第10話ドラゴンの紋章

本文

股間が熱いーー


その熱さが、先ほどのやりとりが夢では無いことを物語っていた。


目を開けると、村長の家の天井が見えた。


「つつつ……」


上体を起こし、股間を見る。


パンツを下げると、金玉がモンスターボールのように腫れ上がっていた。


もう、手遅れだろう。



ーーあの夜、渡邉のゴムがあればこんなことにはならなかった。

僕は自分の危機管理能力の無さを呪った。


「穢れちゃった……」


僕の身体には、穢れた血が流れている。

もはや真っ当な人生など歩めないだろう。


「目が覚めたかい?」


村長さんが様子をみに来た。


「はい。あの、マリオさん達はどこにいますか?」



こうなればやけだ。

奴らを殺して自分も死のうーー


「ああ、彼らは朝早くに領都に戻ったぞ。」



窓からは夕陽がのぞいている。


今から馬車に追い付く事など出来まい。


「そうですか。領都の方向はわかりますか?」


「この村を出て真っ直ぐ行くと、分かれ道がある。右の道を行くとまた分かれ道があるから、それを右じゃ。」


「どっちも右ですね。わかりました。」


「いや、次は突き当たりを左、さらに突き当たりを右に行くと三叉路があるからそれを左じゃ。」


ーー僕は道を覚えるのが苦手だ。

記憶力が低いわけではないが、道を進んでいると不安になり、一度引き返してしまう。


仕切り直そうとしても、道を戻ったせいでどこに居るのかわからなくなってしまうのだ。


「今日はもう日が暮れる。それに怪我もひどそうだ。もう一泊していきなさい。」


「はい……ありがとうございます……」


村長さんは意外と優しかった。


今日はお言葉に甘えて、明日から行動しよう。




ーー朝が来た


昨日は1日寝ていたようなものだったので、殆んど寝付けなかった。



へやを出て村長さんを探した。


村長さんは庭にいた。


ラジオ体操のようなものをしている。


「村長さん、おはようございます。」



「おお、おはよう。具合はどうだ、まだ痛かろう?」


「だいぶ痛みは引きました。」

そう言うと僕はパンツを下げて村長さんに見えるよう、腰を突き出した。


「……別に見せろとは言っておらんが……だいぶ腫れは引いたみたいだの。」


僕も自分のムスコを観察した。


村長さんの言う通り、だいぶ腫れは引いていた。


モンスターボールも、いつものピンポン玉サイズに戻っている。


竿の方は腫れの影響か、ズル剥けていた。



ーーちなみに僕は仮性包茎だ


「ふむ。その様子だと、もう二、三日で戻に戻りそうだのぅ。しかし回復が速いの。若いからか?」


「どうですかね…」


ムスコが治ったところで、僕はもうこいつを使う事は出来ない。


これ以上不幸な人間を増やしたくないのだ。


「ん? まて、先っちょの方を良く見してくれ。」

僕がパンツを戻そうとすると、村長さんが止めてきた。


ーー村長さんは僕の亀頭に興味があるようだ。

男に見せても何も嬉しくないが、だいぶお世話になったのだ。

特別に観察させてあげよう。


「…どうぞ」

そう言うと僕はムスコを村長さんの目線の高さに照準した。


「まさか、これは……ドラゴンの紋章……」


ーーなんの事だ?


見てみると、亀頭に赤黒い火傷の跡があり、竜の顔に見えなくもない。


「はは、ただの火傷ですよ。跡は残りそうですけど。」


「いや、これは確かにドラコンの紋章じゃ。わしが見間違えるはずがないのだ。」


ーーそして、長くなりそうな村長さんの昔話が始まった。


「今は昔、わしは冒険者として世界中を旅していた。当時の冒険者はみな魔族を狩る事に夢中になっておった。」



「そうなんですね。」



「それというのも、魔族は長命でな。その血を一口飲むと1日若返ると言われていてな。貴婦人達がこぞって依頼を出していたのだ。」



「そうなんですね。」



「わしもそんな依頼を受けた1人じゃった。それはパーティーを組んで魔族領まで行ったときの事じゃ。」



「そうなんですね。」



「魔族領は永遠と続く荒野じゃった。そんな中、煙が上がるのを見た。魔族の集落じゃ。わしらは魔族の集落を襲った。魔族と言うから、禍々しいものを想像してたのだが、髪が黒い以外は殆んど人間と変わらんかったのじゃ。」



「そうなんすね。」



「仲間達は逃げ惑う魔族達を殺していった。切りつけると目当ての血が流れてしまうから、撲殺か絞殺じゃ。むごい、むごすぎる光景じゃった。」



「そっすね。」



「その集落には女と子供しかおらんかった。殺戮は一方的なものだった。」


「わしは恐くなって1人逃げたした。」


「しかし、一人で帰るにも、魔族と出くわしたらたまったものじゃない。もう一度仲間の元に引き返したのじゃ。」


「仲間達は一通り死体を回収し、魔族の血を瓶に移して魔法で凍らせる作業をしていた。」


「仲間達の元に向かおうと、集落の中に入ったその時、仲間の前に一人の男が現れたのじゃ。男は仲間達の方に歩いていき、やがて憎しみのこもった顔をした。その時、男の額にドラゴンの紋章が青白く光出した。」


「わしはとっさに建物の陰に隠れて見ていた。仲間達は一瞬で殺された。抵抗しようとしたが、男が速く、そして強すぎたのじゃ。」


「男は仲間達を皆殺しにすると、集落に住んでいた者達を一人づつ担いでいった。おそらく埋葬するつもりだったのだろう。」



「そう言えば村長さん、朝ごはん食べました?」



「わしはその間に逃げ出した。どうにか人間の領土まで帰りつくと、その旨を冒険者ギルドに報告した。」


「大規模な討伐依頼が出たが、依頼を受けた者は全員帰っては来んかった。」



「僕、お腹空いたんで、朝ごはん食べてきますね。」



「わしはそれを機に、生まれ故郷のこの村に帰ってきた。冒険者になりたくて村を勝手に抜け出して、当時の村長だった父には死ぬほど殴られたさ。」



ーー村長さんはそう言うと、誰もいない庭にある丸太の上に座って、昔を懐かしむように目を閉じた。

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