第64話受験

「ダイさん、受験票は持ちましたか?」


「はい、これです。」


「筆記具と消しゴム、予備はありますか?」


「はい、三つずつあります」


「それから、あとは、えーと……」


「御守りも持ちましたよ。」

ーーボクはマァムさんが作ってくれた赤い御守りを大事に胸ポケットにしまった。


「準備は良さそうですね! 途中まで一緒に行きます。」


「わたしも行きます!」

ーーマァムさんとカナンが受験会場入口までついてきてくれた。


「いいですか? 時間が余っても、もう一度見直しをちゃんとするんですよ?」


「はい! マァムさん、わかりました。」


「兄さん! わからない問題があっても空欄のままにしたらいけませんよ? ご褒美のためにも頑張って下さいね!」


「わかったよカナン。頑張るよ!」

僕が合格出来たら、カナンが特別な夜のサービスをしてくれるらしい。


「ご褒美とは、何のことですか?」

マァムさんが目を細めて僕を見ている。


「まぁいいです。今は試験に集中して下さい。」

ーー危なかった……。


「マァムさん、カナン! 全部出しきって来ます!」


「「頑張ってねー!」」

二人がずっと手を振ってくれている。

ーー大丈夫、あんなに勉強してきたんだ、うまく行く!

ーー思えば二人には沢山のものを貰った。マァムさんからは生活費と教材を、カナンからは上の口の処女をーー

二人に報いるためにも、絶対に合格しなければ。

僕は確かな足取りで受験会場に入った。


ーー「それでは今から試験を始めます。回答時間は百ニ十分、途中退席した場合は戻る事は出来ません。それでは、開始!」

ーー試験は国語、数学、歴史の三教科だ。それぞれ五十問ずつあり、記述式になっている。最初は国語からだ。


ーー問1、次の古文を現代語訳しなさい。


「今日レよヵ∠─ナニ∧″ナニょ」

ーー国語はボクの苦手科目だ。得にギャル語と言われている古文には苦労させられた。

マァムさんが「ギャル語大全」という一冊金貨三枚もする参考書を買ってくれなければ、太刀打ち出来なかっただろう。


「今日はカレーたべたよ、っと。」


ーー問54、次の文章を読み、式と答えを書きなさい。「貸玉四円のパチンコがあります。Aさんは三万円使い、九千発出しました。換金したところ、千五百円勝ちました。さて、換金率はいくらでしょう。」

ーー次は数学だ。数学はボクの得意分野で、機械割りや合成確率など、はっきり言って暗算で解くことが出来る。


9000×換金率=31500

換金率=31500÷9000

換金率=3,5 答え3,5

楽勝だ。はっきり言って勉強しなくても解ける。


ーー問122、二千年代四K有機ELテレビ『ビエラ』を発売した会社は?


ーー最後は歴史の問題だ。機械文明時代の問題が多いのだが、こちらも基礎知識でどうにかなってしまう。


「Pアナソニック、と。」

僕は試験開始から三十分も経たずに全問解き終わった。

今さらだが国語以外勉強する必要は全くなかった。

この四ヵ月間ほぼギャル語の勉強をしていたと言っても過言ではない。

はたしてギャル語を覚えたところで使い道はあるのだろうか。そして、四ヵ月も勉強する必要はあったのだろうか……。


ーー


「なんだかソワソワしますね……。」


「なんでマァムさんが緊張してるんですか。僕の試験ですよ?」

おかしくて少し笑ってしまった。


ーー今日は合格発表の日だ。

試験会場だった場所に合格者の受験番号が貼り出されるので、マァムさんとカナンを連れて確認に来たのだ。


「兄さんの受験番号は何番ですか?」

カナンが聞いてくる。


「0721だよ。」


0721おなにい0721おなにい……」

カナンが卑猥な言葉を口に出して僕の番号が無いか探している。

おかげで周りの男たちが前屈みになってしまった。

決して前のめりに番号を確認してるわけではないだろう。


「あ! ありました! 兄さん!オナニーです!」

カナンがひときわ大きな声でオナニー言った。


「あぁ、よかった……!!」

マァムさんが両手で顔を覆い涙を流してしまった。

僕はカナンの爆弾発言のせいで嬉しさが込み上げて来ない……。試験も簡単だったし……。


「二人とも、本当にありがとうございました。二人の手助けが無ければ、合格することは出来ませんでした。」

僕は二人に対して頭を下げた。むかし冒険者ギルドのミロさんが使っていた九十度のやつだ。


「兄さん、とてもきれいなお辞儀ですね。」

カナンが感心している。

むかし練習してよかった。


「今日はみんなでゴハン食べに行きましょう。盛大にお祝いしなきゃ!」


「マァムさん、そんないいですよ。二人と居られれば、いつも通り家で食べましょうよ。」

マァムさんは今日は仕事が休みだ。

合格したらお祝いするからと言って休みにしてもらったらしい。

僕はマァムさんが夜も一緒にいるだけで満足なのだ。


「ダイさん、お金の心配ならいりませんよ。ちゃんと準備しておきましたから。」

ーーそういう問題ではないんだけどな……




僕たちはその後、三人で飲食店に向かった。


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