第65話悪魔の馬再び
「な……なんだあの馬は……。」
ーーオレの名前はジャスティス、獣王国から魔法学校の入試に来た。
入試と言っても、オレは特待生枠で受験するので最初から受かっているようなものなのだが。
ここ国立ホグワッツ専門学校は特殊な能力や輝かしい成績を残した者を特待生として受け入れている。
最近では、エイオングループ会長が魔道具分野の発展に寄与した功績で特待生になった。
オレは過去に獣王から認められ、勇者認定を受けた。
獣王国には学校がないため、勇者として必要な知識を得るため、見聞を広げるために獣王からの命を受けやってきたのだ。
われわれ特待生枠の試験は簡単な体力測定、魔力測定をやる事になっている。
体力と魔力は測定具を使えばすぐにわかるが、試験の体裁をとるためと、測定具では測れない特殊性を持った能力を見極めるために行なわれている。
オレは体力測定のために学校のグラウンドに来ている。
今回の特待生はオレを含め四人だ。
しかし、その中に馬がいるのだ……
「あの、すみません。」
「ん? なんだい?」
「なぜ受験者の中に馬がいるのですか?」
オレは試験官に質問した。
「あぁ、彼女は高い知能をもっていてね、人と意志疎通出来るんだよ。魔獣と人との関係を変える可能性を秘めているんだ。」
ーーなるほど、つまり実験体として使うつもりなんだな。魔獣愛護団体に目をつけられないよう学生の身分を与えてしまおうということか。
「わかりました。ありがとうございます。」
オレは試験官に礼をして試験の準備をすることにした。
ーー最初の試験は百メートル走だ。受験者全員が一斉に測定する。
競争ではないが、虎の獣人のオレにかなうやつなどいないだろう。
「ようい、ドン!」
試験官の合図で走り出した。オレは試験だからといって、手を抜くつもりはない。
身体強化魔法を使い全力で走った。
パカラッ! パカラッ!
「なにっ!?」
ーーあの黒い馬が、オレの前を走っている。
あり得ない! オレは世界最速の男だ! 負ける訳にはいかない!
ーーオレはリミッターを外し、さらに加速する。身体への不可が大きいが、致し方ない。それほどまでに勇者の使命は重いのだ。
パカラッ! パカラッ! パカラッ!
「うそ……だろ……?」
ーーリミッターを外しても追い付けない。むしろ離されていっている。
「松風さん、四秒六ニ……ジャスティスくん、五秒一八……ニタフィーくん、十三秒九一……」
ーーちくしょう! まさかオレが負けるなんて……。人生で初めての敗北だ……。次は負けないぞ!
ーー次は魔力測定だ。
一人ずつ順番に魔法を藁でできた的に向かって放ち、その効果を確認するものだ。
純粋な魔力だけでなく、魔法の特殊性も評価されるため、どんな魔法を使っても問題ない。
「シャドウストーカー!」
ニタフィーくんとやらが使ったのは追跡魔法だ。ターゲットを秘密裏に追跡し、離れていても居場所がわかってしまう。
試験官の一人が的を動かし、校内に隠した。
「二階の東側、女子トイレの真ん中の個室にあります。」
「正解だ。だが、なぜ女子トイレだとわかったんだ? 校内に入ったこともないはずなのに。」
「校内の施設には事前に全て入りました。追跡魔法を使うには、地形を熟知している必要があるので。」
「全ての施設とは、あの建物にも入ったのか?」
試験官が指差す先には三階建ての女子寮がある。もちろん男子禁制だ。
「もちろんです。全ての部屋に入りました。」
ニタフィーくんは試験官に連れられて行った。
「つぎ、ジャスティスくん。」
「はい!」
オレは身体強化魔法しか使えない。しかし、元々の筋力に加え、魔力も獣属の中ではトップクラスだ。藁の的など吹き飛んで計測出来ないだろう。
「ウオォォッ!」
ビリッ! ビリビリッ!
ーー身体全体の筋肉が隆起し、服が破れた。
シュオンッ! シュオンッ! シュオンッ!
「な……なんだあのオーラは!」
オレは魔力を極限圧縮し、身体に行き渡らせた。
膨大な魔力が身体から外に漏れだし、金色に輝いている。
普通の人間なら身体が耐えられず筋肉細胞が壊れてしまうが、オレの鍛えあげられた身体がそれを可能にしている。
「
オレは的から離れた場所で地面を殴り付けた。
ビキビキビキッ!
地面にき裂が走り、衝撃が的まで辿り着くと粉々に砕け散った。
「な……なんて威力だ……的まで三十メートルはあるぞ!?」
驚くのも無理はない。オレの拳はダイヤモンドよりも硬い。身体強化しなくても最強なのに今回は魔力を全開放した。
「まぁ、こんなものか。」
オレは予め用意しておいた替えの服を着ると、後方に下がった。
「ブルル……(あいつ、なんでわざわざ服を破ったのかしら? 人間は頭が悪いわね。)」
「つぎ、松風さん。」
「次はあの馬か。お手並み拝見といこうか。」
オレは腕を組んで後ろから見届ける事にした。
どんな魔法を使うか知らないが、オレの身体強化魔法にかなうやつなどいない。
せめてオレを失望させないでくれよ?
ドガアァァァンッ!
学校全体に大きな音と衝撃が走った。
「な……なにぃ!?」
見るとグラウンドにはクレーターが出来ていた。半径五十メートルはあろうか。
ーーな……何が起きたんだ? 一瞬あの馬が黒い魔力で覆われたように見えた。あの馬がこれをやったのか?
なにも見えなかった……。
「すごい音ね! ビックリしたぁ! 何が起きたんですか?」
どこからか黒髪の若い女がやって来た。試験官となにやら話している。
「かっ、会長! これはですね……特待生の魔力測定試験で……その……。」
試験官は女と馬を交互に見ている。
「ふぅーん……。」
女は試験官の目線を追い、馬を見つけた。
「せんせい? わたしは学生です。会長なんて呼ばないで下さい。」
「も、申し訳ありません!」
「敬語も禁止です! それよりも……。あなた、ちょっといいかな?」
女は馬に語りかけた。
「松風さんっていうのね。なんでこんなところにいるの?」
「ブブルル……。」
「……うん……うん……へぇー……なるほどね。ひどい男もいたもんね! わかったわ、わたしが手助けしてあげる!」
ーーなんだ? あの女、馬と会話できるのか!?
「せんせい! 松風さんをちょっと借りるわね!」
「は、はい! どうぞ!」
そう言うと、女と馬はどこかに行ってしまった。
「なんなんだ、いったい……。」
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