第69話三人の王
「報告します! 現在クルム領を占拠した第二魔師団が獣王直轄軍による奇襲を受け、国境線まで押し戻されました!」
「……ご苦労、下がって少し休め。」
「はっ! ケン王様! 万歳!」
ーーちっ!けもの風情が小癪な手を使いやがって!
「面白いことになってきたわね?」
ユリアンヌがにやけながら言う。
「ふんっ! 所詮時間稼ぎにしか過ぎん。人属の国が滅ぶのも時間の問題だ。」
「それもそうね。自分の国が攻められて、領土北側をとられてるのに王都の様子はまったく変わらない。人王もその官僚たちも危機感が無さすぎるわ。」
「心配すべきは獣属どもだ。あやつら、人属の国を乗っとるつもりだぞ。」
ーー獣属は長らく中立を保ってきた。しかし、数年前に王が代わってからはどうもきな臭い。力こそ正義だった国が搦め手を使うなど、どうにも気に入らない。
「ミッキーといったかしら? ネズミの獣人が王になるなんて、想像もしていなかったわ。」
歴代獣王は猫の血を引く獣人が就任してきた。しかし狡猾な手法で子どもと女性の人心を掌握したネズミの獣人により、長い歴史の変換が起こった。
「さて、どうでるか……。」
まずは薄汚いけものどもをどうにかしないと。
「せっかく潜り込ませたあの子たちも、どうやら必要なかったかもね?」
「ウヌが勝手にやっていることだ。好きにせい。」
ユリアンヌのいたずらにも困ったものだ。後始末する身にもなって欲しい。
ーーはぁ……誰か魔王代わってくれないかなぁ……。
ーー
「いやぁ~、それにしても見事なお手まえでしたぞ、ミッキー殿!」
「いやいや、これもマッシュ王の素早い決断があってこそですよ、ハハッ!」
「今回は本当に助かった。次も頼みましたぞ! ところでそちらの方は……?」
「あぁ、紹介がまだでしたね。妻のミニーです。以後お見知りおきを。」
「ミニーです。マッシュモット家とマウス家の友好のために、わたしも全力をつくしますわ!」
「これは頼もしいかぎりですな! どうぞこれからもよろしくたのむ。」
「美しいでしょう? 自慢の妻です。約束していたシンディラ城も妻に任せるつもりなんですよ! ハハッ!」
「……国王様? 約束とは……?」
宰相が人王に質問する。
「言っておらんかったか? 我々の友好の証としてシンディラ城をこのミッキー殿に差し上げる事になっておるのだ。」
「国王様、お言葉ですがそうしますとシャラポワ侯爵はどうされるおつもりで?」
「此度の戦でクルム侯爵が討ち死にしおった。あの地を任せようと思っておる。」
「そ、それは……。シャラポワ侯爵は納得されておるのですか?」
「なんだお主、ワシの決定が気に入らんのか?」
「い、いえ! そう言うわけではございません! しかし……。」
「マッシュ王さん? 大丈夫なのかな? すでにボクの配下が荷物を持ってシンディラ城に向けて出発してるんだけど?」
「おぉ、ミッキー殿はご心配なさらず。すぐにでもシャラポワを異動させますからに。」
「頼んだよ、マッシュ王さん。それじゃ、ボクたちは帰るとするよ! またね!」
ーー
「それにしても、バカな王さまよね? この国はあと何年もつのかしら?」
「仕方ないよ。長いこと侯爵たちに任せっきりだったんだ。彼だけの責任じゃないさ。」
「それもそうね。……ところであなた、豹の一族から嫁をとるって本気なの?」
「うん。どうしても獣属全体を掌握するには血筋も必要だからね。第二夫人として迎えるつもりさ。」
「でも、あのメス猫、身重で帰って来たらしいじゃない。本当にいいの?」
「妻と言っても形式的なものだからね。用が済んだら適当に始末するよ。」
「そう、ならいいわ。早くシンディラ城に住みたいわ! 楽しみで夜も眠れないのよ?」
「焦らなくても城は逃げないよ。もう少しさ。もう少しで全てが手に入るんだ……。」
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