LV2 ビギナーズキラーと銃と

 俺とあいは街から出た最初の森、トレントフォレストへ訪れた。あいはここに来る途中で何度もモンスターを撫でようとしていた。俺はそれを止めるので精一杯だった。

「ここのモンスターって可愛いの多いね」

 今まで出会ったモンスターがもふもふウサギ、カワオタマ、キッズトレントと可愛いものばかりだとあいは目を輝かせる。

「そうだな。気にもしなかったけど」

 当時VIT0の俺にとっては最初の鬼門だったからな。どの敵も一撃で殺しに来るから。

「倒さなきゃ、ダメ?」

「うん」

「わかったよ、できるだけ可愛くないのがいいかな」

「まだLV1だろ……」

 この調子じゃレベルアップは大分先だろうか。そう考えると、あいが指差して言った。

「おッ、あれだったら倒せるよッ!」

「まあ、あれだったらあいでも……って元からステータス高いから大丈夫か」

 あいが倒したいというモンスターがやっとの思いで現れた。バカガエル。可愛げがない。

 あいが槍を両手に構えて突きを繰り出そうとする。バカガエルも気づいてあいに近づく。

「いっけえぇーッ!」

 あいが突き刺すッ!

「やったかッ⁉」

 あいの槍の穂先はバカガエルに突き刺さり、HPゲージが緑から赤に変わり、空白になって光になって消えた。

「やったよッ!」

 あいは俺のところへ戻ってきてハイタッチした。たったのバカガエルを一匹仕留めただけなのに、あいには嬉しいのだろう。

 ッ! 殺気を感じたッ!

「危ないッ! あいッ!」

「おわあッ!」

 俺はすかさずあいの手を引っ張った。彼女の悲鳴とともに、弾丸が通り抜けていった。危なかった。あとちょっとのところであいは……。

「おっとお、惜しかったなあ」

 俺は声のする方へ顔を向けた。中年で太っている男性が二挺の拳銃をこっちに向けていた。

「キラーかッ!」

「キラー? 殺人者ってこと?」

 あいの言う通り、キラーは殺人者、プレイヤーキラーで間違いない。

 プレイヤー同士による戦いは決闘機能、団体によるものであれば決戦機能が搭載されている。それ以外での故意のあるプレイヤーキルや、過度なフレンドリーファイアは原則許されない。その証拠にキラーにはフレンドでないと認識できないHPゲージがモンスター同様、頭上に出現する。それも、こいつ、攻略サイトに載っていた――。

「しかもこいつ、噂の初心者キラーだッ!」

「バレてしまっちゃあ仕方ねえ。出て来いッ!」

 樹々の茂みからHPゲージのある男たちがぞろぞろと現れた。十数人はいる。

「エッジ……」

 あいが槍を抱きかかえながら俺の後ろに引っ付く。状況的に喜びたいところだったんだがな。

「ここまでの数を揃えて初心者狩りなんて恥ずかしいよなッ!」

「うるせえッ! 勝てばいいんだよ、勝てばなッ!」

「だったら……ッ!」

【神雷】発動ッ!

 二刀の小太刀でこいつらを斬り裂くッ! まずはそこの弓矢使いッ! その次に短剣使いッ! 初心者狩りをしているだけあって、こいつらのHPのVITは低いッ! これだけの数なら、【神雷】の効果が切れるまでいけるかもしれないッ! 一人の【神雷】持ちがいることに気づいていれば。

「うッ!」

 俺はダメージを負ってしまう。そのせいか、スローモーションの世界から目覚めさせられた。

「馬鹿めッ! そのドライブがお前だけの力だと思ったのかッ!」

 キラー隊の中に一人、俺と同じドライブを持っている奴がいた。考えてみればそうだ。見かけなかっただけで、レアはレア。唯一無二のドライブではなかったのだ。俺はそいつの攻撃を掠ったとはいえ、ダメージを負ってしまい、【神雷】の効果を切らせてしまった。相手は発動して間もないころだ。だからこそ、まずいのだ。相手にダメージを与えなければ、長時間耐えなければ、【神雷】の効果が切れないッ!

「ちいッ!」

【神雷】が敵に回ると厄介だ。連撃を防ぐだけで手一杯だ。俺は【神雷】の刃に刃を合わせるだけで手一杯だ。すべてを防いでいるわけでもない。ただでさえLVの割に低いHPとVITだ。このまま連撃を防ぎ続けようものなら、効果が切れる前に俺のHPが無くなっていくのが先だろう。それでも、俺の反射神経で防ぎ続けていく。

「大丈夫ッ⁉ エッジッ!」

 あいに手助けをしてもらいところだが、残念なことに俺は敵陣の上、あいも取り囲まれている。初心者の彼女ではまず、周りの敵から脱する策を――ッ!

「待っててッ! 今、助けに行くよッ!」

 あいが乱戦の中から抜け出して膝のバーニアで俺のいる上空へ突き進んでいた。

 そのあいが突き出した穂先が【神雷】を発動中の敵に触れた。この瞬間、男のスピードが途端に遅くなった。こうなれば後はこっちのものだッ! 少し距離を取ってしまったが、攻撃スキルで応用できるッ!

「【圏閃牙】ッ!」

 【圏閃牙】は所持武装をブーメランのように投げる技。二刀の小太刀を連続で男に斬り刻んだ。

「ああぁぁ……ッ!」

 男が光へと消えていき、俺は地上に足を着けて、投擲した小太刀が返ってくるのを受け取った。

「助かった、あいッ!」

「いいっていいって」

 正直、あいに助けられるとは思わなかった。あの一撃がなかったら、俺はおろか、初心者のあいもやられていたに違いない。

「お、おのれえぇ~ッ!」

 ボスの男が地団駄を踏んでいた。それと同時にキラーたちが押し寄せてくる。

「次、来るぞッ! あい……」

 あいが地面からなにかを拾っていた。

「ねえ、これ、落ちてたんだけど……」

 紛れもなく、それは――。

「二挺の拳銃?」

「それは、ニトのッ!」

 ボスが叫んだ。キラーを倒せば、モンスター同様にアイテムを落とすのか? 攻略サイトに載っていない情報だ。しかも幸運だ。あいの手には、ずっと欲しかった銃の武器だ。

「あい、一挺の拳銃をこっちにッ!」

「うんッ!」

 あいから一挺の拳銃を受け取ると、すぐさま、左手の小太刀をしまい、一刀一挺の構えをとる。小太刀から拳銃に変えたおかげでSTRは落ちたが、【神雷】のクールタイムはあるが、この拳銃一挺でこっちも射程が広がっていく。HPは回復していないが、あいのおかげで半分は残っている。最悪、魔法の【ヒール】でどうにかなるだろう。

「いくぞッ! あいッ!」

「アイサーッ!」

 一気に勢いづいた俺とあいは、手に入れた拳銃で敵の軍勢を一人ずつ撃ち抜いていく。

「おい、なにぼさっとしてしているッ! とっととやれッ!」

「だ、ダメだッ! こいつら素早すぎるッ!」

 俺は紙一重で躱しているが、あいはバーニアによる高機動で敵の攻撃を躱していく。

「あの小娘をやれればッ!」

「ダメだッ! 槍の攻撃を躱せないし、なにより、防御が堅いッ!」

 あいに攻撃が当たってはいるものの、見ればHPは緑、VITが俺の三倍なだけはある。流石は【メカ少女】なだけはあるな。しかし、あいが倒していった敵から武器などがドロップしてきたぞ。モンスターと同等の扱いだとしても、このドロップ量は……。

「ガンガンいくよッ!」

 左肩のキャノン砲が火を噴き、敵を一掃する。

「ボ、ボス……ッ!」

 爆発に巻き込まれ、光へと消えていくキラーたち。

「そんな馬鹿なッ! 初心者――ッ!」

 っと、そんな呑気でいいのかな? 俺も、お前も。

「あばよ、キラー」

 キラーのボスである後頭部にめがけて銃弾をお見舞いしてやった。

 今まで初心者を殺し続けた罰だ。キラーのHPゲージが一気に緑から一気に空白になり、殺されたキラーのボスは光へ変わり、持ってた二挺の拳銃をドロップした。それを見た徒党たちは一斉に散らばった。

「ああッ! 逃げるなぁッ!」

 俺は追おうとするあいをドロップした拳銃を拾いながら止めた。

「あい、俺は追えないから放って――」

「では、僕がかっさらっていきますねッ!」

 上空から声と共に逃げていく男たちの胸を短剣で貫いていった。消えていった男たちからはなにもドロップしなかった。

「なるほど、どうやらドロップはランダムのようですねぇ。僕も、武器が手に入るかと思いましたが、残念ですよ」

 長い鎖で樹を伝って移動してきて目の前に降りてくる。俺はドロップした銃を確保した。

「お前は……ッ!」

 ひょろっとした長身、前髪で蛇のような釣り目を少し隠している。社会人のスーツ姿が特徴的なこの男。

 俺はこいつを知っている。とても気に喰わない情報屋――。

「いやいや、念願の銃、入手おめでとうございます」

「アタル……ッ⁉」

 アタル、俺のフレンドの中で一番関わりたくない男だ。

 いや、フレンドにした時点で後悔すべきだったか。

「はいー。そちらは彼女さんでしょうかぁ?」

「か、彼女ッ⁉」

「やだなぁ。ただの幼馴染だよぉ」

「……そうだよ」

 あいにそう否定されると、なんかショックを受ける。ガラスの心を殴って砕かれたかのように。

「おやおや……なるほど、ククク……」

 そんな様子を見たアタルは帽子で顔を隠しながら笑いを堪えた。

「なに笑ってんだよ?」

「いや、なに反応が面白くて……」

 ? どういうことだ? 何が面白いっていうんだ? 不愉快だ……。

「俺はお前が嫌いだよ……ッ!」

「それは結構。ですが、今なら念願の武装との取引に応じてあげますよ?」

「武器? 銃ならある――」

 念願の武装? それって銃の類なのか。俺に取引を応じて来たのだ。なにかあるはずだ。なにせ恩着せがましい奴でもあるからな。見てみるだけならいいか。

「それで、俺に買い取ってほしい武装ってのはなんだよ?」

「見せてあげましょう――ッ!」

 アタルが地面に置いたのは大型の対物ライフルだ。アタルに持ち上げていいか、訊いたら、どうぞ、と言われたので持ち上げてみた。持つには持てたが、俺が持ち運べそうなものではない。持ち運べるとしたら……。あいが興味深そうにライフルを見つめている。

「わたしが持ってみていい?」

「どうぞどうぞ」

 アタルが許可を出してきた。あいが持ち運んでみる。最初は重そうに両手で持ち上げていたが、片手で担ぎ照準を定める余裕まで見せ始めた。

「おお、これはすごいすごい」

 アタルが素直に拍手しているのが不思議だが、俺も同じ気持ちだった。

「どうでしょう? そちらが欲しければ情報と引き換えにお譲りする、というのは?」

「情報? わたし始めたてだから、なにも知らないよ?」

 アタルはあいに対してだけ話を振っていた。俺に話が当たらない理由は――。

「僕が欲しいのはあなたの情報、失礼、個人情報ではなくて、プレイヤーとしてのあなたの情報です。いかんせん、お初にお目がかかりました代物そうでしたので」

 やっぱり気づくか。俺はアタルに銃口を向けた。

「おやおや、あなたまでキラーになるつもりですか?」

「あいにそんなことさせてなにが――」

「いいよ」

 俺を止めたのはあいの言葉だった。あいはアタルの前に出て取引に応じる気だ。

「あい、こいつを信用するのは……ッ!」

「大丈夫、わたしたちを助けてくれたのは確かだし」

 アタルはそれを見て、口端を広げて上へと釣り上げた。すると、上へ手を掲げて、なにかスキルを発動させる。

「【蜜談】!」

 宣言すると、俺たち三人は特殊な結界に覆われた。

「そのスキルはッ⁉ ドライブかッ⁉」

「いえいえ、これは僕が最初に見せたスキルです。大丈夫ですよ。この中での会話は外に漏れませんから」

「初めて使ったんだろ?」

「あなたはスキルの効果をいちいち疑う方ですか?」

「……悪い、進めてくれ」

 スキルの効果は打ち消すものがない限りは絶対に機能する。そういうものでしょう、とアタルに教えられた。

「それでは、早速取引に応じてもらいましょうか……」

「なに話せばいいのか、わからないけど……」

「なに、こちらの質問に答えてくれるだけでいいんです。だから答え以上のことは訊きません」

「そっか、だったらいいよ」

「そうですか。まずは職業についてですが――」

 こうしてあいとアタルの取引が、いやあいへの質問が始まった。職業からドライブ、ステータスの大まかな振り分けまであいは聞き出された。あいはなにも嘘を吐くことはなく、アタルもそれ以上に問い詰めることをしなかった。

「そうですか。では最後の質問をしましょう……」

 俺はというと、ずっとその場面を、固唾を呑んで見守ることしかできなかった。アタルの言う通りか、通りがかる人は何人か中から見えるが、こちらを感知している様子はなかった。外からは見えないのだろうか。

「あなたは今、楽しいですか?」

「うん。殺人者に襲われたけど、エッジのおかげで乗り切ることができたよ」

「そうですか。それでは、話は以上になります」

 最後の質問は呆気なく終わった。もっときつい質問が来るものかと冷や冷やしたが、どうやら終わりのようだ。

「それでは、そのライフルは約束通り、あなたの物です。ご自由にお使いください」

「いいの? こんなことで貰っても?」

「どうぞ、僕には豚に真珠ですし」

 なんで、こちらを見ながら言ってくるんだ。ホモなのか? そんな趣味ないぞ。

「それと、いい加減あなたの職業を教えてくださいよ。対価をいい加減払ってくれないと……」

「対価?」

 それって、俺の職業のことか?

「ええ、エッジさんはねぇ、情報料を踏み倒しているんですよ」

 痛いところを思わぬ時に言われてしまった、あいの前でッ!

「そうなの?」

「……情報料の割にロクなものがなかったからな」

 俺は事実を述べた。否定はしないが、こいつの情報はガセネタばかりだった。

「もしかして、銃を手に入れようとしてた?」

「そうなんですよぉ。このお方、折角手に入れてあげた情報を……」

 ダメだッ! このままじゃなに言われるか分かったもんじゃないッ!

「わかったッ! 払う、払うからッ!」

「いいえ、ここまで来たら情報を戴きますよ。ちょうど、キラーの一人も使っていたあなたの技も気になりましたからね」

「わかった。【密談】を解くなよ……」

 それから根掘り葉掘り、【忍者】のこと、【神雷】のことを訊かれた。俺の持っているスキルは訊いてこなかったからよしとしよう。

「ま、この辺で勘弁してあげますか」

 まったく、こいつと関わるとロクなことがない……。

「ああ、そうそう。こればかりは驚きましたがね……。まさか、キラーを倒したらドロップするとは思いませんでしたよ」

 意外な言葉だ。こいつなら知っているかと思ったんだが……。

「他に、キラーを倒した人っていなかったの?」

「あい、それを訊いたら――ッ!」

 アタルになにか訊くってことは金がかかるってことだぞッ! と言いたかったが、アタルが溜め息を吐いて呆れ始めた。

「いくらなんでも、初心者からふんだくる気も、あなたに貸しを作る気もありませんよ。そうですね、最初にキラーが現れたのが一週間前、サービス開始一週間後に現れ始めました。それを倒したのはその三日後だそうです。以降、キラーが現れる一方でそれらを倒した者はずっと狩り続けました。いわば、キラー狩り、と呼ぶべきでしょうねぇ」

 意外だ。攻略サイトにも載っていない情報をこいつがペラペラと話してくるなんて。

「どういうつもりだ?」

「別に、事実を言ったまでですよ。あと、この件はご内密にお願いしますね」

「えッ? なんで?」

「それが情報提供の条件でしたからね。あなた方にも守ってもらいますよ」

 自分から言っておいて。よくも、いけしゃあしゃあと。

「それでは、僕はこれでお暇しますね。では、また」

 二度と現れないでほしい……。その俺とは反対に、あいは鎖を伝って移動するアタルに手を振って別れを済ませた。

「あい……。あの男をあまり信用しない方がいいぞ」

「なに言ってんの? わたしたちだけに特ダネくれたじゃん」

「それは……そうだけど」

 確かに、言い様によってはただで情報をくれたわけだ。しかし、しかしなぁ……。

「よしよし」

 また頭を撫でられた。なんで考え込んでいる時に限って撫でてくるんだ。どうでもよく思えてしまうではないか。

「あい……。もう俺、子供じゃないよ……」

「いいの、いいの」

 俺は撫でる手から逃れると、持っている拳銃とドロップした二挺の拳銃を比べてみた。


武装【ベレッタ】属性:火 装弾数15発 リロードタイム4秒 STR:20

武装【ベレッタ】属性:氷 装弾数15発 リロードタイム4秒 STR:20

武装【ベレッタ】属性:氷 装弾数15発 リロードタイム4秒 STR:20 同じか……。

 持っているのと、ボスのものでは属性が違うだけか……。俺の小太刀【疾刀】のSTRが30だから二挺に変えると、STRが20も下がることにはなるが、それでも初めての銃だ。大切にしよう。あ、そうだ。

「あい、これあげる」

「えッ?」

 俺がボスがドロップした拳銃をあいに渡す。

「あいの持っている【ベレッタ】、火属性だろ? だから、氷属性も持たせようと思って」

「いいの?」

「いいって、これで楽しめられるだろ?」

「うんッ! ありがとうッ!」

 俺はあいの笑顔に、思わずドキッとしてしまった。

「もう、大分時間が経ったかな? そろそろ戻らないと……」

「今だと、夜の10時くらいかな」

 エクドラには一日に3回、昼と夜を迎える。これはライトユーザーが遊べる時間帯の夜に昼を迎えられるようにした調整だが、深夜帯にやると、ほぼ夕方と夜になるのはどうにかならないだろうか。

「そんなにッ⁉ まずいッ! 宿題やんなきゃッ!」

「じゃあ、ログアウトをして。それでゲームを終えられるから」

 あいが指を操作してログアウトのボタンを押す。

「じゃあ、明日もねッ!」

「えッ? 明日も? いいの?」

「うんッ! ここ、楽しいッ!」

「わかった。じゃあ、明日も待ってるよ」

 俺はそうしてあいがログアウトするのを見送った。

「さて、と……」

 今後も遊んでくれるってんなら下調べしておこうかな。


「では、早速ですが――」

 アタルは二人が去ると、メモに書き込んだ情報をウェブに書き込み始めた。

「【忍者】に、【メカ少女】、ですか……これまたユニークな職業をおやりだ……」

 そう言いつつ、あるところで操作が滞った。

「【神雷】は載せるとして、【ビギナーズラック】は載せない方がよろしいでしょうね。彼女の身の安全を考えれば……」

 アタルは、【ビギナーズラック】による悪用が行われないよう、載せる情報の分別を行っていた。【ビギナーズラック】が知られれば、あいを利用とする輩が出てくるに違いない。

 アタルのもう一つの顔は、攻略サイトの運営、設立者だ。そのことはエッジにも知られていない。

 あいはまたまた幸運にも、一人の知り合いを作ってしまった。しかし、その男は良識人でありながら――。

「ま、彼女たちを利用する特権も欲しいですからねぇ」

 エッジの言う通り、食えない男でもあった。


 あいが現実世界に戻った後、俺は単身ダンジョンで二挺拳銃の性能を試していた。そしてボスとの戦いのときにわかったことがある。それは【神雷】を使用中の時であった。発射された弾丸が、スローモーションになっていたのだ。【神雷】の能力説明を見ればわかることだが、効果発動中は自身が放った弾丸もスローモーションになるのだ。よって、【神雷】と拳銃の相性は悪い。

 なので、戦法を変えてみた。普段は二挺拳銃による射撃攻撃。奥の手に、【神雷】と小太刀二刀流の剣劇。それでもダメなら、魔法でごり押す。これなら、敵の戦術に合わせて戦える。

「に、してもベレッタか、もっとSTRが上がる銃ならよかったのに……」

 エッジは少し贅沢を言った。

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