LV7 新たなビギナー二人

 それから、また一週間が経った。ブレダンの生産台数も上がり、続々と抽選を受け付ける店舗やサイトが増え始めた。そのことで少しクラスでも話題になった。

「わたし、ブレダンの抽選、申し込んじゃった!」

「わたしもー。当たったら一緒にやろう!」

 などとクラス中が盛り上がる中で俺は一人、エクドラの攻略サイトを覗いていた。

「よお、鋭次、相変わらずハマってるな」

「優斗か、なんだよ」

「俺、ブレダンが今日届いたんだよ」

 眼鏡を光らせ、ニヤリと笑った。

「え? お前が?」

「ああ、抽選に当たって、今、商品が届いたって母さんからメッセージが来たんだ」

 一応、訊いておこうか。俺は答えがわかり切った質問をした。

「で、なにをお遊びに?」

「決まってんだろッ! エクドラだよッ! エクドラッ!」

 こっちの席に近づいたリンが優斗を見て話しかけてきた。

「へえ。アンタもやるんだ」

「リンッ! 何しに来たんだよッ!?」

「こっちの方でも数人が届いたって話をしてたのよ。だから……」

「今日のパーティは参加できないってことか?」

「うん、ごめん……」

 なんか元気がないな。一緒に来れないのがそんなにショックだったか?

「仕方ない、と言いたいが、お前が勝手についてきていただけだからな。断る理由はないと思うんだけど」

「いいじゃない。言わなきゃ待ち続けることになると思ったからよ」

 確かに、そうだな。

「そういうことなら、あいには伝えておくよ」

「ありがと、そゆことでッ!」

 リンは伝えるだけ伝えて教室から走って消えていった。

 俺は優斗から頼まれる。

「なあ、鋭次、よかったらだけど……」

「まあ、セットアップくらいは付き合ってやる」

「サンキューな」


 そしてその夜。

「――えっと、どれどれ」

「せめて、ドライブが扱えるほどの職業にしとけよ。【トーユ】」

 【トーユ】、それが優斗のプレイヤーネームだ。ドライブは平凡な【オートリカバリ―】、HPの自動回復のものだ。必然的にVITが高い職業が望ましい。

「わかってるって……これはどうだ?」


【聖騎士(パラディン)】

〈STR〉C 〈VIT〉S 〈INT〉A 〈AGI〉C 〈DEX〉D 〈LUC〉A

耐性:光 弱点:闇


 こいつ、引きが強いなッ! これ、攻略サイトにも載っていたレア職業の方でも当たりの方だと書かれたものだ。初心者お勧めのトップ1に載っていた。といってもこれが出るかは運次第なんだが。

最近になって載った情報だとドライブと選べる職業はリセマラが不可能。つまり、ドライブと職業は出た時点で確定しているものだ。それをトーユは引き当てたのだ。

「これ、お勧めの職業だ。俺より優れているぞ」

「わかった、じゃあこれなッ!」


 もはや何十回目かのシルフの里に着いた。

「ここがエクドラの世界か。鋭……エッジ」

「おいおい、こんなところでリアルネーム呼ぶんじゃない」

「わかってる。気をつけるよ、エッジ」

 でも、最初はこんな感じか。

「それじゃあ、宿屋にでも――」

 トーユのステータスを確認しに行こうと思った矢先、セッティングサポートのメッセージが届いた。突然のことで驚きを隠せなかった。

 誰だ? 心当たりがないぞ?

 メッセージが添付されている。どれどれ――。

『今、隣の部屋で始めたばかりです。覚えていますでしょうか、小さい頃、あいお姉ちゃんといつもべったりとくっついていた日々のことを。そして、なにかあることに――』

 メッセージは途中だったが、送り主の目星は付いた。

「すまん、ここで待ってくれ」

「いいけど、すごい顔してるぞ、エッジ」

 ああそうか、多分それは人に言えないような顔ってもんだよ。

「そうか? すぐに戻るからさ」

 俺はまたセッティングサポートルームに転移していった。


 転移した先にいた青い服を着た男がいる。間違いない。

「くそ兄貴があぁぁぁぁぁッ!」

 俺は兄に目掛けてドロップキックをお見舞いしてやっ――。

 あ、外れた。

 俺は床に大きく叩きつけられた。まぁ、自業自得なんだがな。

「なにをやっているんだ。危うく当たるところだったぞ」

「当たってくれたら気が楽だったんだけどな。兄さん」

 兄さんは、はあ、と溜め息を吐いて腰に手を当てる。

「こうでもしないと来ないだろ。お前は」

「なんで兄さんがブレダン買ったんだよ?」

 俺は床から立ち上がりながら訊ねた。

「ああ、それか。父さんが予備で注文した分が届いた」

「そういうことかい。それより、あのメッセージはないんじゃないか?」

「来てくれただけ効果があったものだ」

 間違って違う相手に送られたらどうするつもりだ、この馬鹿兄貴は。

「で? プレイヤーネームはどうしたんだ?」

「そうじん。蒼の刃で、蒼刃」

「なるほどね。もじったわけか」

 蒼次から蒼刃。なんて安直な。

「お前も似たようなものじゃないか。エッジ」

「うッ」

 カウンターを喰らった。

「ま、なんにしろ。こういうのは初めてだ。手伝ってくれ」

「なんで、セッティングサポートのことを知っていたんだ?」

「あいにやり方を教えてもらった」

「あいに?」

「ああ、伝言も預かっている」

「伝言?」

「今日はリンのところに行くからごめん、と」

「……」

 トーユが待ってるし、戻ろっかな。

「お、おいッ!? 説明を放棄するなッ!」

 でもなぁ、放っておいて下手に母さんに告げ口されても困るし、しょうがない。

「はいはい……」

 手伝えばいいんでしょ。手伝えば。

「露骨にテンション下げたな、こいつ……」

 兄さんはゲームをする方じゃない。むしろ、俺より社交的だし運動的だ。

「……しょうがねぇなぁ」

「それで? ドライブとやらがこれなんだが――」


ドライブ【修羅】

『VITを犠牲にSTRとAGIが上昇する。任意に切り替えが可能』


「見たことも聞いたこともない……」

 攻略サイトを隈なく見たつもりだが、載っていないものだ。

「そうか……。VITとは防御力だろ?」

「ああ、そうだけど……」

「それを犠牲に、攻撃力と機動力を手にするのは――」

「充分じゃないか? 兄さん、運動神経はいいから」

 実際、去年の体育祭でMVPに選ばれていたし。

「そうか?」

「次に職業見てみろよ、まともな職業にありつければいいがな」

「職業か……。あ、これなんてどうだ?」

「どれどれ……?」


【鍛冶屋】

〈STR〉S 〈VIT〉B 〈INT〉C 〈AGI〉B 〈DEX〉S 〈LUC〉E

職業スキル【製造上達】

『装備を製錬時、分解時、経験値が付与される。またスキル獲得、上達にも補正がかかる』


 これも見たことのない職業だ。職業スキルなんてものも初めて見る。

「これ、標準的なものか?」

 俺は首を横に振った。

「ないない。職業スキルなんて初めて見たもん」

「なら、これにしてみるか」

 兄さんも面白半分で選びやがって。

「いいのか? どう考えても、ソロ向きではないけど……」

「いいんだ。楽しめればそれでいい」

 兄さんは迷わずに【鍛冶屋】を選んだ。


 セッティングルームからシルフの里に来た俺と兄さん。

 兄さんは周りを見渡して俺に訊ねた。

「これがエクドラの世界か……鋭、エッジ」

「それ、二回目だよ……」

 トーユと同じことを言いやがる。

「俺、友達と行くけど、どうする?」

「初心者をほったらかしか?」

 確かに、このままだと母さんに告げ口圏内だな。

「わかったよ。俺の友達と合流するから、ついてきて」

「ああ、頼む」

「おーいッ! エッジッ!」

 黄色の服の男子、トーユが助けを乞うような声で呼んでいる。

「トーユッ! どうしたぁッ!?」

 トーユが手を上げて俺に助けを求めている。

 どうやら男たちに囲まれそうになっているな。

 なるほど、そういうことか。

「訳の分からないおっさんたちに付き纏われてッ!」

「かまうなッ! 俺の元に走って来いッ!」

「ああッ!」

 トーユが男たちを振り払って俺たちの元へ走ってきた。

 それを見た男たちは残念そうにしながらその場をそそくさと去って行った。

「なに言われたんだ?」

「俺とパーティ組まないか、って。何度も断ったんだけど」

 やっぱしか。

「そりゃ、【聖騎士】だからな。勧誘も激しいだろうさ」

「エッジ。隣にいるのは?」

「初めまして、エッジの兄の蒼刃だ。弟が世話になっている」

「あ、いえいえ、俺こそ、始めたばかりで……トーユといいます」

 なんか、気恥ずかしいな。俺、どの立場にいればいいんだ?

「名前呼びでかまわん。よろしく頼む」

「はい、蒼刃さん」

「そうではなく……まぁいいか」

 ってことは、今日俺は……。

「結局、俺が二人のレベル上げに付き合わなきゃならんのか」

「頼むよ、エッジ」

「エッジ、俺たちの面倒を頼む」

 断ってリアルで恨み言を言われたくないしな。

「……わかった。手頃なダンジョンへ行こう」


 トーユの装備はこうだった。


武装【ナイトソード】STR40

盾【グランドシールド】VIT50


 兄さんの装備は――。


武装【鬼刀】×2 STR40×2


 どうなってんだ、この装備。

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