第61話旅の途中

「……う……っく……ふっ……」

ーー今日もカナンに慰めて貰った。


「おちつきましたか? 兄さん。」

カナンが全て飲み干すとゆっくり立ち上がり、正面からボクの後ろに手を回して易しく抱きしめてくれる。

五分くらいしてボクが完全に落ち着くと、一緒にベッドに入り抱き合って眠る。

ーー最近はこうしないと眠りにつくことが出来なくなってしまった。

ーーボクの記憶を辿る夢も遺跡から戻った後からは一度もみていない。

ーーもう少しで謎が解けそうなのにな……

だんだん意識が遠のいてくる……


ーーそれにしても、なんでカナンはこんなに尽くしてくれるんだろう……?


ーー焼け野原となった街を後にして南に向かう途中、僕はカナンに色々尋ねたーー


「カナンはボクが来るまでずっとあの中で眠ってたの?」


「そうです。最低限の生命維持だけにして、エネルギー消費を限りなくゼロにしていました。」


「眠る前の記憶はあるの?」


「少しだけならあります。わたしの姉たちの記憶ですけど……」


「お姉さんがいたの?」


「はい。ぜんぶで十人いて、わたしが末っ子です。わたしを含めて四人があの場所にいました。そのうち三人は互いに記憶を共有していたので、ダイさんに会ったこともありますよ?」

もしや百合とも姉妹なんじゃ? 顔がそっくりだし。


「カナンの記憶の中の僕は、なにをしてたかわかる?」

ーーもしかしたら夢の中以外で情報を得られるかもしれない。


「そうですね。よくわたしたちを口説いてました。」

ーーマジかよ……あの頃のボクは三十歳とかだろ!?

犯罪じゃねーか!


「なんて……口説かれたの……?」

ボクは聞いてはいけないことを聞いてしまった。


「わたしはおこづかいあげるから、一緒に食事にいかない? って言われました。」

誘拐かよっ!


「はだかを見せてくれたら一万円あげるよ? って姉は言われてましたね。」

それはアウトやろ!


「で、どうしたの?」


「一万円の意味がわからなかったので、服を脱ぐくらい問題ないですよって言ってました。」


「それで、お姉さんは脱いだの? 変なことされなかった?」


「はい。服を脱ぐとダイさんはパンツを下げて自分のアソコをこすってました。」

クソ野郎だな! ブン殴りたい。


「それ、ちゃんと親に言った?」


「いえ。二人だけの秘密だって言われたので……それに親はいませんし。」

ーー聞くと彼女たちはずっと試験管の中で生活してきたらしい。

一番上の姉だけが試験管から出て生活していたらしい。

ーーおそらく百合のことだろう。


「なんでキミたちは試験管の中にいたの?」


「わかりません。気づいたらあの中にいたので……」

ーーマッドサイエンティストの渡邉が人体実験をしていたのだろう。

許せん!


「そっか……カナンはこれからは自由に生きなさい。やりたいこと、行きたいところがあれば全力で応援するよ!」


「ありがとうございます。おねがいします。」


「それから、僕のことはお兄さん又はおにーたんと呼びなさい。お前はこれからボクの妹だ。」


「はいよろしくお願いします。兄さん。」

カナンは微笑んだ。


「お、おう。」

ちょっとキュンとしてしまった。黒髪美少女の笑顔は破壊力がハンパない。


ーー「戻りましたー。あら? なにかあった?」

マァムさんが戻ってきた。

僕たちは交代で川に身体を洗いにいっている。


「はい。兄さんとむかし話をしていました。」

カナンが答える。


「……兄さん……?」

マァムさんがボクを笑顔のままみてくる。

ーーな、なにもやましくなんかないぞ!?


「カナンはボクの妹みたいなものですから。そう呼ぶように言いました。」


「そうですか……それなら二人とも、これからわたしのことは姉さん又はおねーたんって呼んでくださいね?」

確かにマァムさんはお姉さん属性だ。そう呼ぶのもやぶさかではない。


「はい! よろしくお願いします。姉さん。」

カナンがマァムに頭をナデナデして貰っている。

ーーいいなー。


「マァムおねーたん! ボクもナデナデしてほしいな!」

マァムさんの手が止まった。


「ダイさんごめんなさい。あなたは今まで通りに呼んでください。」

マァムおねーたんにはボクのかわいさが伝わらなかったようだ。


別の日ーーーーマァムさんが水浴びに向かったあとーー


「カナンやい? なにかして欲しいことはないかい?」

ボクは妹思いのお兄ちゃんだ。カナンが心配で心配で仕方がないのだ。


「特にはありません。あったら自分から言うので……毎回聞かないで貰えますか?」

なんと、カナンが反抗期に入ってしまった……

涙が出てきた。親の気持ちが少しわかった気がする。


「兄さん、泣かないで下さい。ごめんなさい、少し言い過ぎました。」


「ぐす……カナンはわるぐないよ……ボグがしづごいがら……」


「ごめんなさい、なに言ってるかわかりません……」

そう言いながらカナンは僕の頭をなでてくれた。


「カ、カナン!」


「きゃっ!」

僕はカナンを抱きしめた。かわいい妹だ。僕が幸せにしてやる!


「兄さん……一つだけしてみたい事があります……」


「なんだい? 僕に出来ることなら、なんだってするよ?」


「恋がして……みたいです……」

カナンが顔を紅くしながら言った。

ーーその時、僕の息子が反応した。


「わたし……ずっと試験管の中だったから……そういうの……あこがれてて……」


「その願い、兄ちゃんが叶えてやるよ。今から兄ちゃんの事だけを考えるんだ、いいね?」


「はい……わかりました……」

ーー僕はカナンの着ている白いワンピースのあいだから手を入れて身体をまさぐった。

身体は正直だ。性的に気持ちよくされれば、その相手にメロメロになるだろう。


「兄さん、くすぐったいです……」


「そのうち気持ちよくなるよ。恋をするためには必要なことなんだ。」


「ダイさん……なにをしてるんですか……?」

後ろをみるとマァムさんが立っていた。

笑顔なのに笑っているように見えない。額には青筋が浮かんでいる。


「えーとですね……。カナンが気持ちよくなりたいって……。ね? カナン?」


「兄さんには恋がしてみたいと言いました。」


「ダイさん……こっちにきなさい? ……ここに正座して?」


「ひゃっ……はいっ!」


ーー僕はその後マァムさんに二時間ほど説教された。


「ちょっとだけドキドキしました……。これが恋なのでしょうか……?」

カナンはその間に少しだけ性的に大人になった。

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