第5話ケツデカおばさん、シェリー
しばらく獣道を歩いていると、明らかに人の手で整備された道に出た。
「ふむ。これはそろそろイベントが起こる感じかな?」
僕は顎に手をあてて渋めに呟いた。
さっきから色々試してみたが、どうやら僕は魔法を使えるらしい。
しかし、身体強化魔法に限るーー
オオカミが爆発したのは、声に強化がかかったから。
右手人差し指を前にだし、親指を照星代わりにして銃の形にして撃ってみた。が、何も発動しなかった。
しかし、僕が「レイガン!」と叫びながら撃つと、的にした木が軽くえぐれた。
今度は手を下ろし、声だけ発してみたら、同じように木に当たった痕が出来た。
どうやらこの力は意識的に強く声を出さないと発動しないようで、ただ大きな声を出すだけでは的には変化が無かった。
的に意識を向けるのも重要で、ただ意識して声を出しても辺り構わず破壊する様な事は起こらなかった。
声の振動に関係があるのかも知れない。
身体強化も同じで、力の込め具合の延長にあるらしく、意識的に強く体を動かさないと強化されないようだ。
感覚的にはリミッターを外すようなものかもしれない。
これはむしろゲームなどでは魔法使いではなく、戦士なのではないかーー
一緒に魔法使いになるという渡邉との約束はギリギリ守られた。
時を戻そう。
整備された道には
つまり、この先に人がいる可能性が高い。
「そろそろヒロイン登場させないと、物語的にヤバいし急ぎますか。」
そう、この世界は僕の夢で、であればこの物語の主人公は僕しかいない。
そしてヒロインのいない物語など男臭くて誰もみないだろう
僕は身体強化魔法を使い駆け出した。
しばらく走ると、目の前に木で出来た柵が見えた。
そしてこの道は、柵の中へと続いている。
ーー村だ!
僕はそのまま柵の中に入った。
村の中には木で出来た小さな家が数件だけ確認出来た。
人の姿が見えないので、村の中心まで進むと広場があり、人の姿がある。
「原始人がいたらどうしようと思ったけど、意外と文化レベルは高いのかも。」
広場の中心には荷馬車が停まっていて、その前に長机があり商品が並べられている。
麻の服を着た村人が商品を物色している。
近づいてみると、長机の反対側には商人がいた。
青い服に白いズボンを穿いており、村人よりも仕立てのいい服だと一目でわかる。
「こんな小さな村に売りにくる商人なんて、たかが知れている。見栄っ張りなんだろうな。」
僕はひねくれた性格のため、そんなことを呟きながら近づいていく。
「ん? 君、その服はどこで手に入れたものだ?」
商人のおじさんが僕に話しかけて来た。
僕の学生服が気になるようだ。
周りの村人も振り返り、僕をあやし気な目で見ている。
「中島商店です。」
買い物をする際は地元商店街でーー
これは社会の常識である。
「ほう。それは珍しい素材で出来ているようだ。私に売ってはくれないか?」
ふざけているーー
制服を売ってしまったら、僕は下着で歩かなければいけない。
それにこれは僕の三年間の思い出と汗と色々な物が詰まっているのだ。
簡単に手放せるものではない!
「ちょっと待って下さい。僕がこの服を売ってしまったら、明日からどうやって学校に行けば良いんですか? あとちょっとで卒業なのに。それに下着姿で帰ったら警察に補導されてしまいます。僕のお父さんは警察官ですよ? 仕事で不利になったらどうするんですか!」
「なるほど、君は王都の学生か。卒業前の修学の旅でこんな辺境まで来たのか。悪かった、代わりの服も付けて金貨一枚でどうだ? 旅にはそれなりの金もかかろう。」
金貨一枚か。お金の価値がわからないので判断のしようがない。
「でしたらこのゴムも付けるので、もう少しサービスしてください。」
僕はポケットからゴムを取り出しおじさんに渡す。
「ん、だんだねこれは?」
「これは外袋を破るとですね……」
おじさんからゴムを返してもらい、中身を取り出すと、コンパクトに丸められたゴムが出て来た。
それを手で伸ばしていくと、長風船の形になった。
ヤバいーー装着の仕方がわからない。
「これに息を吹き込んでいくと、あら不思議。大きく膨らんで伸びるんです。空気を抜くと元の形に戻ります。」
「うーん。不思議な素材なのはわかったが、何の役にたつのだ?」
「使い方次第ですね。例えば手を入れると、汚ない物に触れるとき感染症対策になります。」
僕はゴムに手を突っ込んだ。
あっ、破れたーー
「………それは元に戻るのか?」
「いえ、一回限りの使い捨てです……」
ーーごめん渡邉、無駄に使用してしまった。
「まぁよかろう。金貨一枚だけというのも味がない。代わりに私の奴隷の一人を一晩つけよう。」
なに? どういうこと?
訳がわからず悩んでいると、おじさんが荷馬車の裏から女を一人連れてきた。
「奴隷のシェリーだ。一晩彼の世話をしなさい。」
「シェリーです。よろしくお願いします。」
ケツのデカい、ボロ布を一枚纏っただけのおばさんが僕に頭を下げてきた。
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