第48話人類保管計画

ーーピンポーン


「はーい!」

僕は玄関のドアを開けた。


「よっ!」

渡邉がてを上げて挨拶する。



「だいぶ予定よりはやいね。とりあえず入りなよ。」

昨日の夜渡邉から電話がかかってきた。

次の日の午後四時に僕たちの様子を見に来るといっていたが、今は午前十時だ。

はやいってもんじゃない。

連絡寄越せや。


「お? 無事目覚めたようだな。」

渡邉が百合を見て言った。


百合は今洗濯物を干している。

完全に主婦と化している。


「お久しぶりです。」

百合が洗濯カゴを持ってベランダから入ってきた。

渡邉から百合を貰ってはや四ヶ月が経過した。

その間渡邉とは一度も連絡が取れなかった。

携帯にまったく繋がらないので、渡邉の携帯は受信機能がないのではと思っている。


「ところで、生活費なんだけど。」

僕は早速生活費を貰おうとする。

こういうのはタイミングを逃すと貰えない可能性もある。先に受け取ってしまった方が良いだろう。


「ああ、これでいい?」

渡邉はバックから札束を出して僕に渡した。


「ええ、ありがとうございます……へへ。」

僕は一応ゴマを摩っておく。特別に三分間は敬ってやろう。

とりあえず渡邉にお茶を出す。


「で、本題なんだけど……ほれ。」

渡邉はちゃぶ台の上にカバンから取り出した物を置いた。

ゲームソフトだ。


「なにこれ?」

僕は渡邉に聞いた。


「そいつにやらせてくれ。」

渡邉は百合の方を見る。


「そいつじゃなくて、百合だよ!」


「ああ悪い、百合にプレイさせてくれ。」

渡邉が言い直す。

ゲームソフトのパッケージには、人類保管計画と書かれている。

なんかのパクりゲーだろうか。


「ところでプレステ持ってる?」

渡邉が僕に聞いてきた。

実は僕は、ポケモン以外のゲームに興味が無い。

なので、発売元の違うプレステは持っていない。


「持って無いよ。」


「そっか……渡した金で買って?」

渡邉が僕に言う。


「……」

僕はとても不快な顔をし無言で圧を加える。

しかし、渡邉に効果はなかった。


「そういうことだから、よろしく。」

渡邉は立ち上がると、そのまま玄関に向かった。


「あ、そういえば。百合のこと預けただけで、あげたわけじゃないぞ。」

渡邉がふざけたことを言い出す。


「いや、百合は俺のもんだし。相思相愛だし。」

もはや百合は生涯のパートナーである。

返品などするものか。



「……だいさん、わたしは誰のものでもありませんよ?」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


ーー目が覚めた。

どうやら僕は意識を失っていたらしい。

辺りを見回すと、広い草原の小高い丘の上にいることがわかった。

パパスさんとマァムさんが隣で倒れている。

僕は二人を起こした。


「パパスさん! マァムさん! 起きて下さい!」


「ああ……すごい。すごいよ奥さん……」

パパスさんが寝言を言った。キモイのでほっといてマァムさんの肩を揺する。


「マァムさん、起きて!」


「……あらあら、こんなにしちゃって……先っぽからお汁がたれてますよぉ?」

マァムさんも寝言を言った。僕もちょっとだけお汁が出てしまった。


ーー仕方ない、一人で探索するか。

二人をそのままにして周囲を見てまわる。

上空にはお日様が眩しく照らしていて、ここが外だということはわかる。

しかし、ブルーフォレストの森にこんな場所あったかな?

しかし、だだっ広い草原だ。先がまったく見えない。

元の位置から離れすぎると、二人とはぐれてしまいそうだ。

僕は二人の元に戻り、起きるのを待つことにした。

何時間経っただろうか。

二人は一向に起きない。

そして、不思議なことに太陽の位置が先ほどと変わらない。

そして風が吹いていない。

どこなんだ? ここは……


「むにゃむにゃ……童貞卒業おめでとうございます!」

マァムさんが起きた。どうやら寝ぼけているようだ。


「ありがとうございます。」

一応お礼を言っておく。



「うーん……奥さん、いい締まりしてたぜ?」

パパスさんも起きてきた。


「ありがとうございます。」

こちらにも一応お礼を言っておく。


「ん? 奥さん、ここはどこだい?」

パパスさんが辺りを見回して言った。


「さあ、どこなんでしょうか?」

奥さんに代わり僕が答えた。

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