第3話一緒に魔法使いになる!

薄暗い荒野にいた


また、夢の中にいるのだと、僕はすぐに理解した。

僕の周りには、フルプレートの鎧を着て、剣を持った人達がたくさんいる。


兜の中から覗く目からは、明らかに僕に向けた憎しみの感情がうかがえる。


不意に僕は怒りに支配された。


いったい僕が何をしたというのか。


何故そんな目でみられないといけないのか。


手に力を入れると、僕の右手にも切れ味の悪そうな剣が握られていた。


ーー許せない


そんな目で、僕をみるな。


僕は目の前の男の元へ走ると、剣を両手で持ち、大きく振りかぶると全力で男の頭へ叩きつけた。


ベコンッ!!


男の頭は切れ味の悪い剣によって兜ごと汚く潰れた。


それを皮切りに僕を囲んでいた人達が一斉に押し寄せてくる。




「うりあぁぁぁぁぁあっ!!」


僕は叫びながら向かって来る者に対して剣をぶつける。


縦に、横にと本来の使い方とは違うであろう攻撃は、力で無理矢理周囲の者を次々と捩じ伏せる。

軽症、重症問わず切れ味の悪い剣のおかげで返り血を殆んど浴びずに済んでいる。


呼吸が荒くなる。振られる自分の手は見えているが、腕の感覚が鈍くなり、上手く動けているかわからなくなる。

倒れた人なのか地面の隆起なのか、バランスを崩しながらも転ばないように前へと進んでいく。

「ごふっ、ぁぁぁぁあっ!!」


むせながらも叫び続け、ただひたすらに周囲に怒りをぶつけていく。


「はあ、はあ、はあ」

気がつくと周りには立っている者は誰もいなくなっていた。


しばらく立ち尽くしていると、後ろから声をかけられた。



「終わったみたいね。どう、楽しかった?」


艶のある女性の声に振り返ると、そこには黒いロングヘアーの妙齢の綺麗な人が立っていた。



「どうかな、わかんない。けど、疲れた。」



とりとめもない返答をすると、その女性は目を細めて微笑んだ。


目、目鼻立ちがくっきりしていて、胸元の開いた黒いドレスのような服装のその人は、僕には魔女に見えた。



「じゃあ、帰りましょうか。」


「うん。」


僕は女性の後をついて歩き出した。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


カラスの声で目が覚めた。


携帯を見ると、まだ五時前だ。



「よし!今日こそ三文得するぞ!」




体を起こし、机の上に新品のノートを広げる。




ノートの最初のページの真ん中に、脱童貞と書く。




これは目標達成シートといって、誰もが知っているプロ野球選手が行っていたものだ。




現状を分析し、自分に足りないものや、これから何をすればいいか具体化する事で、真ん中にある目標を達成する事が出来る優れものだ。




僕は次々に必要事項を書き込んでいく。




「やはり必要なのは引き締まった体だな。筋トレも少し強度をあげなければ。」




渡邉から聞いたのだが、女の子にも性欲はあるらしい。

それを刺激するためには、男らしい体を見せつけて発情させるのが一番だろう。




「それから、オナ禁もするか。」




これは保健の時間に習った技である。

自分の欲求を他の物にぶつける事によって、本来より強い力を発揮する事が出来るのだ。今回は性欲を我慢して筋トレにぶつけるということだ。




「それから腕立ての回数を35回に増やせば完璧だな。」




目標達成シートの完成である。



所要時間約10分




たったこれだけで僕は童貞を卒業出来てしまう。




これ考えたやつ、まじ天才!




1ページしか使われず眠ることになるだろうノートを机の引き出しにしまい、通学準備をする事にした。
















「また早く登校してしまった。」




ゆっくり準備しても時間をもて余し、登校してみたら、昨日と殆んど変わらない時間に学校に着いてしまった。






「あ、松本くんおはよー!」




「おはよう、大水さん」




今日も大水さんが先にいた。




美人は3日で飽きるというが、素朴な顔の大水さんはだんだん可愛く見えてくるから不思議だ。






「大水さんの家、犬飼ってるんだ。いいなー、見てみたいな」




「おうち近いし、散歩してるときに会えるかもね」




そこは家に招待するべきだろ。




つれない女だ。




そんなこんなで、今日も大水さんと仲の良い女子が登校してきてお開きとなった。










「おっぱお」




渡邉が現れた。なぜかどや顔をしていてキモい。




「なんかいい事でもあったん?」




「ゴム、買った。」




「まじか」




まさか制服のままコンビニでコンドームを買うとは、少し渡邉の事を見直した。




「昨日はんぶんこするって言ったけど、お前裏切ったから無しな。」




「昨日は不可抗力だよ、しょうがないじゃん。」




「まぁそうだな、仕方ない。1個だけやるよ」




そう言って渡邉は手をグーにして前に出した。




僕が手を出すと、周りに見えないように手に乗せてくれた。




僕はすかさず手を引っ込め、ポケットに突っ込んだ。




「お前マジいいやつだな! ありがと。」




「気にするな。それより昨日はどこまでいけた?」




「何も無かったけど、もうちょいでやれそうかな?」




「ふざけんな! お前約束を忘れた訳じゃ無いよな?」




「ああ、覚えてる。でも、人生上り坂あり、下り坂あり、そしてまさかありって言うし、その時はその時じゃないかな?」



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

渡邉とは中学一年の時から同じクラスだった。




入学当時僕は、部活訪問で吹奏楽部を見学していた。




その時、先輩の演奏を聞かせてもらったのだが、女子生徒が笛の類(興味無いからわからん)を吹く際、口をすぼめるのに気づいた。








ーーこれ、フェラ顔じゃね?








僕は先輩たちの演奏に魅入っていた。




ふと、横を見ると、目線が先ほどの僕と同じところにある人がいた。














ーー渡邉だ








彼も僕に気づき、そして悟った。






同じ闇を持つものーー






性犯罪者予備軍ーー








僕達はすぐに友達になった。




その時に交わした約束








「「一緒に魔法使いになる」」




30歳まで童貞を貫き通すことが出来たら魔法使いになれる。




僕達は童貞を卒業出来ないのではなく、魔法使いになりたいのだ。




と、自分に言い聞かせていたのだが、おそらく渡邉もやれる状況になれば、すぐに裏切るのだろう。




僕達の友情なんてそんなものだ。












「もし裏切ったなら、罰としてハメ撮り動画俺にみせろよ。」




「了解」




絶対にみせないし撮らないけど、その時がきたら彼に真っ先に自慢してやろう。


















結局今日も大水さんとアドレス交換は出来なかった。






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