第63話マァムの過去

ーーわたしには沢山の兄妹がいたーー




十年前ーーわたしが十五歳の頃ーー


弟が六人と妹が三人

みんなお父さんは違うけど、お母さんから産まれた兄妹たちだ。


「マァムねーちゃん! ちょっときてー!」

弟のポップがわたしを呼ぶ。

男の子組では一番上で、今年で十一歳だ。


「ごめんなさい! 洗濯物を干してるの! ちょっとまって!」

わたしは洗濯物を干し終え、ポップの後ろについていった。

「どうしたの? こんな裏道に呼び出して……」

ポップは家を出て、家の裏まで来てしまった。


「あのね、ねーちゃん……。これ! 受け取って!」

ポップはそう言ってわたしに薔薇の花を一本差し出した。


「まぁ、キレイな薔薇ね! ……どうしたの?」

わたしの誕生日は十二月だ。今は九月だし、くれる理由がわからない。


「母ちゃんがね? ねーちゃんも十五だからそろそろ男を作ってる頃だって……。ねーちゃんが他の男のものになるなんて、イヤだ! ねーちゃん! オレと結婚してよ!」

まさかの弟からのプロポーズにどうしたらいいかわからなくなった。


「あのねポップ。私たちは兄妹なの。結婚なんてしなくても、絶対に切れない絆で結ばれてるわ。」

ポップが不満そうな顔をする。


「オレだって子どもじゃないんだ! 母ちゃんが知らない男とセックスしてるのだって知ってるんだぞ! そーいうのが嫌なんだ!」

ーーそっか……まだ子どもだと思ってたのにな……。


「もっと大きくなって、自分でお金をかせげるようになったらまたきなさい? その時は考えてあげるから。」

わたしはポップのおでこにキスをしてその場を去った。


ーー


「シェリーさん! 娘さんをボクに下さい!」

家に戻ると知らない男の人がいた。

お母さんとなにやら会話している。


「あなた、わたしとやることヤったくせに良く言えるわね。わたしでガマンしなさい。もう一発ヤらせてあげるから。」

ーーまただ。

お母さんはわたしをだしに男を連れ込んでいる。

わたし目当てで接触してきた男をお母さんは言いくるめて自分の男にするのだ。

男はわたしに気づくと気まずそうにお母さんと家の中に入っていった。

次は男の子か、女の子か……


「はぁ……。サイテー……。」

わたしは年上から好かれる。それこそお母さんと同じくらいの年の男たちにーー


「結婚するなら、だんぜん年下だわ……。」

あんな男たちと弟たちのどちらを選ぶかと言われれば、だんぜん弟たちを選ぶ。

ーーこうしてわたしはブラコンに目覚めていった。


ーー


「ねーちゃん! オレ、学校に行きたい!」

ポップは急にそんなことを言い出した。


「どうしたの? 急に……?」

今までそんなことを聞いた覚えはない。


「オレ、官僚になる! 官僚になって、ねーちゃんを嫁に貰って、弟たちに好きなモン買ってやるんだ!」

ーーそういうことか。

受験するなら勉強しななければならない。

すぐに諦めると思い、一冊の参考書を買い与えた。

ーーこの一冊だって金貨一枚はするのだけれど。


ーーしかし、わたしの思惑どおりにはいかず、ポップは諦めることはなかった。

買い与えた参考書はボロボロになり、ちり紙を拾って来てノート代わりにしていた。


「……ごめんなさい、ポップ……。」

新しい教材を買ってあげたい。

しかし、家は貧乏だ。

お母さんは魔法学校の教師なので、それなりにお給金は貰っている。しかし、家は大所帯だ。それに最近お母さんの男遊びがエスカレートして、借金しているのでは? と疑っている。

ーーむかしのお母さんは優しかった。よく魔法を教えてくれたり、一緒にご飯を作ったりしていた。

しかし最近は仕事以外は男と遊んでいる。



ーーそんな時だった。

お母さんの仕事中、一人の男が家にきた。


「マァムさん。ちょっといいかな?」

男は小太りで、イヤらしい顔でわたしに話しかけてきた。


「すいません。弟たちがいるので。」

わたしは無視して家に入ろうとしたーー


「おこづかい、欲しくないかい?」


「……いくらくれますか?」

わたしは男の話しに乗ってしまった。



ーー


「いっ!? 痛い!!」


「はぁ……はぁ……マァムちゃん!! うう! イク!!」


ーーわたしは金貨一枚で、純潔を売ったーー


「ポップ! はいこれ! 勉強ガンバってね!」

わたしは帰りに新しい参考書を買って帰った。


「ねーちゃん? どうしたの? これ……お金は?」


「あなたはなにも気にせず勉強しなさい!」


「ありがとう! ねーちゃん!」

ーーこれでよかったのだ。弟の笑顔を見てわたしはそう思うことが出来たーー


「ねぇ、マリオさん。もうちょっとお小遣い貰えないですか?」


「どうしようかな-? 迷うな-。」

この男はケチだ。最近は金貨一枚すら渋りはじめている。さすがにそれ以上安くは出来ない。わたしにだって、プライドがある。


「ごめんなさい、マリオさん。わたしたちの関係は今日で終わりにしてください。」


「え!? まってよマァムちゃん!! あんなに愛し合ったのに! どうして!?」

ーーこの男はもう終わりだ。

もっとお金を持っていて、もっと扱いやすい男を探そう。

ーーそうしてわたしは、夜の街で男を探した。

ーーそうしているうちにわかった事がある。

わたしは童貞に執着されるのだ。わたしで童貞を捨てられるならいくらでも金を積む。

それに慣れた男にリードされるより、わたしが童貞をリードした方が早くことが終わる。

そうしてわたしは童貞を、それもだいぶ拗らせたおじさんを狙う事にした。


「ただいまー。」


「お帰りなさい! ねーちゃんどこ行ってたんだよ!」

わたしは初めて朝帰りをした。

性欲が強い男がいて、多めにお金を払うからと帰してくれなかったのだ。


「ごめんなさい、仕事が忙しくて……。ちょっと眠らせてもらうわね。」

弟たちを心配させてしまった。もう朝帰りはやめよう。

ベッドに向かうと、わたしの前にポップが立ちふさがった。


「あら、ポップ……。どうしたの? 勉強は?」


「ねーちゃん。オトコ臭い。」

そう言ってポップは自分の部屋に戻って行った。

ーー今のはかなり胸に刺さった。しかし、とても眠い。起きたら考えよう。

ーーそうして起きた時には、ポップはいなかったーー


「どこに行ってしまったの? ポップ……」

ーー今日は受験の日だ。ポップはまだ帰って来ていない。

受験会場の入り口でポップを探すが、見つからなかったーー

そしてわたしは、この街にポップがすでにいないことを理解したーー


ーーその後お母さんは生徒に手を出して、先生をクビになった。

弟たちは孤児院に預けられ、里親を探す事になった。

最初はわたしが弟たちの面倒を見ようと思っていたが、お母さんがすでに同意書に署名したあとだった。


わたしは王都から離れて冒険者になった。

それからというもの、三十路童貞を見つけてはもてあそんでいる。


ーーまるで男たちに復讐するかのようにーー

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