第16話二つ名

「ねえキミ、さいきん噂のネズミ男くんだよね? ずいぶん儲かってるみたいだね。」


振りかえると、そこには爽やかイケメンがいた。


青いとんがり帽子をかぶり、緑を基調とした服を着て、青いマントを付けている。


モデルみたいなスタイルのよさだ。


「そのネズミ男っていうの、やめて貰えません?」


ーー冒険者連中は腕利きの者に二つ名をつけたがる。


そして最近、駆除するのが難しいネズミを大量に狩りって来る僕にはネズミ男という二つ名が付いた。


もっと格好良い名前を付けて欲しかった。



「ごめんごめん、僕はキミの名前を知らないんだ。そう呼ぶしかなかったんだよ。」

爽やかイケメンは微笑みながら答えた。



「そう言うあなたこそ誰ですか?」


男はビックリした顔をした。


「僕も結構有名人だと思ってたけど、まだまだみたいだね。空中歩行スカイウォーカーって言えばわかるかな?」


ーー空中歩行スカイウォーカー


その名前は聞いたことがある。


ーーこの街にはCランク冒険者が二人だけいる。


その一人がこの男の正体だった。


なんでも彼は魔法剣士というその他に分類される職業で、風魔法を操り宙を舞う様にしてレイピアで戦うらしい。


「その名前は知ってます。」



「僕の名前は、アナキンっていうんだ。よろしくね。アナって呼んでくれると嬉しいな。ところでキミはなんていうの?」


「Dieです。」



「ダイくんか。良い名前だね。」


彼はイケメンなので、普通に話しているだけでマウントをとられてる気分になる。



「そんなあなたが僕に何の用ですか?オナ禁さん。」



「ア・ナ・キ・ンだよ。ちょっとさ、僕たちと臨時パーティーを組んでみないかい?」



「僕たち?」



「ああ、もう一人いるんだ。ねえ!マイ!こっち来て!!」



彼は休憩スペースにいる女子グループに向かって叫んだ。



「ちょっと、あまり大きな声で呼ばないでよ。恥ずかしい。」

にらみながら一人の女子が近づいてきた。


「ごめん、次は気をつけるよ。ダイくん紹介するよ。彼女はハーマイオニー。もう一人の仲間さ。」


その名も聞いたことがある。


彼女もCランク冒険者だ。


二つ名は桃色姫ピンクレディー


名前の由来はピンク色の髪の毛だ。


セミロングの髪をポニーテールにしていて可愛らしい顔だが、怒った顔は迫力がある。



ちなみに彼女は女性には珍しい戦士だ。


何でもひょうの獣人で、しなやかな身体からは考えられない力で大剣をふるい敵を倒すそうだ。



上下白の服を着ていて、上は皮の胸当てにヘソだしで、短めのパンツからは長いきれいな足が覗いている。



「はじめまして、ハーマイオナニーさん。暗黒竜騎士のdieです。」



「暗黒竜騎士? よろしく。」

彼女は疑いのこもった目でそう答えた。



「実は僕たち、王都の同じ学校出身でさ。いつもは別のパーティーなんだけど、今度Cランク冒険者宛ての依頼を受けるんだ。それにキミもどうかなって。」



「待って下さい。僕はEランクですよ?」



「それは心配要らないよ。Cランクの僕たちがいれば、他のメンバーのランクは問われないからね。」


そもそもこの街にはCランクが2人しかいない。


しかし、彼らの正規のパーティーメンバーは以下のランクであり、Cランクじゃなきゃ駄目ならば、一人で依頼を受けなければいけなくなる。



だから、指名が入った人以外のメンバーはランクを問われないそうだ。


「ちなみにどんな依頼なんですか?」



「ダイくんは、悪魔の馬って聞いたことある?」


エイオンでは人が乗る馬も売っている。



その馬は、近くにある草原地帯から捕まえて来るらしい。



何でも最近馬の群れに強いリーダーが現れた為に、エイオンで扱う馬を捕まえられなくなっているらしい。


馬を捕まえるのは冒険者の仕事だが、みな返り討ちにあってしまうらしい。


そのリーダーの馬は他の馬より二倍程大きく、とても賢くて強い。

またその毛が黒い事からみな悪魔の馬と呼んでいる。


「ええ。聞いたことあります。」



「その馬の討伐依頼さ。キミも興味あるよね?」



ーーなんと!

そんな馬を殺すなんて勿体ない。



「飼い慣らして、手前の乗馬と致しましょう。」



「じゃあ決まりだね。明日の朝一番に、ギルド前集合ね。そのまま出発するから。」



「ちょっと、かってに話を進めないでくれる? 相談もなしにメンバー決めるなんて。それに明日ってきゅうすぎるわ!」


ハーマイオナニーさんが怒った。


ーー余談だが、この2人は犬猿の仲らしい。


何でも、学生時代にひと悶着あったとか。


まあ、オナ禁とオナニーは対極の存在だしね。



「何か不満でも? 彼は二つ名持ちの冒険者だ。それに君も討伐はいつでもいいって言ってたよね?」


「それは……そうだけど。」


オナニーさんがしょんぼりした。


ーー可愛い。


「じゃあ、そういうことで。明日からよろしくね。」



そして僕は順番に2人と握手した。


女の子の手を握るのは、母以外では初めてかもしれない。

嬉しい。


「うっ。あなた、ちょっと臭いわよ。」



「すみません。1日中下水道にいたもんで…」



僕は精神的ダメージを受けつつ公衆浴場に向かった。

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