やっとの思いで手に入れたマイホームを褒められ、僕も鼻が高い。


「ワン!」

ザベスさんも嬉しそうだ。

今はまた犬の姿になって僕に抱えられている。


「それじゃ入ろうか。僕の家族に紹介するよ! 松風は外で待ってて!」

僕は家の中に入った。


「ただいまー!」


「お帰りなさい。ダイくん、さっそくだけどお話したいことが……あら?」

マァムさんが玄関でお出迎えしてくれた。

ザベスさんを見て何か考えているようだ。


「ダイくん、その犬……。」


「え? ザベスさんがどうかしたの?」


「ごめんなさい、やっぱりわたし疲れてたみたい。ずっとその子が人間に見えてて、それで話をと思って……」

マァムさんは最近悩んでいるようだった。暗い過去がそうさせていたのだろう。その原因を作った僕には償いをする責任がある。



「マァムさん、いままで負担をかけすぎてしまってごめんなさい。マァムさんの辛い過去、僕にも半分背負わせて下さい。僕の人生をかけてマァムさんを幸せにします!」



「ダイくん……ありがとう、わたしは何を悩んでたのかしら。ダイくんはこんなにも誠実で、わたしを愛してくれているのに。」


「おわっ! マァムさん!?」

マァムさんが抱きついて僕にキスをした。

思わず股間が反応してしまう。


「……今日は寝かせませんからね?」

ーー望むところだ。


「ご主人、まだー?」

外から松風の声がする。

完全に忘れていた。


「そうだ、マァムさん。僕の新しい家族を紹介しますね! いいよ松風、入ってきて!」

松風が姿勢を低くして玄関から入ってきた。


「ダイくん……? その子……!」


「紹介しますね。この子は松風、僕の愛馬です!」

マァムさんが顔を青ざめさせて震えている。

ーー松風はでかくて威圧感があるからなぁ……。


「ご主人の恋人の松風です。みんなにはお松って呼ばれてます、よろしくお願いします!」

松風は丁寧にお辞儀した。


「ダイくん……なんで……。」


バタンッ!

マァムさんが倒れた。


「マァムさん? マァムさん、マァムさーんっ!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る