LV3 初めての決闘

 あいがエクドラの世界にハマって一週間、ここのところはあいと一緒にダンジョンを攻略することが多かった。すでに俺が踏破したダンジョンが主だが、それでも攻略を終えると、必ず笑顔でハイタッチしてくれる。その顔がなにより眩しくて、俺にゲームの楽しさを改めて教えてくれる。しかし、そろそろ知っているダンジョンも少なくなってきたな……。

「次はどこ行こっか?」

 あいが俺の顔を覗き込んで訊いてきた。

 俺はその顔に背きながら考えた。

「と、とりあえず、アイテムショップで換金しようか」

 咄嗟に思い付いたことだが、資金繰りにはいいと思っていた。あいのモンスターのアイテムドロップは必ずと言っていいほど出てくる。それがダンジョンのボスモンスターであってもだ。これならショップに売りにいけば、いい資金になるはずだ。

 しかし、シルフの里に慣れたあいが俺の歩く先に、違和感を抱いていた。

「ねぇ、アイテムショップ通りってこの先じゃないよね?」

「ちょうどいいアイテムショップがあるんだよ」

 ドロップしたアイテムを運営直属のアイテムショップに売っても大して金にならない。

「ユーザーが営業している店舗の方が高く買い取ってくれるんだよ」

「なんで?」

「ドロップ素材が欲しい、鍛冶屋とかの製造業を営むユーザーに渡るんだ。ドロップだって確実にするわけじゃないから」

 そう、【ビギナーズラック】によって確定で落ちるあいとは違って。

「なるほど、素材が活かされて、お金も儲かるッ! いい仕組みだねッ!」

「あい……現実のお金に換算できないからね」

 あいは昔から金にがめついところがあって、小さいころ古い自販機の下の小銭を取ろうとして挟まって抜けなくなってしまったことがあるほどだ。でも、あれ?

「そういや、なんでブレダンとエクドラ買ったんだ? エクドラはともかく、ブレダンは高い買い物だろ?」

「ああ、それね。父さんが買ったんだけど、今までのハードと間違えたんだって、だからあげるって貰っちゃった」

「……おじさん、ゲーム好きだけど、VRは苦手だったな」

 なんか納得できた。古風な人だったから、コントローラーで遊ぶのが好きな人だったもんな。

「父さんで思い出したけど、鋭次く……エッジと遊んでるって言ったら、安心してたよ」

「そ、そうなんだ……」

 おじさんには安心されてるんだよなぁ。よく一緒に遊んでいるからだろうか。

 そんなこと思ってたら、うっかり目的地を過ぎてしまった。

「ごめんッ! 俺の知ってる店ここッ!」

「あれが? NPCの建物にしか見えないよ?」

 俺は一見、NPCと変わらない建物の扉に手をかけ、開けてみる。

 すると、暇そうにしているな少女が一言。

「らっさーい」

「おい、接客しろよ、リン」

「リンちゃん?」

 あいがそう呼んだのは無理もない。実際リンは、身長150もなく、長いツインテール、小柄な体格でチャイナ腹の少女なのだ。

「なんなのよー。鋭次」

「お前、ここではエッジと呼べよ」

「いいじゃない。どうせ、客来ないしー」

 俺をリアルネームで呼びやがる。ここでそう呼ぶなよ。

「エッジとリンちゃんって知り合い?」

「リンちゃんはやめてよ。鳴神先輩」

 だから、リアルネームで呼ぶなっての。ああ、ダメだ。ふて寝しやがる。

「なんで、わたしの名をッ!?」

「いや、緊迫した雰囲気出さんでいいから……俺の隣のクラスだよ」

 本当に客が来ない……マジで来ねぇなッ!

そう確信した俺は軽くリンを紹介した。


 遡ること、三日前、俺のエクドラの体験談を優斗も含めた男子友人に聞かせた時であった。攻略サイトに載ってしまったレア職業とレアドライブを引き当てたと自慢した瞬間であった。

「アンタが大神鋭次? 腑抜けた面してるかと思ったらいい顔じゃない」

「誰、だ?」

 突然の女子の乱入に戸惑いはした。だが、姿を見てピンと来なかった。

「あたしは帰国子女、李雀凛(リ・ジョリン)よッ!」

「……誰?」

「ああ、中国からの帰国子女だよ。日本育ちの……」

「へえ……」

 俺は優斗たちに顔を振り向きなおすと、リンが机を叩いて乱入してきた。

「なにあたしを無視してくれてんのよッ!」

「だって、そんな決闘状を持ってきたような雰囲気出されても……」

 そう言うと、俺に指差し始めた。こいつのアクションにクラス中が注目し始める。

「そのまさかよッ! 鋭次ッ! アンタの話を聞かせてあのキャラだって特定できたわッ!」

 最悪だ。調子乗って自慢なんかするんじゃなかった……。

「でも、このままだと鋭次が不利なんじゃないか?」

『そうだッ! そうだッ!』

 いつの間に、こんなギャラリーがッ! みんなに聞かれてたッ!?

「わ、わかったわよ。鋭次、攻略サイトで調べてみなさい」

 雀凛は、みんなの圧に押されて情報を開示し始めた。

「なんて職業とドライブだ?」

「【ナタク】と【アルトロン】よ。レアでしょ?」

 攻略サイトで『ナタク』、『アルトロン』を検索した。

「あった、これか」


職業【ナタク】

〈STR〉S 〈VIT〉A 〈INT〉A 〈AGI〉D 〈DEX〉D 〈LUC〉D

ドライブ【アルトロン】

『火龍を二頭使役する』


「召喚系のドライブ、だとッ!?」

 攻略サイトで二つの情報を見たが、ドライブの能力に俺は驚いた。火龍がどういったものかはわからないが。

「ステータスも馬鹿みたいに大きいぞッ! 鋭次ッ!」

 優斗が驚くのもわかる。だが、俺が驚く理由が見当たらない。あいの【メカ少女】見た後だと……。

「誰が馬鹿よッ! いいッ!? 今夜決闘に応じなさいッ!」

「ええ……先約があるんだけど」

「ああ、あのアホ先輩ね」

 プチン。あいのことか。俺の中でなにかが切れた。

「それなら断っておきなさいよッ! だったら――ッ!」

「そんなに泣きたいなら、泣かせてやるッ!」

 挑戦状を受け取ってしまった。ダメだ、俺もこいつも火が付き始めちゃった。

「へえー。随分な自信ね。いいわ、灰にしてあげるッ!」


「――じゃあね、エッジ」

 いつも通り、ダンジョンの攻略を終えて街に戻るとあいはログアウトした。今日予定があることを言うと、あいも溜まっていた宿題を片付けたいとのことだった。

「ああ、また明日な」

 あいが消えるのを見送っていると、俺は足を決闘場へとむけて歩き出した。

「さて、例の時間まで随分あるな……」

 今から対策といっても、なにも思いつかないんだがな……。焼け石に水っぽいし。焼け石に水……。

「馬鹿でも火龍、だもんな」

 そう言うと、俺は早速、準備を始めた。ダメで元々だ。


「時間通りね。焼かれる覚悟は――」

 背丈以上の青龍刀を軽々しく構えたリンが決闘場で待っていた。

 リンの服装は、素のVITが高いことをいいことに、服装は赤色が中心に中華の武人をイメージした装いをしている。特に、肩から腕にかけて分離、露出している袖は腕でひらひらしている。ひらひらの裾から膝を見せてくる。そのいでたちは関羽を彷彿とさせた。

「ねぇよ。アンタを倒すことしか考えてなかったからな」

「ふぅん。ギャラリーも多いみたいだしとっとと始めましょ」

 ドローンカメラまで付いている。どうやら、別端末でも視聴がされているようだ。

「いいぜ。来いッ!」

 俺の言葉を機に『決闘開始』のメッセージが入る。それと同時にリンの手から炎が纏う。

「一気に決めてあげるッ! 【ファイアーボール】ッ!」

「やはり、火魔法を主に心得ているかッ!」

 イメージ、ドライブの通りに合わせて来たか。氷の弾丸を何発か浴びせる。

「氷漬けにしようなんて無駄よッ!」

 HPが減っていない。氷のベレッタをしまい、小太刀に持ち替えて接近する。

「【影分身】ッ!」

 スキルを発動すると俺の姿が何人にも増えていく。説明しなくてもわかりやすいスキルだ。

「消えなさいッ!」

 分身を消した一撃で、がら空きになった足元へお見舞いするッ!

「遅いッ! 【参式】ッ!」

 青龍刀と地上の僅かな隙間からリンの足元へ蹴り込むッ!

「体術……ッ!?」

 そうだ。お前の苦手なスピードで立ち向かってやるッ!

「【陸式】ッ! 【壱式】ッ!」

 続けて突きの拳、回し蹴りッ! 三度も攻撃したというのに、ダメージが一、二割。無理もない。素のSTRでの攻撃になるから、高いVITを持っているこいつにはそれぐらいしか効かないことだとは思っていた。

「【弐式】ッ!」

 空中からの踏み付け連撃ッ! さて、これでどれくらい削れるかッ!

「【スーパーノヴァ】ッ!」

 リンから熱気を感じたと同時に離れたが、自身を中心に炎を爆発した衝撃波を受けたが体勢を取り直した。格闘ゲームで例えると、瞬時に無敵状態で整える防御技、バースト、といったところか。

「舐めないでよ……ッ!」

「少し、疲れたみたいだな」

「なんですってッ!?」

 よし、乗ってきたぞ、いい子だ……ッ!

 戻ってくる【疾刀】二刀がリンの首筋に――ッ!

「――なんて、乗ると思うッ!?」

 微かに一刀が肩を斬りつけただけか。どうやら猪突猛進に進むほど単純じゃあないようだ。

「正直、これでHPの半分を削るつもりだったがな」

 俺は投擲した二刀をキャッチし、攻撃の構えを取る。相手のHPは六割半ば、こっちはさっきの【スーパーノヴァ】の衝撃波で残り九割になった。攻撃を受けることは想定外だったな。

「あたしも、パーフェクトで勝つつもりだったのよッ!」

 青龍刀を振りかざして斬りかかりに来たッ! しかし、攻撃は紙一重で――ッ!

「【爆炎砕】ッ!」

 ダメだッ! 咄嗟に反応して駆け出すが、砕けた地面の塊が俺にぶつかりHPを5も減らされた。

「【旋風斬】ッ!」

「くッ!」

 風の横薙ぎ。ダメージを受ければHP半分以上、最悪その一撃で終わる。火属性のベレッタを地面に撃った。リンに与えるためじゃない。対空時間を延ばすためだ。結果として着地点にほんの数瞬遅れただけで回避できた。

「中々、やるじゃないッ!」

「当たったら、負けだからなッ!」

 その後に突きを繰り出され、俺は後退する羽目になった。

「【アクアエッジ】ッ!」

「無駄よッ! 【ファイアーボール】ッ!」

 そうかな? 今日、突然言われてある対策をした甲斐はあるぜ。

 水の刃をリンに直撃する。水の刃はリンのHPを半分、ゲージバーもオレンジ色になった。

「なにッ!? 水の刃があたしの【ファイアーボール】をッ!?」

「簡単な話だ……」

 今日、あいと水の街であるウンディーネの港に向かった時、あいが偶然にも敵からレアドロップした青色の籠手【水龍王の籠手】を二つも手に入れたのだ。それをあいに頼んで譲ってもらったものだ。彼女からしたら自分が装備できないというのが快く譲った理由の一つだろうが。

特殊装備【水龍王の籠手】強化:水 耐性:火 INT40 AGI30

特殊スキル【水龍王の加護】

『水属性のスキル、魔法、ドライブの効果が一段階強くなる。また、火属性に対して強くなる』

 曖昧な説明だったが、効果はあったな。火属性を主体に戦う彼女には、この防具は抜群だな。とはいえ、VITが上がらないことには変わらないが……。

「【イグナイトランチャー】ッ!」

 【ファイアーボール】とは桁違いの速さの弾速の炎の弾を放ってきた。これは【アクアエッジ】ではどうにもならないな……。着弾跡が爆発しているしな……。

 しかし、未だに【アルトロン】を出してこないな。俺が【神雷】を使った直後でも狙っているのだろうか。これじゃ、リンがボスキャラじゃないか。

 リンがまた火属性の魔法を放ってくるぞ。こっちが避けても、すぐに回転してくるだろう。

「【イグナイトランチャー】ッ!」

「【ウォータートルピード】ッ!」

 こっちも水魔法で迎え撃つッ! 覚えたてだがなッ!

 水のミサイルは炎の弾を弾き返し、リンへと突き進んでいった。このままいけば、水の魔法でHPを――。

「くそッ!」

 リンは吐き捨てながら、青龍刀で水のミサイルを斬って爆発させる。

 無論、爆発させたら周囲にダメージが入る。それでも、直撃するよりはダメージを抑えられる。リンのHPが半分を下回っていく。

 水魔法を以ってしても、か……。有効な手立てはすべて見せてしまったな。あいつにはまだ他に【アルトロン】を出していない。俺も【神雷】を出していないが、攻撃手段とはなりえない。他に力押しの技があるはずだ。青龍刀を構えだして、斬りつける、いや、あの構えは……。

『【紅円刃】ッ!』

 中距離系の攻撃スキルッ! やはり持ち合わせていたかッ! 避けて反撃すればッ!

「【アクアエッジ】ッ!」

「【イグナイトランチャー】ッ!」

 やはり、そう来たかッ! 俺の水の刃が炎の弾に蒸発されていく。流石に威力が違い過ぎると効果がそれだけになるか。炎の弾は弱まったが、地面に着弾して爆発する。その隙に、俺はリンに近づく。水属性ではないが――。

「【氷蒼刃(ひそうじん)】ッ!」

「馬鹿ねッ! 【紅円刃】ッ!」

 二刀の小太刀から放たれた蒼の氷の刃を二連続。青龍刀から放たれる炎の回転する斬撃波。お互いから放った斬撃がぶつかり合い、互いの中間で爆発する。いや、炎の回転する刃が俺のすぐ横を通っていった。気を抜いていた。てっきり相殺したものだと思っていた。

「あたしに氷は効かないわよッ!」

 その言いよう、素直に受け止めるなら彼女は氷に対抗できる装備かスキルを持っているな。

 となると、火と氷のベレッタはともかく、氷のスキル、魔法も使えないな。他属性のスキルや魔法はあるが、水属性が効いているからそれを重点に使いたい、ところだが、水属性の攻撃スキルと魔法は見せてしまった。水龍王の籠手で攻撃力を上げてはいるが、別に水属性の技が増えたわけじゃない。

「【ファイアーボール】ッ!」

「ちいッ!」

 また炎の弾が飛んでくる。俺はそれを躱す。

 それにあの魔法の使いよう、MPも多いと見て間違いないだろうな。少なくとも俺よりは。

 決闘中の原則ルールとしては、アイテムの使用はできない。純粋なステータスと装備、スキル、魔法による闘いだ。素のステータスからして俺の方が不利だろう。

 このままでは、【アルトロン】にお目にかからず負けてしまう。

 【影分身】も見せた。体術も見せた。魔法も見せた。もうその対抗策を練っているはずだ。

 どうする? 俺が勝つには――。

「どうしたのかしらッ!? もう、打つ手なしッ!?」

 この手しかないッ! 考えるのは後でいいッ!

 俺はがむしゃらにリンに突っ込んでいった。

「とうとうヤケになった? もうアンタに勝つ手なんて――」

「無理にでも引きちぎってやるさッ!」

 俺は【ファイアーボール】の弾幕を掻い潜りながら回し蹴りを行った。

「【壱式】ッ!」

 ダメージを受けてのけぞった隙に、連撃を叩き込んだ。

「【肆式】ッ! 【伍式】ッ! 【陸式】ッ!」

 裏拳、拳での連撃、突きの拳、まだまだッ!

「【漆式】いぃぃぃッ!」

 俺はリンの襟を掴み、地面に投げ倒した。倒れたリンにすかさず、水魔法で連撃する。

「【アクアエッジ】、二丁ッ!」

 二つの水の刃を投げ飛ばすと、俺はすかさずリンの傍から離れた。もうそろそろあれが来ると本能で察したからだ。

「【スーパーノヴァ】ッ!」

 リンが叫びだすと同時に、炎の爆発の衝撃波が周囲に放たれた。もう一撃与えようとしなくて正解だった。まともに喰らわないにしろ、ダメージを負っていただろう。しかし、こっちのHPが一撃で致命傷になるのはもちろんだが、リンのHPも赤になっている。残り二割は切っている。

 リンが先ほどと違い大きな叫び声を挙げたことからある推測が脳裏によぎった。【忍者】はお世辞にも幸運とはいえない。この直感を信じてみようッ!

「【アクアエッジ】ッ!」

 立ち上がったリンにめがけて、遠距離から水の刃を放ってみる。すると、リンは青龍刀で斬って防ぎ始めた。

 やはりか。だが、ブラフかもしれない。もう二連撃、様子を見てみるか。AGIの高さを活かして彼女の背後をすぐにとることは容易であった。リンのAGIを推測できる範囲じゃ、すぐに反転してこない。これで真意がわかるッ!

「【アクアエッジ】ッ!」

 両腕で構えて水の刃を受ける。残りのHPが一割を残した。次は距離を取って、発動するッ!

「【アクアエッジ】ッ!」

 今度は受ける構えを取らない? すると、リンの上空から炎が噴かれ、水の刃が打ち消される。俺は思わず、上空へ見上げる。上空には赤い炎の龍がリンの上に滞空していた。

 その時、瞬時に理解した。ここに来て、【アルトロン】が来た。それと、リンにMPはもうないこと。思い当たるとしたら、炎属性の魔法の【スーパーノヴァ】。あれが大きくMPを喰らう魔法なのだろう。例えた格闘ゲームでもあれを連発できないように制限が付いたりするものだ。

 しかし、妙な違和感がある。二頭いるはずの【アルトロン】が一頭、俺の目の前にいない……。

「ってことは後ろかッ!」

 そう叫ぶと同時に縦方向に移動しないように回避した。

 その瞬間、火龍がさっきまで俺のいた場所をガブリと噛みついた。

「ちいッ! 一頭ずつ別行動、できるってわけかッ!」

「そうよッ! あたしは負けるわけにはいかないのッ!」

 リンの【アルトロン】、二頭はそれぞれ別行動できる。つまり、攻撃しながら防御に回るのだって容易なはずだ。しかし、リンは滞空していた一頭にも、防御から攻撃へと命令した。

「これでアンタも終わりよッ!」

 そう、残りHPに余裕がないリンは最後の最後にドライブの【アルトロン】を召喚したのだ。優勢になったかと思えば、一気に劣勢か。三対一になったものだからな。

 火龍に攻撃するか? いや、効かなかったらどうする。いや、ここまで来て考えるのはなしだな。

 【神雷】発動ッ!

 リンもここに来てやっとまともな勝負に乗ってくれたんだッ! だから、俺もこの勝負に乗らざるを得ないッ! じゃなきゃ、リンに勝てねぇッ!

「いくぞッ!」

 目指すはリン、本体だ。【神雷】ならすぐに――。

 そうはさせないかと、リンの前を二頭の火龍から炎が放たれていた。発動が少し遅かったか、放たれた炎が煙のように俺の前を防いでいた。迂回することを一瞬考えた。しかし、身体は炎の中に、入っていった。ダメージは受ける、当然だ。焼かれているのだから。そして、【神雷】の状態が解ける。

 それでも、炎を抜けた。抜けると、残りHPは驚きの1。そこにはリンが青龍刀を振りかざしていた。俺の【神雷】を見越しての斬撃なのだろう。しかし、一秒遅かったな。俺は二刀の小太刀を握り締めて突進する。

「覚悟ッ!」

「エッジッ!」

 リンの声が正常に聞こえた。互いがすれ違い、俺はリンの背後にいた。炎による攻撃の影響か、全身火傷の感覚になって膝をついた。夢中だったから気づかなかったな。もうこの後、動けないや。しかし、追撃はない。背後で火龍の悲鳴と、プレイヤーが倒されて消える音がするだけだ。

『勝者、エッジ!』

 そのアナウンスが決闘場に響き渡る。決闘場はギャラリーの声で湧き上がった。しかし、疑問だ。どうしてこんなにギャラリーが――。

「おめでとうございます。エッジ君」

 この男の声、もしや……。俺は火傷の痛みに耐えながら、声のする方へ顔を向けた。

「ほら、とりあえず、HP回復のポーションをどうぞ。焼かれたその身に効くでしょう?」

「アタル……テメェか」

 アタルによって治った身体を立ち上がらせながら、アタルを睨みつける。色々訊き出さないといけないらしいな……。

「とりあえず、決闘場から出ましょう。話はベッドの上でも」

 俺はその言葉を聞いた瞬間、背筋が凍った。

「アンタにそんな趣味あるとはな……。俺は帰らせてもらうぞ」

「冗談ですよ。僕だって可愛い女の子が好きですよ?」

「ロリコン?」

「失敬な。僕は清純な女が好きなだけですよ」

 こいつと決闘場で好みの女子の話をしても仕方ない。ついていくか。

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