第19話悪魔の馬

「さて、この辺でいいかな。」


僕が近づくと、草を食べる馬が警戒しているのがわかる。


すぐに逃げれる距離をとって様子を伺っているようだ。


「よっこらせっ、クス。」

僕はその場に寝そべった。


馬達に警戒されては僕も悪魔の馬にやられてしまう。


まずは他の馬達に僕は無害であると思わせなければならない。


そういうわけで、取り敢えず昼寝だ。



「……ちょっと、あいつ寝はじめたんだけど……」


「あぁ……何がしたいのか、僕にもさっぱりわからないよ。でも約束だからね。手出ししたら、駄目だよ?」


「……わかってるわよ。」

マイはそう言うと、近くの岩に腰掛けた。

アナはその隣で腰に手を当て事の成り行きを見守っている。



「では、お休みなさスピー…」

僕は眠りに落ちた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「課長! どうか明日休ませてください! 大事な予定があるんです!!」

僕は課長に意見具申した。



ーー僕は大学卒業後、地元の役場に勤めた。


僕の住む町は小さい。

他の町と比べても、仕事量は少ない方だろう。


「何度も言ってるが、俺を納得させられる理由があれば普通に休ませてやる。しかし、理由が言えないのであれば休ませる訳にはいかんだろ。」



今日は七月六日、明日は七夕だ。


ーーこの日は僕たちにとって特別な日



そうーー


7が二つつく、激アツイベント日なのだ。

スロットも設定が入り、負ける方が珍しい。

パチンカスたちには年一の特別な日だ。


「だから、この日は僕たちにとって特別な日なんです!」



「特別って、彼女とデートでも行くのか? タナバタックスしようとしとるんか?」


上司からセクハラを受けた。


「ですから、僕に彼女は居ませんって。そんな理由で休みませんよ。」


「だから……もういい、早く仕事に戻りなさい。」


「課長!!」


ーー結局休みは取れなかった。


しかも、先月から仕事中ずっと携帯でパチンコサイトの台情報を見ていて、提出期限の近い書類がいくつも残っている。



「はぁ、今日は残業か……」



超過勤務した場合、残業代が貰えるが、僕は課長に「お前、仕事さぼって残業代貰おうとか、言わないよな?」と念を押されてしまった。


パワハラ上司である。



ため息をつきパソコンに向かう。


ーー午後8時を過ぎたころ、電話が鳴った。


渡邉からだ。


「もしもし? 久しぶり! 元気してた?」


「ごめん今残業中なんだ。後でかけ直す。」


「待って、すぐ終わるから。お前、中学の時の約束覚えてる?」



『一緒に魔法使いになる!』


そんな約束もしたな。



ーー僕は風俗が大好きだ。



しかし、本番ありの店には行っていない。


僕は童貞、いや童帝だ。


「覚えてるよ。まだ守ってるし。」


僕は今二十九歳、来年には三十になる。


「よかった。明日の夜少し会えないかな? そっちに帰る予定なんだ。」


「七夕の日に、男2人であってもな……」


「そう言わずにさ。それじゃ明日の午後7時にイオンの中の無我夢中集合な。じゃ」


ーー通話が切れた。


彼は昔から一方的だ。


彼は医大に進んだが、あまりにもキモすぎるため、合コンにお呼ばれすることはなかった。

その悔しさをばねに勉強し、研究者の道へと進んだ。

今は海外の製薬メーカーで研究員として働いている。


「腹、減ったな。」


僕はパソコンを閉じると、帰路についた。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「グゴ、スピー……ん? おはようごぜぇやす!」


目が覚めた。日が高く登っている。


どうやら一時間以上寝ていたらしい。


そのお陰か、体の調子がすこぶる良い。



「ブルル……」


ーー後ろに大きな影があった。


「ん?」

振り向くと、そこにはとても大きな黒い馬がいた。


「これは素晴らしい馬だ!」


一目惚れだ。


しなやかな毛並みに筋肉の乗った力強い足


惚れ惚れする。


僕は立ち上がると、悪魔の馬に挨拶した。



「こんにちは。君が有名な悪魔の馬かい?」


悪魔の馬は僕をひと睨みすると、近くの草を食べ始めた。



こんなに大きな馬だ。

イチモツもさぞかしデカいんだろうな。



僕はゆっくりと悪魔の馬の後方に回り込んだ。


そして頭を下げて馬の股の間を覗き込んだ。



ドスッ!!


「おわあぁぁ!!」


僕は後ろ足で蹴られ五メートル近く吹っ飛んだ。


「いつつつ……」


僕の体は何故かとても丈夫だ。この程度で死ぬことは無い、が、肋骨が何本か折れたかも知れない。


そしてもう一度やつの股の間の物を思い出そうとしてーー


「あいつ、無い。」



そう、悪魔の馬はメスだった。

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