エルフの少女
……ここは……どこだ?
少女の周りには赤黒く、ぐにゃぐにゃとしていて、捉え所のない世界が映っていた。
私は崖から落ちて……それで…。
「おい、いい加減起きたらどうだ?」
だ、誰だ……!?
声のする方へと視線を向けると、そこには黒く、異様な雰囲気を纏った女が、玉座のような椅子に座っていた。
「私はお前だ。 ……というよりも、お前の前世といった方がいいか?」
私の……前世?
女は顎に手を当てながら考えるそぶりを見せる。
「いや、それも違うか? ……まぁ、そんなことどうだっていいんだ。 お前、もう一週間も寝ているぞ?」
どいうことだ?
私は……今、こうやって立って……喋ってるじゃないか。
少女は女の言っている意味を考えようとするが、頭がふわふわとしていて、上手く思考出来なかった。
「ここは精神世界なんだよ。 現実のお前はベットの上でぐっすりだ」
……百歩譲って……それが……本当だとしても、何故……私を起こそうとするんだ?
頭に手を当てるが、頭のふわふわとした不鮮明さは消えなかった。
いや、それどころかどんどん考えられなくなっていった。
「そんなの、速い方がいいからに決まってるじゃないか」
理由になって……うっ……クソ……さっきから……なんなんだ? 頭が……。
次第に、頭だけでなく体にも不鮮明さが広がっていく。
「どうやら、おはようの時間が来たみたいだな」
ま……て……。
「バイバーイ♪」
プツン
「……ん…」
電気が消えるような弟共に少女が目を開けると、そこは見知らぬ部屋の中だった。
「ここは……いっ!!」
少女の頭と体に鋭い痛みが走る。
自分の体を見てみると、至るところに包帯が巻いてあり、所々血が滲んでいた。
頭に触れてみると、やはり包帯が巻いてあった。
誰かが手当てしてくれたのかと思い、周りを見てみるが、この部屋には誰いなかった。
傷だらけの体をベットから起こし、部屋に一つのだけあるドアを開ける。
ドアの外は木材を基調とした風流を感じさせる廊下だった。
外にも人は居ないし、どうしたものかと思うと考えていると、廊下の奥から足音が聞こえてきた。
目を凝らすと黒いフード付きのコートを来た人物がこちらに近づいてくる。
「ん? お前、起きたのか?」
少女は奥から現れた者の姿に驚愕する。
体は茶黒い毛に覆われていて、足と手には鋭い爪が光っており、頭には大きい耳と長い口が着いていた。
「じゅ、獣人!?」
相手の姿は、千年前に他の種族に絶滅させられたと言われている、獣人の姿だった。
「……」
獣人は少女の反応など気にも止めず、少女をジロジロと見ている。
対する少女は、ほぼ伝説上の種族として語り継がれてきた獣人相手にどうすればよいのか分からず、相手に見られるがまま立っていた。
「お前、血が止まっていないじゃないか。 安静にしてなきゃ駄目だろうが。 ベッドに戻るぞ」
獣人はそう言うと、少女に触れようとする。
その時、少女は他人に触れられる時のことを思い返す。
「嫌!!」
少女は獣人の手をバシッと弾いた。
少女の顔は蒼ざめ、小さい体はわなわなと震える。
身を守ろうとしているのか顔は下を向き自分の腕と腕を掴んでいた。
その様子は、今までの少女の生活がどれだけ酷いものだったのかを理解するには十分だった。
「……」
少しの沈黙の後、獣人は優しく語りかけた。
「俺はリガル。 お前の味方だ。 お前を傷つけるようなことはしない。 お前の名前を教えてくれないか?」
「……ハァッ……ハァッ……」
しかし、それでも少女は警戒を解こうとはしなかった。
少女の頭は、もはやリガルを認識しておらず、過去のトラウマを思い返しているようだった。
どうやら思っていたよりも酷いらしいなと、リガルが考えていると、後ろから誰かが近付いてきた。
「あらリガル、その子起きたのね 」
「母さん」
母さんと呼ばれた獣人はリガルとは打って変わって、白い毛並みをしていた。
「丁度良かった。 ちょっと助けてくれ」
リガルはそう言って少女を指差す。
それを見て、状況を理解したのか、その獣人は少女に優しく抱きついた。
「ッ!!」
「大丈夫、大丈夫、私達は貴女の味方よ。 安心してちょうだい」
少女は一瞬拒否反応を示したが、その獣人の優しい抱擁と声、不思議と安心する匂いを感じ、少しずつ落ち着いていく。
緊張の糸が切れたせいか、そのまま気を失ってしまった。
「……寝ちまったか」
「心が疲れちゃったみたいね。 それにしてもリガル、もう狩りは終わったの?」
「あぁ、今は兄さんが解体してると思う」
「じゃあ、この子の寝かせておくから側にいてあげてちょうだい。 起きたら色々教えてあげて。 私は夕飯とこの子用にスープ作るから」
「分かった」
リガルは、自分の母親に抱かれた少女を見ながら、少女の辛かったであろう過去を想像した。
そして、哀れみの感情を抱いた。
世界復讐~災厄のエルフと最悪の人狼~ @kurokumanoke-ki
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