目覚めと回り道






朝陽が差してきた。俺はなんだか懐かしい夢を見ていたようだ。


ふとよみがえった昔の記憶。今とあのころ、俺はどう変わったのだろう。何をしてきたのだろう。


過ぎる車窓のなか考えたが、わからない。

ただ少なくとも、頑張ってきたことは確かであるらしい。

といっても全力でやってきたかと言われれば、自信はない。

堕落していると言われれば、何も言えないところだっていくつもあるわけだし。


しかしこれまでの旅で唯一言えることとすれば、俺は回り道しかしていないということだ。

あげく今では、真っ直ぐ進みたいとすら思わなくなった。


ここにいる乗客は、回り道と聞いてどう思うだろうか。旅の重要局面で回り道をすれば、不思議な目で見られるかバカにされるか、あるいはもっと酷いかもしれない。


それでも自分は、回り道を悪だと思わない。


例にとるなら、失敗して反省すること。これだって見ようによっては回り道である。

反省しなくていいのなら、或いは自分が悪くないと開き直ることができたなら、何も考えなくていい。

故にひたすら、そのまま特別急行に乗っていれば、目的地に早く着く。


それでもそこで立ち止って、爆煙を上げて風を切る列車を見送る勇気を持てば、どうなるだろう。

宿をとり考えて考えて、寝て起きて反芻して、あげく体調を崩すかもしれない。


それでも諦めなければ列車は来る。今度は考える時間がほしくなって急行にした。

すると代わりに、車窓に対し時間がどんどん過ぎていく。

しかし、特急では速すぎて見えない景色が見えてくる。次の駅に着くのは遅くとも、少し何かが見えるようになる。


 誰かの物が盗られた件はどうだろう。あれに関して言えば、自分は悪くない。でも見えてきた景色がある。だからもっと考えたい。ならばと鈍行に乗り換えた。


これはいよいよ進みが遅い。古い客車はガタガタと揺れ、硬直した座席には心が折れそうになる。


しかし案外これも慣れればいいものだ。


急行では覚えもしない駅の名前や、乗降場に散る桜の香り、行き交うカンカン部隊や様々に暮らす乗客の姿が、豊かに感性を刺激するようになり、不思議と苦しさを忘れていく。


そうしてやっとこさ、あのとき刻んだ言葉を思い出すことができるようになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る