第124話 イズミの遺言

メルーはイズミの最期を1日たりとも忘れた事はなかった。


「ルー、逃げ・・・メルー・・・つ・・たき・・・あな・・う・・・て・・・」


イズミがメルーに言った最後の言葉が未だに頭から離れない。


(ルー、逃げ・・・メルー・・・つ・・たき・・・あな・・う・・・て・・・)


「逃げて?・・メルー・・・滝?穴?・・・」


 独り言の様にボソッと言うメルー。しかしその言葉に22年後に遂に何かを掴みとったのかもしれない。


「滝!穴!まさか!」


 メルーは一人で叫ぶ様に独り言を呟く。顔色が非常に悪い。健太はぐったりしている。時間があまりない事がはっきりとしている中、メルーに何かしら考えが浮かんだ。


「ハイム様!健太の解毒剤を作ります!!それまであの翠のピクシーの相手をお願いします!!」


パタタタタタタタタタ


「え?え?メルーちゃん?解毒剤なんてどうやって!!あ、危ない!!」


 泉より毒がハイムに飛んでくる。ハイムは飛んで避けようとしたが、羽がない事に気付き、伏せて避けた。

 毒はそのまま木に付着した。木は腐りはしないものの、何やらプスプスと煙を出していた。


「なんて恐ろしい・・・」


 ザバーーン!!と毒が飛んできた方角より、水しぶきが上がる。ハイムが驚いた顔をしていると、翠ピクシーは水から地上に上がってきた。


ウゴゴゴゴゴゴゴ


翠のピクシーは何やらうなっている。ハイムはこのピクシーの言ってる事、言いたい事がわかるみたいだ。


「すまなかった!!あの頃は俺もガキだった、お前もそうだし、俺もそう。お互いが意地を張っていた。でも、今のお前は毒に侵されている。治療が必要なんだよ。」


ウガーーーーーーーーー!!


 翠ピクシーは更に暴れ始め、遂にはハイムに攻撃を始めた。

 羽がないとはいえ、ハイムの華麗な動きで全ての攻撃を避けていく。


「翠!落ち着け!話を聞け!!」





「ハァッ、ハァッ、ハァッ、あった!あそこね!!」


メルーはピクシーの森にある滝へと向かっていた。


(滝、穴だったわね、おそらく滝の水しぶきで自然と穴がある筈。)


メルーは滝裏へ回り込み穴があるのを確認した。


(やっぱりだわ!?この中にきっと何かある。イズミさんはあたしに何を伝えたかったんだろう。)


メルーは穴の洞窟に入った。特に何もない。


「・・・だよね・・・イズミさんが亡くなって22年も経ってるんだから何も・・・ないよね。あたし・・・本当にバカね・・・」


 ユニコーンの角がここにあるって内心そう思っていたメルーだが、実際に無い事に落胆した。


(ハッ!!こうしちゃいられない!早くハイム様のところに帰らなくちゃ!!)


メルーがそう思った時だった。


キュルル・・・キュルル


「え?」


パカ パカ パカ パカ


「ユ・・・ユニコーン・・・しかも3頭も?」


 なんと、洞窟にいなかったユニコーンが急に現れたのだ。


「イズミさん・・・なぜ・・・一体どうやってユニコーンを・・・」


 この3頭のユニコーンはおそらく夫婦と子供。なぜこの場所にいるのかわからないが・・・

この洞窟に何か秘密が?


ま、まさか!!


メルーは一度洞窟から外に出て空高く飛び、滝を見下ろした。


「これは・・・蒼結界・・・確か由来は・・・


清き心乱れるば、そのまた結界も崩壊しべし


・・・蒼結界魔法で邪悪な者は今まで寄せ付けなかったんだ!イズミさんはここまでしてユニコーンを守ってたんだ!」


(ルー、逃げ・・・メルー・・・つ・・たき・・・あな・・う・・・て・・・


これはきっと、"角は滝にある穴の洞窟にて・・・"


ちがう! "角は滝にある穴の洞窟の手前よ"


イズミさんはこう言いたかったんだ!


翠種の万能薬。一番大事な材料である角は洞窟の手前にあるんだわ!?)


メルーは洞窟の手前に降りた。洞窟の手前は滝だ、確かに滝底にユニコーンの角がいくつもある。


「こんなに沢山・・・そっか、あなた達はとれた角や爪を水に落とす習性があるものね!?」


キュルル?


「一つ、貰っていくわね?ありがとう!」


パタタタタタタタタタ


メルーは角を一つ両手で抱え、健太とハイムの元へ急いだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る