第8話順風満帆

僕は夢の出来事を思い出しながらリビングに向かった。


父と弟がテーブルについて朝食を食べている。


「おはよう大ちゃん」

母が声をかけてきた。


「おはよう」


小さく挨拶して席につくと、弟が話しかけてきた。


「兄ちゃん最近夜中にうなされてるみたいだけど、大丈夫?」


「ああ、大丈夫」


こいつは弟の涼だ。中学二年生で、僕とは一歳半差だ。


僕が六月生まれで涼が十二月生まれ。


つまり僕が産まれて半年程で母は妊娠したことになる。


赤ん坊の僕をほったらかして、おせっせなんかしてるから僕の性癖が歪んでしまったのだ。


反省して欲しい。


「確かに顔色はいいみたいだね。何か良いことでもあったの?」


「それなりに」

含みを持たせて答えた。


ーー弟はモテる。

身長は僕と同じくらい高く、テニス部なので身体も引き締まっている。


顔のパーツは僕と似ているのに、余裕があるためかイケメンオーラが出ている。


しかも、こいつには非童貞の疑いがかかっている。


去年の三年生の女子と付き合っているのだ。


同じテニス部の先輩で、綺麗な顔立ちで真面目な性格の子だ。


彼女が高校に入ったら別れると思っていたが、どうやら続いているらしい。


しかも、中学に情報が入ってこないため、たまに告白されているという噂もある。


女の敵だーー


こいつにはいつか天罰が下るだろう。


しかし、そんな僕も半分童貞を卒業している。


こいつと同じ側の人間になってしまったのだ。


ーー僕も人の事を言えないな


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教室につくと渡邉がきた。


相変わらず不細工だし、エグい下ネタを言っている。


しかし、今日はそんな彼を許せてしまう。

大人の余裕ってやつかな?


「大ちゃん、今日なんかキモいよ。うっすら笑顔なんか浮かべて。」


「はは、僕ももう15歳だし、年相応に振る舞おうと思ってね。」


彼とこれ以上会話していたら、僕の品位が疑われてしまう。


「悪いけど、また。」


僕は立ち上がり、大水さんの席に向かった。



「やあ」

大水さんに片手を上げて挨拶した。



彼女はおそらく処女である。

僕の大人の魅力がどれだけ上がったか、試すには持って来いだろう。


「あ、松本くんおはよー」


「大水さん、今日も綺麗だね」


「うん、ありがとう。松本くん今日は雰囲気ちがうね。」


「まいっな。そんな風に見えちゃうかぁ」


僕の大人の振る舞いに、さっそく大水さんは気づいたようだ。


「今日の松本くん、なんか面白いね」


ーー今ならいける気がする


「そういえばさ、アドレス交換してないよね? よかったら、どう?」


「ごめんね、学校に携帯は持って来てないんだ。校則でもだめってなってるし」


みんな隠して持って来ているのに、真面目な人もいたもんだ。


「そっか。じゃあ僕の番号書くから、後で登録して。」


そういって僕は大水さんのペンをとり、机の上においてあるノートのはしに番号を書いた。


「大水さんの番号も教えてよ。」


「えーと、こんどワン切りするね。」


「了解! それじゃあよろしくね。」

そういって僕は自分の席に戻った。



意外と上手くいった。

脱童貞までのカウントダウンは始まっている。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「人のノートに勝手に書くなんて、サイテー」


大水さんと僕とのやり取りを見ていた女子が、大水さんに近づいて言った。


「うん。あたらしいペンとノート、買わなくちゃ。けっこう気に入ってたのにな……」


そういうと大水さんは別のペンを取り出し、ノートにかかれた電話番号を塗りつぶした。

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