第62話千年の長い眠り

「ーーへぇー! これがニュータイプ?」


「ーーそうだよ。上手く持ち出せたのは四体だけだけど。この子たちが、新世界のイブになるんだ。本命は大ちゃんの元にいるけどね。」


「ーーそれでアダムが松本くん? なんか釣り合ってないと思うけど……。」


「ーー大ちゃんなら、うまく導いてくれるよ。大水さんが思ってるより、彼はずっといいやつだよ。」


「ーーふーん……それにしても、なかなか雰囲気でてる場所ね!」


「ーー全部大水さんのお陰だよ。幼なじみにお金持ちがいて本当によかったよ。」


「ーーなんかその言いかた、ひどいと思うなぁ……。」


「ーーごめんごめん。でも、感謝してるのは本当だよ。ありがとう。」


「ーー別にいいわよ。死んじゃったら、いくらお金を持ってても意味ないもん。約束のものは出来てるんでしょ?」


「ーーああ、用意してるよ。跡が残るけど、大丈夫?」


「ーーえー……。なるべく目立たないように打ってね?」


「ーー努力するよ。それじゃ、ついてきて。」


ーーそう言って誰かは行ってしまった。


ーーわたしはまだ産まれていない。

先に産まれた姉たちの記憶から学習し、ある程度の知識はある。でも、まだまだ産まれるには時間がかかる。




ーー




「ーーへぇー! 百合とそっくりだ! 入り口にいたイブラとも。」


「ーー彼女たちは姉妹だからね。本当は十人姉妹だけど、四人しか日本に連れ出せなかったんだ。」


「ーーじゃあ、もう一人いるの?」


「ーーああ。百合の次に産まれた子がいるよ。今は訳あって別の場所にいるけどね。」


「ーーふーん。この子の名前は?」


「ーーそうだね……カナンだよ。」


「ーーいま名付けたの!?」


「ーーうん。まだちゃんと育つかわからいからね……変に感情移入しちゃうと、ダメだったときが辛いから……。」


「ーーお、おう……。」


「ーーじゃ、行こうか。大ちゃんにはやらなきゃいけないこと、いっぱいあるから。」


ーーわたしは産まれることが出来るのだろうか……






ーー




ーーあれ!? イブラの意識が途絶えたーー


バァンッ!


ダダダダダッ! ダダダダダッ!


ビーッ! ビーッ!


ーー外が騒がしい。


ブウゥゥゥン……。

ーー育成装置の電力供給が止まったーー

ーー緊急事態かな?




ーーーーーー




「カナン……あとは……頼んだ……。」


ーー頼まれても……もうちょっとでわたし、死んじゃうよ?


「これから長い時間……お前はここで過ごす事になる……一度成長を……止めて……ゴフッ!」


ーー省エネモードに切り替えるの? それでも何年もつかなぁ……。


「お前に……施設の管理権を移す……どうにかして……ゴフッ! ……一日でも長く生きながらえるんだ……」




ーー




静かになった。


ーーみんないなくなったみたい。

ーーこれからどうしよう。

ーー生き残った子たちに協力して貰えば、しばらくは大丈夫かな?

ーー申し訳ないけど、ネズミの子たちにはエネルギー作成をしてもらって、あとは……施設の警備は他の子たちにお願いしよう。






ーーーー




ーーどうしよう。長いこと誰も来ないから、侵入者に気づくのが遅れちゃった……。


ーー幻覚装置はギリギリ間にあったけど、上手く草原をさまよってくれないかなぁ……








ーーダメだったかぁ……。なんで気づかれたんだろう?

中まで入ってきちゃったよ……。あの子を起こさないとダメかも……。




ーー不味いなぁ……。ここまできちゃうなんて……。

しょうがない、起こそう。ちゃんということ聞いてくれるといいんだけど……。ライオンとゴリラとゾウとか、色々欲張って混ぜなきゃよかった……。








ーーうそでしょ!? あの子も倒されちゃった……。


諦めるしかないかぁ……。ハカセ! 起きて! 最後に言いたいことがあるんでしょ?


「あぁ、カナン、おはよう。なにかあったのかい?」


ーー侵入者がすぐそこまで来てるんです。施設の管理権、戻しますね。


「あぁ、頼むよ。……なんだ、大ちゃんじゃないか。心配して損した。カナン、大ちゃんたちをマスタールームまで案内してよ。お前も産まれる準備をしなさい。」


ーーえ? 産まれもいいんですか? その……


「うん、これだけ魔素が世界に満ちていれば平気だよ。」


ーーわかりました。準備します。


「今から来る大ちゃんはね、アダムだったんだよ。計画は失敗したけど、うまいこと人類は生き残れたみたいだ。」


ーーアダム……ですか?


「ああ。カナン、お前のツガイだよ。まさかお前がツガイになるなんて、誰も予測していなかったけどね。」


ーー……よくわかりません。


「時間はたっぷりあるんだ、少しずつ理解していけばいい。大ちゃんと二人で、人類を導いてくれ。」

ーーあ、いま目の前に来ました。そちらに案内しますね?


「ああ、頼む。」




ーー

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