第12話冒険者ギルド
本文
「大水さん、ちょっといいかな?」
「どうしたの?」
ーー昼休みに大水さんを屋上に呼び出す。
今は7月だ。屋上はくそ暑い。
そんな場所に人が来る訳もなく、僕たち以外はクーラーのある教室で休んでいる。
「ごめんね。こんな場所に呼び出して。」
「前振りはいいから、はやく要件を言ってほしいかも。」
ーー僕は何から伝えれば良いのか、考えている。死ぬわけでもあるまいし、急かさないで欲しい。
「あのさ、実は僕、もうすぐ死ぬんだ。」
「そうなんだ。」
大水さんは即答した。
心の中では動揺しているのだろう。
「僕はさ。大水さんには幸せになって欲しい。ちゃんと青春して、大人になって、家庭を持って。だから、君の携帯から僕の番号を消して欲しい。」
彼女には未練を残してほしくない。
「あ、だいじょうぶ。登録してないから。」
ーーよかった。
まだ登録する前だった。
「可能ならば、僕の番号を書いたノートを燃やして、もう僕と関わらないで欲しい。」
「いいよ。ようはそれだけ?」
「ああ。」
「それじゃ、教室もどるね。」
大水さんは早足で屋上から教室に戻っていった。
すれ違いざま、大水さんから水滴が落ちるのが見えた。
「女の子を泣かせるなんて最低だな、僕」
「大水さん、あいつに変な事されなかった?」
「うん。もうちょっかい出してこないって約束してくれた。それにしても屋上暑かったー」
大水さんは滴る汗をハンカチで拭いた。
ーー目が覚めた。
久しぶりに夢を見た。
最近は余裕が無くて寝付きが悪かったのだ。
「まずは冒険者ギルドなるものに行くか。」
身に付けているものなど殆んど無い。
準備は一瞬だ。
宿の番をしていたおばさんに冒険者ギルドの場所を聞くと、なんと宿の目の前だった。
「これから職場になる場所が、徒歩10秒とは。良い宿を借りられたな。」
昨日の昼前に村を出て、身体強化して走っていたら夕方には街に着いた。
この街は領都から地方に繋がる中継点のため、旅人や商人で賑わっている。
地方の村人が冒険者ギルドに依頼をする場合もここが最寄りとなる。
村からこの街へは一本道のため迷わず来れた。
どうやら村長さんが教えてくれた領都への道は最短ルートを行くもので、この街に来る途中にはちゃんと看板も立っていた。
ーーこの街の名前はエイオンという。
エイオンでは、生活に必要な物がだいたい揃っている。
しかも安いし、品質はエイオンが保証してくれる。
地方の村には年をとって歩けない人もいるため、マリオのような行商人は有り難い存在のようだが、若者は少し遠出をしてエイオンまで買い物に来ることもあるそうだ。
馬に乗れば、あの村からならば日帰りも可能かも知れない。
ーー迷ったら、取り敢えずエイオン
これがこの街のキャッチコピーだ。
ちなみに文字で書くとAEONとなる。
今さらだが、この世界の文字は基本ローマ字だ。
なので僕も読めるし書ける。
ご都合主義だと言われても、そもそも僕の夢の世界なんだからしょうがない。
ーーん?ここは現実か
そんなこんなで冒険者ギルドに着いた。
この街の建物は全て木製だ。
ただ、前の村と違うのは建物が大きい事だ。
だいたいが二階か三階建てで、碁盤の目のように区画が整理されている。
僕は宿泊施設の区画と商業施設の区画の境目にある宿を借りたみたいだ。
全て宿屋のおばさんが教えてくれた。
ーー冒険者ギルドの扉を開いて中に入った。
入って直ぐに案内の人がいた。
「いらっしゃいませ。今日はどのような御用件でしょうか?」
スタイルの良く笑顔が素敵な金髪のお姉さんだ。
「冒険者登録したいんですけど。」
「入会ですね。では、入会窓口で御待ち下さい。」
カウンターはL字になっていて、左から買い取り、依頼受付、入会、セルフと書いた札が立て掛けてある。
セルフとは何なのだろうか。
ーー僕は入会窓口の椅子に座った。
「ふっ、ふっ。入会窓口、お客様がお待ちです。」
受付のお姉さんが、胸に付けているピンバッジのようなものに向かってしゃべっている。
ギルド内にお姉さんの声が響き渡る。
カウンターの奥からお兄さんが出てきた。
前掛けをしていて、胸にはミロと書かれたプレートが付いている。
「おませ致しました。本日はご入会希望ということですね、ありがとうございます。」
「いえ、こちらこそお願いします。」
「つきましては、ただいま夏の入会キャンペーン中でして、他の冒険者様のご紹介ですと入会金が無料になるんですけど、紹介状はお持ちですか?」
僕は一通の手紙を取り出した。
村を出るとき村長さんに渡された物だ。
村長さんが、「冒険者ギルドに着いたらこれをみせなさい。」と言っていたが、キャンペーン特典を受ける為の物だったのか…
「……はい。確認させて頂きました。入会金は無料にさせて頂きます。それでは、こちらに必要事項をお書き下さい。」
そう言って、一枚の紙を渡された。
この世界では紙が高価な事くらい僕でも知っている。
ペンを渡され、紙に目を通した。
まずは名前、年齢の欄を埋める。
名前 Die
年齢 15
次に職業の欄だ。
こちらは五つの職業から一つを選んで○を付けるようだ。
戦士・魔法使い・シーフ・狩人・その他
僕はその他に○を付けた。
その他の場合、下の空欄に自分で職業を書かなくてはいけない。
その他
「
僕の血は穢れている。
そして僕はドラゴンの紋章を持っている。
ーー悩んだが、文字にするとこうなった。
「暗黒竜騎士ですか?初めて聞きました。一度能力測定をしてもよろしいでしょうか?」
ーー紙の下の方に、職業をその他にした場合、本当に他の四つの職業に該当しないか確認させて頂く場合があります、と書かれていた。
「はい、大丈夫です。」
「それでは、この水晶玉に手を当てて下さい。」
ミロさんが取り出した水晶に手を当てた。
「なるほど。体力、力、素早さ、賢さ、器用さは普通のようですね。しかし、魔力はずば抜けて高いです。魔法使いを選ばれてはいかがですか?」
「すみません。僕はもう魔法使いにはなれないんです。」
過去の過ちを思い出し暗い気持ちになった。
「そうですか。職業は一度決めてしまうと変更が出来ません。それにパーティーを組む際も四つから選ばれた方がメンバーを見つけさすくなります。職業指定の依頼も受けられませんが、本当に大丈夫ですか?」
「はい。これでお願いします。」
「わかりました。それでは今から冒険者カードを発行しますので、少々お待ちください。」
ーーこうして僕は、晴れて冒険者になった。
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