第49話ビッグウォーター
「ほんと、どこなんでしょうね。」
マァムさんがにこやかに言った。
「マァムさん、落ち着いてますね。」
僕はちょっぴり不安になっていたが、マァムさんの顔を見たら落ち着いてしまった。
食われたおっさんたちも、この笑顔にさぞ癒されたことだろう。
まさに聖母そのものだ。
「こんなんで動じてたら冒険者なんかやってられんぞ?」
パパスさんが僕に言った。
さすがヤリチン、数々の修羅場をくぐり抜けてきたのだろう。
「しかし、どこまで行っても草原しかないな。」
パパスさんが言う通り、かれこれニ、三時間は歩いている。しかし、いまだに草原から抜け出せないでいる。
「ちょっと休憩しませんか?」
歩いてもきりがない。頭の中を整理するためにも一度休憩したい。
「そうですね、さすがにわたしも疲れてきました。」
「よし、ここで一度休憩だ!」
パパスさんが宣言した。
「それにしても妙だな。いつまで経っても太陽が登ったままだ。」
「それ、僕も気になってました。」
僕は草をむしりながら言う。
どうすれば根っこごと抜けるか試行錯誤中だ。
「もしかすると、ここはダンジョンなのかもしれないですね。」
「ダンジョンですか?」
マァムさんに聞き返す。
「はい。この世界には機械文明の時代に作られた地下施設があるそうです。中には強力な魔獣が生息しているものもあるようで、そういった施設を総じてダンジョンと呼ぶんです。」
マァムさんはこのパーティーでは説明キャラのようだ。ヤリチンと僕ではマァムさんしか適役がいなかったのだろう。
「何故そう思うんです?」
ここはどう見ても地上だ。太陽だってあるし、草も生えている。
お、きれいに草を抜く方法がわかったぞ。
「聞いた話の状況と酷似しているんです。入り口の装置に触れると転移してしまったり、人工的に作られた自然があったり。ここも明らかに不自然でしょう?」
確かに。先ほどから草を抜いているが、その下には鉄のような物が埋まっている。明らかにおかしい。
「ダイ……お前の下のもんは何だ?」
パパスさんが僕の手元を見て言った。
「ああ、草をむしってたら出てきました。」
ーー
「ファイア!」
マァムさんの火属性魔法で草を燃やす。
うん、いい感じに燃えている。
でも、こっちまで火が回って来てる。
「おい、不味いぞ! 逃げろ!」
火は草原全然に燃え広がろうとしている。
僕たちは逃げたが火の回りは予想以上に速い。
「ウォーター!」
マァムさんが魔法を唱えると手元から水が吹き出した。
しかし、ホースの水やり位にしか水が出ないのでなかなか火が消えない。
「マァムさん! もっと水出して!」
「ごめんなさい! 水属性は苦手なんです!」
マァムさんも少し焦っている。
「やむを得ん! ビッグウォーター!!」
パパスさんがリュックから青い水晶を取り出し、そう唱えると水晶が輝きだした。
パパスさんの手元から水晶が天高く飛んでいき、やがてバケツをひっくり返したような水が空から降ってきた。
回りの火は消え、モクモクと煙だけが上がっている。
僕たちはおかげで水浸しだ。
「助かりました、パパスさん。今の何ですか?」
「ああ、今エイオンで人気の消化用具でな。家が火事になった時に使うんだ。ちょっとの魔力でこの威力、すごいだろ?」
そんなものがあったなんて、さすがエイオンだ。
一個金貨五枚するらしいが、それだけの価値はある。
「エイオンって、何でも売ってるんですね。」
「なんでも今のエイオングループ会長自ら開発したものらしいぜ? 商品名も自分の名前からとったものだそうだ。」
なるほど。エイオングループ会長はビッグウォーターさんと言うのか。
「会長さんはすごい人なんですね!」
「すごいなんてもんじゃないぜ? 年若い女の子だそうだ。」
僕は頭の中で会長さんを想像してみた。
スーツにメガネをかけてノートパソコン片手に颯爽と歩くキャリアウーマンが浮かぶ。
「会ってみたいです!」
想像するだけで二杯はイける。
「王都の魔法学校に行けば会えるぞ! 魔法の研究をしていて、今はキングウォーターという回復魔法のこもった水を作ってるらしいぜ!」
仕事をしながら学校に通うとは、なんて上昇志向の強い人なんだ。ますます好感が持てる。
「魔法学校か……いいかも知れないな。」
僕は冒険者ギルドに入る際に魔力がずば抜けて高いと言われた。マイさんにも強くなるには身体を鍛えるか魔法を覚えるかだと言われた。お金と気持ちに余裕が出来たら受験してみよう。
「ダイさん、魔法使いになりたいんですか?」
マァムさんが食い付いてきた。かなうならば食べて貰いたい。
「はい。でも、マァムさんの好きな方の魔法使いには、もうなれないんですよ。ははは。」
照れてるように見せて自慢した。
僕は童貞じゃないもんね!
「あらそうですか」
マァムさんが淡白に答えた。
僕は選択をミスったようだ。
「おい、これ見てみろよ!」
パパスさんの示す方を見ると焦げ後から鉄の地面が見えている。
巨大な模様が彫ってあるように見えたが、どうやらパズルになっているみたいだ。
「これ、パズルですね。」
フム。ここは僕の出番みたいだ。
なにを隠そう僕はパズルが得意だ。
ルービックキューブも小六で一面を完成させた経歴を持つ。
「僕に任せて下さい!」
それから一時間。
僕は3×3のスライド式パズルを完成させた。
「こ、これは!」
なんと僕の亀頭にあるドラゴンの紋章じゃないか!
しかし、スライドさせるために抜かれた最後の一ピースがない。
「まん中だけ空白になってますね……」
僕はパズルのまん中に近づいた。
すると、パズル全体が淡く光だした。
「おい! 何がおきるんだ!?」
パパスさんが慌てている。
ゴオオオオオォ……
パズルのピースが横にスライドして穴が空いた。
階段になっていて下に行けるようだ。
「ダンジョン……ですね。」
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