第50話ダイの不思議なダンジョン

階段を降りた先はトンネルのようになっていた。

天井には照明があり、内部を薄暗く照らしている。


「なんか……出そうですね。」

僕はお化けが苦手だ。見たことはないが、存在していると確信している。


「ダンジョンには強力な魔獣がいると聞いています。出ると思っておいた方がいいでしょう。」

マァムさんも緊張しているようだ。


「はやくお宝見つけて帰ろうぜ! 今晩は約束があるんだ、行くぞ!」

パパスさんがスタスタと歩いて行った。

おそらく奥さんと何か約束しているのだろう。


「待って下さい! もうちょっと慎重に行きましょう!」

僕とマァムさんは急いでパパスさんを追いかける。

いつ何が出てもおかしくない。慎重に行かなければ……

トンネルは真っ直ぐに伸びていたが、途中で右に曲がっていて、先が見えなくなっていた。


ーーピチャンッ


どこからか水滴が落ちる音がした。

僕たちは先ほど水浸しになった。そのせいだと思っていたが、どうやらこの先から聞こえてくるようだ。


ーーピチャンッ


だんだん音が近づいてくる。僕たちは一度立ち止まり戦闘の準備をする。


「パパスさん……僕こういうの苦手なんで、よろしくお願いします……」

僕はパパスさんの後ろに隠れた。


「はあ!? 情けねぇなぁ……」

パパスさんが先端が折れた剣を構えながら言う。

すると同時に何かが道の先から見えた。


「あああぁあ……」

白目をむいたゾンビがこんにちはした。

口の回りから血が滴り落ちている。


「ギャアアアァッ!」

僕は叫んだ。もう無理。もう帰りたい。


「おっ? これは上玉じゃねえか!」

パパスさんは嬉しそうに言った。

よく見ると女性のゾンビだ。

顔は蒼白で青筋がでているが、元はかなりの美人さんだったのだろう。

スーツの上から白衣を羽織っていて、短めのスカートからは長い脚がのぞいている。

しかし、僕には性の対象としては見れない。

ゾンビなんてジャンルで興奮するのは渡邉ぐらいだろう。


「ヒャッハー! 喰らえ! フリーランス!」

パパスさんが悪役のような事を言いながら女ゾンビに踊りかかった。

ランスと言いつつ剣を縦に横に何度も振るっている。


シュパパパパッ!

カチャンッ


パパスさんが剣を鞘に納めると同時にゾンビの服がパラパラと崩れ落ちた。

Oh! 素晴ラシイ!

女ゾンビはたちどころに全裸になった。

僕の息子も反応してしまった。


「へへへ、魔獣なら何をしても犯罪にゃあならねぇ! おとなしくしてるんだぜ!」

パパスさんが言いながらパンツを下ろした。

パパスさんのフリーランスは鋭く直立し、女ゾンビを指向している。


「うがあああああぁ……」

女ゾンビがパパスさんに噛みつこうと襲いかかった。

それに合わせてパパスさんもゾンビにしゃぶりつこうと襲いかかる。


「ムチュッ!」


パパスさんと女ゾンビが上手く噛み合い、ディープなキスをする形になった。

マァムさんを見ると、虫を見るような目をしていた。

僕もドン引きである。


「ンっ……んむ……ちゅ……」

パパスさんたちはいまだにむさぼり合っている。

やがてパパスさんの腰が痙攣し始めた。


ーーイッたか!?


パパスさんをよく見ると白目をむいていた。

これ、ゾンビ化してない?

ゾンビに噛まれた人もゾンビ化するなんてのは物語の常識だ。この世界は知らんけど。


「怒りの業火よ、焼き尽くせ! ムカチャッカファイアー!!」

マァムさんが唱えると、パパスさんとゾンビが燃え盛る炎に包まれた。


「ガアアァァッ!」

炎が収まると、目の前には煤と化した二つの遺体が残った。


「マァムさん、これ、大丈夫ですかね?」

パパスさんごと燃やしちゃうなんて……マァムさんは容赦ない。


「ほっておいたら、二体のゾンビを相手にしなければいけなかったので……それに見ていて不快でしたしね。」

確かに不快ではあったが、あんな大技で黒焦げにする必要があったのだろうか……


「それにしても、迷いなく魔法を使いましたね……さすがベテラン冒険者です。」

僕はパパスさんがゾンビ化しても、彼を斬る事が出来ただろうか。もしできても、長いこと引きずりそうだ。


「ヤリチンのおじさんなんかに価値はありませんから。」

マァムさんが何の感情も込もっていない目をして言った。

この人、実はヤバイ人なのかもしれない。


「そ、そっすね!」

僕は同意しておいた。下手に刺激すると危険だ。


「先に進みましょう。」

マァムさんはそう言うと歩き出した。




ーーしばらく進むと、またゾンビが現れた。


「ファイアー!」

ゾンビは火に弱いらしく、マァムさんの魔法で簡単に倒されていく。


「不思議だなぁ。僕の方が身長高いのに、マァムさんの背中が大きくみえるや。」

僕はそう言いながらマァムさんの後ろにべったりくっついて歩く。


「ダイさん、もう少し離れて貰えないかしら? 歩きづらくて。」


「イエス! マァム!!」

マァムさんを刺激しないように同意し、一足分だけ離れた。


「それにしても、どこまで続いていのかしら。そろそろ疲れてきました……」

さすがのマァムさんにも疲労の色がみえ始めた。


「僕が見張ってるんで、マァムさんは少し休んで下さい!」


「ごめんなさい、そうさせてもらうわ。」

マァムさんはトンネルの壁に寄りかかって座り、休憩し始めた。

その間僕は上官を守るようにマァムさんの前に立ち、休めの姿勢で辺りを警戒した。


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