LV1 幼馴染のあいはビギナーズラックでメカ少女ッ!?

 ブレダンが発売して二週間が経とうとしていた。今でもブレダンの抽選販売が行われている。ソフトは多く販売しているというのに、なんと悲しいことか。それでも、【X DRIVERS】、略してエクドラのユーザーは徐々に増え始めているのは実感していた。ハードの生産工場が本気を出したか、と感心していた。SNSでも、次々に『買えた』という声が届いている。

 俺は今日の授業を終えると、早々に帰る準備をしていた。男女問わず、友達から色々誘われたが、俺は断固として断り続けた。

 悪いな、今エクドラに熱中してんだよ。

 クラスでの俺の立ち位置はというと、男女問わず友達を持っている。ちなみに兄さんはモテているが、自覚はない。

 俺の特徴としては、ちょっと化粧すれば女の子に見えることができる中性的な顔と犬のような耳が生えたかのようなくせ毛がある。これは周りに言われて発覚したのだが、この犬耳と呼ばれる髪、直してもすぐに元に戻ってしまう。それだから、みんな――。

「狼くん」

 などと呼んでくるのだ。いや、待て。誰か知り合いが呼んでたような……。

「狼の鋭次君ッ!」

「うわッ!」

 やっぱり呼んでたッ! しかも呼んでいたのは――。

「何の用だッ! 鳴神あい先輩ッ!」

 そう、幼馴染で一学年上の先輩の鳴神あい。なんの飾り気もないポニーテールの髪と先輩とは思えないほど幼さを残した顔で、スタイルは……こんなことを言うと失礼だが、平均だ。

「ねえ、今日空いてる?」

 遊びのお誘いの話だ。残念だが、断らせてもらおう。

「悪い。今日は……」

「実は、わたし、エクドラ買ったんだけど、鋭次君やってるよねぇ?」

「は?」

 あれ、俺、この人にエクドラを、いやブレダンを買ったことを報告したっけ?

 いやいや、いくら幼馴染でも一学年上……そうだッ! 一学年上にはッ!

「兄さんにでも訊いた?」

「うん、蒼次君から訊いたよー」

「馬鹿兄貴ッ!」

 なに言ってくれてんだッ! あの馬鹿兄ッ! おかげでクラス中の視線が集まったじゃねぇかッ! そりゃそうだッ! 世間で持ってる人間が少ないって言ってんのに――ッ!

「ブレダンを持ってんの? 狼ッ⁉」

「大神鋭次君、どういうことか説明してくれ」

「狼君、もしかしてやりこんでるの?」

 この俺、大神鋭次は一気にクラスの注目の的になった。放課後だというのに。クラスの人間がざわざわと俺に問い詰めてくる。

「あい、アンタって人は……ッ!」

「セットアップしたいんだよ。だから、手伝って」

「そんなもの、自分で――」

 待てよ。確か、招待&サポートをすると、エクドラ内で所持金増えるんだっけ。

「ダメかな……」

「わかったよ。セットアップ付き合ってあげるから……」

 そう言ってあげると、彼女は喜んで跳びはねる。

「やったッ! じゃあ、今日の夕飯の後ねッ!」

 そう言うと、彼女は元気よく教室から走り去った。それから、というものエクドラについて質問をされる……と思ったが、クラスメイトの眼鏡が似合う二枚目の優斗が肩を叩いて訊いてきた。

「お前、相変わらずあい先輩のこと好きだな」

「はあッ⁉」

 なんでッ⁉ そりゃあ、小さいころからずっと好きだったよッ! だけど、一発でバレるなんてッ!

「だって、お前犬耳動いてんぜ」

「えッ? この犬耳動くのッ⁉」

 これは初めて知った。俺の犬耳、動くの? 髪の毛だぞ? 動く心当たりが全くありませんが? ってことは待てよ? それみんな片想いしてんの、ずっと知ってたってことッ⁉ 兄さんもッ⁉ 俺はクラスメイトを見渡していると、ニヤニヤしている男子と、悲しそうな女子と、面白がってる両方の顔が浮かんできた。

「まあ、鋭次、がんばれ」

「狼君、鳴神先輩のことを……」

「「面白そー」」

 俺は色とりどりの顔を見て、俺は恥ずかしさで頭がいっぱいだった。きっと、俺の顔は真っ赤に染まっているのだろう。

「また犬耳動いてるぜ」

 誰かぁぁぁッ! 犬耳の制御方法を教えてくれえぇぇぇッ!


 それから夕飯と風呂を済ませ、エクドラにログインしてあいからの連絡を待ち続けた。

「まさかとは思うが、ブレダンのセッティングに手こずっているんじゃ……」

 そんな予感を口にしながら待つこと、20分くらい経ってようやっと招待報酬とセッティングサポートの手伝いの依頼が来た。

「ようやく、か」

 俺はセッティングサポートを『受諾する』を押し、あいのセッティングルームに入った。

 最初のセッティングぶりの俺は懐かしさに胸打たれながらも、微動だにしない茶色の初期服装のあいを見つける。

「おーい、えっと……」

「あ、鋭次君、こっちだよー」

 ゲーム内だというのに、あいは相変わらずだ。安心すると同時に注意せねばならないことを発見した。

「あの、ここでは鋭次ではなく、エッジと呼んでくれ」

「えッ? あ、そっか、わかった」

 あいは物分かりが良い方ではなかったが、すぐに承知してくれた。

「ところで、名前は……?」

「ああ、ごめん。【あい】にしちゃった。ハハハ……」

「ハハハ、じゃないッ! アホっ子ッ!」

 本名じゃねぇかッ! こんなもん、自分の名前晒しているもんじゃねぇかッ!

 俺が怒鳴ると、事の重大さに気づきながらも、あいが反論し始めた。

「だって、【あい】なんてありきたりな名前だよ? だから、別にいいじゃん」

 あいの反論に思わず納得してしまう。そりゃあ、【あい】と名付ける人も少ないだろうし、ましてやそれが本名だとは思わないだろう。だが、それでもトラブルの可能性が否定できないのだ。なんせ、顔と体格は現実と同じだからだ。ブレダンが脳波から、顔、体格を登録してしまうのだ。その上、本名の一部を名付けたのだ。特定される可能性だって――。

「大丈夫だよ。わたし、これでもお姉ちゃんだよ?」

 俺を撫でてきた。それに対して、俺はなにも言い返せない。反論したい、反対をしたいと思っても、撫でられてしまえば、俺はなにも言い返せない。いつもそうだ。この人はそう言えば、きっと大丈夫だろう、と考えが改まってしまうのだ。こうなってしまえば、俺に選択肢はない。

「……個人情報厳守を約束できるよな? あい」

「うん! 約束するよ! エッジ」

 この人は昔からこういう女の子だ。約束をしてくれたら守ってくれる。ダメだダメだ、暗い顔してばっかりじゃダメだ。彼女が何のドライブを得たのか確認しないと、職業選択の手助けもできやしない。

「あい、獲得したドライブはなんだ?」

「ちょっと待っててね……」

 確か、攻略サイトを見た通りだと、スーパーアーマーの付く【ディフェンダー】とか、自動回復の【オートリカバリー】とか、攻撃力が一時強化する【パワーアップ】とかが多かったな、

俺の場合、どこにも載っていない【神雷】だから、せめてサポートできる範囲のドライブだと助かるが……。

「あった。【ビギナーズラック】だって」

「えッ? ドライブが?」

「うん、そうだよ。いつも幸運をXランクにしてくれるって」

 Xランク? なにそれ? ビギナーズラックって当たりなの? 外れなの? これ、いつも幸運になってくれるだけで、なにも技がないってことじゃないの? 折角の能力がないって言われてるのと同じじゃないのか? あい先輩は気に入っているみたいだけど……。

「職業選択、どれがいいのか。見繕って」

「あ、うん」

 ビギナーズラックで幸運がXになるとしたら、〈LUC〉が低く、他のステータスが高い職業がいいのかな? と考えてみたが、あいが気に入りそうな職業が思いつかない。

「どれどれ……なんだろ、この【メカ少女】って?」

「【メカ少女】ッ⁉」

 これも攻略サイトに見覚えがないものだ。俺の【忍者】と同じように。もしかして、これはレア職業の一つか? ステータスを見ると――。


〈STR〉A 〈VIT〉A 〈INT〉A 〈AGI〉A 〈DEX〉A 〈LUC〉E


「ステータス高すぎ……」

 明らかにチートだろ。幸運が酷いことを除けば、最高の職業なんじゃあないのか?

「ねえ、エッジ」

「なんだ」

「これで、わたしの【ビギナーズラック】を合わせたらさ……」

 ビギナーズラック? あッ、そうでした。あいのドライブは【ビギナーズラック】を発動しているから……。


〈STR〉A 〈VIT〉A 〈INT〉A 〈AGI〉A 〈DEX〉A 〈LUC〉X


 LUCがXだと、なにが起きても不思議じゃない、かもしれない……。でも、そんな好都合なもんがあっていいのだろうか……。

「エッジはなににしたの?」

「俺? 俺は忍者だけど……」

「……ないね。わたしじゃ向いてないってことなのかな?」

 いやいや。表示されなくて助かったよ。どんくさいあいが忍者なんて合わないし。

「そういうことじゃないよ。レア職業っていうのがあって、あいは【メカ少女】を引き当てたんだ」

「へえ……。じゃ、【メカ少女】にしとくッ!」

「いいの? よくわかんないので?」

 俺は他の職業じゃなくていいのか、再度考えるように促したが、あいの考えは変わらなかった。

「うん、だってあたしだけのレア職業でしょ?」

「そうだけど……」

 確かに、他の【メカ少女】に会ったことがないし、俺も他の【忍者】に会ったことはない。あいが選ぶんだったらそれが最適なんだろう。

「だったら、あたし、これで楽しんでみるねッ!」

 あいが選ぶのなら、俺が止める理由はないな。

「わかったよ。俺はサポートするよ」

「ありがと、助かるよぉ」

 しょうがない。なら彼女が思う存分楽しめるまで、俺も付き合おう。あいと遊んでいくのはずっと前から楽しかったから。


 セッティングルームから最初の街、シルフの里に転移された。

 樹々が生い茂ながら、街としても建物が多く建立され、古きも新しきも共存している街並みとなっている。俺はまず、ステータスを確認したいので――。

「とりあえず、宿屋に行こうか」

「えッ⁉ エッジッ⁉」

 いかん、誤解を招く発言だった。あいが身体を隠して顔を赤くさせた。

「違う、違う。ステータスとかを他の人に見られないようにするためだ」

「あッ、そういうことか。なぁんだ。てっきり告白されたかと」

 それを聞いて、急に顔が火照っていく。俺は制御できずに、あいから顔を背けてしまった。

「と、とにかくッ! 宿屋で色々確認しましょうッ!」

「あ、うん! わかったよ!」

 俺とあいは、こうして宿屋へ向かうことになった。俺はその間、あいと顔を合わせなかった。

「大丈夫ッ⁉ 熱でもあるんじゃ――ッ⁉」

「大丈夫ッ!」

 災いは口から、こういうパターンもあるんだな……。


「えっと、この部屋に入れば大丈夫だよね?」

「ああ、ステータスの確認をしよう」

 まず、互いのステータスを見せ合った。


【エッジ】 LV15

職業【忍者】

〈HP〉100 〈MP〉150

〈STR〉120(60) 〈VIT〉30 〈INT〉120

〈AGI〉200(50) 〈DEX〉150 〈LUC〉C

ドライブ【神雷】

『一定時間、自身が神速になる。周りがスローモーションになり、自由に動けるようになる』


【あい】 LV1

職業【メカ少女】

〈HP〉100 〈MP〉50

〈STR〉60 〈VIT〉60 〈INT〉60

〈AGI〉60 〈DEX〉60 〈LUC〉X

ドライブ【ビギナーズラック】

『LUCがXランクになる。常に発動する』


 予想はしていたが、思っていた平均以上にステータスは高かった。俺のLV1なんか――。


〈HP〉50 〈MP〉70

〈STR〉30 〈VIT〉0 〈INT〉40

〈AGI〉80 〈DEX〉80 〈LUC〉C


 だからな。他の職業のステータスも見てみたが偏ったりしても、あいのように非武装ですべてのステータスが平均して高いのは異例だろう。

「どうかな?」

「そうだな。俺より防御力が高い。武装はなんだ?」

 未だ初期服装のままなので、未だ【メカ少女】の初期装備を見ていない。

「ちょっと待ってて」

 あいは防具を装備した。肩出しの黒のインナースーツに茶色の装甲が胸と両腕、腰に膝に着けられ、左肩にキャノン砲が付いている。

「なるほど、こうなってるのかー」

 気づけば、あいのステータスのSTRとVITとAGIが30上昇していた。しかし、あいの手には武器を持ち合わせていなかった。

「あい、武器は?」

「それが、肩のキャノン砲以外なにもないんだよね」

 意外だった。【メカ少女】というからには武器も揃えているものだと思っていたが……。

「キャノン砲も防具扱い? だったら俺の持っている武器からなにか渡そうか」

 肩のキャノン砲が武器扱いされていないところを考えてみると、キャノン砲は武器次第で攻撃力が加算されることになる。攻撃力の高い武器を渡すべきだろうが、ゲーム慣れをしてないあいに武器を渡すとしたら扱いやすいものがいいだろう。

「あい、この槍とかはどうだ?」

 槍ならば、ゲーム慣れをしていないあいでも扱うことができるだろう。距離を取って、突いたり斬ったりできる武器だしな。しかし、それを受け取ったあいからは、微妙な顔色を窺わせた。

「うん、銃とかは持ち合わせてないの?」

「それは俺が欲しいところだ……」

「そうだったんだ……ごめん」

 残念がられた。正直な話、銃もこの世界にはあるんだが、何分ドロップしないし、ダンジョンに行っても見つかりはしなかった。代わりに手に入ったのは他の武器、使いどころがないのも含む防具だ。正直、彼女が欲しがっても与えることはできないし、渡したくない。

 そんな申し訳なさを抱いた俺だったが、あいは切り替えて立ち上がった。

「だったら、さっそく冒険に行こうよッ!」

「銃、諦めたのか?」

「いやいや、とりあえずモンスターと戦いたいんだよ。それからだよ」

「……そうだな」

 あいの明るいところはゲームの世界でも健在だな。

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