第129話 食事会

 ピカトーレンに戻る事となった健太、今思えば、ほぼ手ぶらでラマ国に入った為、持っていく物は特に無い様子。


「おーい、黒助、すまなかったな、今までいつも命令ばかりして。世話になった、ありがとう!」


何気に思いついた発言をイルグルに言うが、

彼は号泣していた。


「ううう・・・げ、げんだぐん・・・げんぎで、ううう・・・」


「よし、エルマ、ピカトーレンにいこう。」


「室長やボヨヨンのピクシーに挨拶しなくていいの?」


「ああ、ああみえてじじいもメルーも涙もろい奴らだから、このまま立ち去る方が悲しまなくて済む。永遠の別れじゃないしな。」


こうして健太は再びピカトーレンに帰る事とした。



 ラマ国から出てどれくらい時間が経っただろうか、魔法で移動すれば直ぐだが、エルマは馬をわざわざ歩かせてピカトーレンを目指す。本来なら魔力を持たない人間だから、時間がかかるのは当たり前である。

しかし魔力を身につけた健太は遅いと感じてしまった。


そう、身体はすでに魔力と共に私生活の中で影響しているのだ。


第1太陽が沈み始めた頃、ピカトーレン街が見え始めた。


「なんとか食事会の時間には間に合ったようだわ。このまま、先ずはあなたの家を案内するわよ。」


「俺の家?一人暮らしか?」


「??そうだけど、不満かしら?」


やった!!健太は喜んだ。プライベートには誰にも邪魔をされない自由が・・・自由が・・・

そう思うとあまりの感激に涙ぐんでしまった。


「勘違いしないのよ?確かに一人暮らしだけど、食事、掃除、洗濯等、特にお手伝いさんはいないわよ?」


「・・・はい・・・」

(・・・だよな・・・黒助がいるわけではないか・・・)


とはいえ一応4年はシュールの施設で掃除も飯も洗濯もしてきた。一人暮らしが出来ないわけではない。ただ、楽が出来ないだけだ。


「着いたわよ?あなたの家よ?自由に使ってちょうだい!」


「おおおおお!!レンガの家!!」

ついつい興奮してしまう。窓から覗くとベッド、釜戸、魔力冷蔵庫、テーブルと椅子2つと風呂缶は準備されてある。


「エルマ、気に入ったぜ!この家。」


「そう?よかったわね?訳有り物件だけど喜んでもらえて助かったわ!?」


「え?訳有り?」


「・・・それよりも、流回矢が4周目に入ったら、ウェルザ様と食事会よ?あそこにあるのが王宮よ?見えるかしら?」


エルマが指を指した先に、確かに王宮っぽい建物が確認出来る。

健太も確認してうなずいた。


「遅れない様にいらっしゃい。私も一旦家に帰るわよ。じゃあね。」


 (ウェルザ王・・・か、ピカトーレンに帰る最中にエルマに色々聞いたが、ピカトーレンの第18代目国王か・・・しかもピカトーレンが分裂する前迄はバッド王はウェルザ王の弟子だったとか・・・世間は狭いぜ。


それよりも、ウシシシシ)


不気味な笑みを浮かべ、笑い声が口から漏らしながらも健太は新居へと入っていった。





 食事会の時間にそろそろなりそうだ。第1太陽も沈んでしまった。健太は王宮の兵隊に案内され、食事会場へ案内された。

 

「あら、約束通り来てくれたわね。」


エルマは既に来ていた。髪が若干湿っている。風呂にでも入ったのだろうか。随分とラフな格好をしていた。


「もう少しで王と王妃と王女が来るわ?私の隣の席で座って待ちなさい。」


 健太はエルマの言う通り、エルマの隣の席で待つことにした。しかし一つ心配事がある。食事会とはいえ、一体どんな飯が出てくるのか心配だ。


 そして・・・


ガチャ(扉が開く)


(来たわよ!健太、一旦立ちなさい、お辞儀よ!?)

健太はよくわからないが、エルマのマネをした。


「2人ともご苦労である。顔を上げて座りなさい。」


「はい!」

「へい」


グシャ

「痛っ!」

エルマが健太の足を踏みつけた。返事が気に入らなかったのだろう。


「健太君だったかな?初めまして、私がピカトーレン13代目国王の、ウェルザである!」


 健太はウェルザ王を見た時に感じた。厳しい修羅場を潜り抜けた存在だったのではないか・・・と

 身体中あちこちにある消えそうにない古傷、右眼を失ってしまったのか?右眼に装着している眼帯。左眼の優しそうな瞳。今まで何人ものウルフ族を見てきたが、こんなに筋肉のついたウルフは見たことがない程にまで鍛えられた身体。


 (この人・・・きっと苦労人だ、俺の好きなタイプかもしれない。)


「健太君、紹介しよう。妻のアキナ王妃だ。」


「アキナです。健太君、ようこそ!」


「よ、よろしく!!」

(正直言ってウルフの雄雌の見分け方は見た目わからん・・・)


「フフフ、緊張しているみたいだなー健太君は。ところで王女はまだか?」


ウェルザの質問に対し、お手伝いさんと思われるリザードマンが言いはじめた。


「はい、つい先程ですが、急に友達が近くに来ているとの事でいきなり出かけられました。」


「友達だと!無断外出を禁止しているアイツに友達なんぞできるわけなかろう。」


「そ、それが・・・」

お手伝いさんのリザードマンは躊躇したが・・・土下座した。


「ウェルザ様!申し訳ございません!実はウェルザ様が会議やグリフォン狩り等出かけられている時、王女様も我々の拘束を避け、外出しておられるのです。」


ウェルザは一旦ため息をした後・・・

「あのお天馬娘にも困ったもんだ、跡取りは慎重に決めないと苦労するな・・・

 あ!すまんすまん!エルマ、健太君!さあ、先に食事をしよう。そのうち王女も帰ってくるであろう。」


「は、はい・・・ではウェルザ様、いただきます!」

エルマはバピラで食事をする前に行う仕草、合掌をした。

そう、この時代でも食事前は合掌をするのだ。

しかし健太は・・・


「ウッヒョ!旨そう!いっただっきま〜す。」

合掌の事は意識すらなく健太はあらゆる食べ物に食いついた。一瞬エルマに睨まれた気がしたが、物言いたそうな顔をしながら彼女も食事を始めた。健太もひたすら口を動かしている。



 食べ始めて少しお腹がおちお手伝いさんが騒がしくなる。今まで特に王や王妃から質問はなく、静かに食事をしていたが・・・おそらく噂の王女が帰ってきたのだろう。


「メインディッシュのキマイラフィレ肉の炙り焼きでございます。」


 おおおお!旨そうな肉が出てきた!早速食べよう!

 健太がメインディッシュを食べる前、口直しに一口水を含んでる時だった。


「遅れてごめーーーん!さあ、メシメシメシーーー!!」


ん?噂の王女か、一体どんなツラをして・・・


「ブーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」


口に入れてた水を全て王女に吐出してしまった・・・


「あなた・・・確か健太?」


「ディアネイラ・・・ええええええええええええええ!!!!お前!!王女様だっだのか!!!」

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