15章 契約失敗

第121話 蘇る処方

ピクシーの森


 そこは自然あふれる豊かな楽園、大地の花は500種もの植物。又、泉はかなり澄んでおり、水底まで見える程の美しさ・・・のはずだったのだが・・・


「健太!しっかりしろ!わかるか?俺がわかるか?」


「健太のバカ!なんで避けなかったのよ!!」


健太には何も聞こえない。ただ、遠いところでハイムとメルーの説教話が聞こえる気がする。そう、健太は毒に侵されてしまったのだ。


 紫種の毒ならば、解毒剤も解毒魔法も開発されているが、翠種となると話は別だ。


 猛毒なのは紫種の毒だが、翠種は猛毒と言う程の毒ではない。しかし猛毒ではないという事から、研究が疎かで、放置されていた事により、解毒剤の開発が未だに公開されていないのだ。


 メルーの先輩であるイズミは、翠種の毒に対する解毒剤を研究していた。メルーが研究所で働く事になり、仕事に多少慣れた頃に、その解毒剤の発明に成功していたのだ。



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ピカトーレン国古代研究所(現在のラマ国古代研究所)


(ああ・・・もう帰らなくちゃ、流回矢るえしからして間もなく明日になっちゃうわね・・・お腹の赤ちゃん達に悪いし・・・

あら!庭に誰かいる!あれは・・・)


 イズミは真面目なピクシーであった。ほぼ毎日、一番に出社して一番最後まで働いていた。

そんな仕事に追われていたイズミの前に、ギギギギギーーっとドアが開いた



「よっば♪よっぱ♪酔っ払い〜はわったしっだよーお♪お?お?おおお?ありゃ、イズミン、まだ仕事してたのー?」


「ハァアァァァ・・・シエル、ま〜たそんなに飲んでー・・・また研究所で泊まるつもりなの?」


「ニャ、ニャンだイズミン!研究所で寝てはいけないってルールが・・・あるんかいの?の?ののの?」


 (やれやれ、シエルったら普段は真面な人なのに、お酒が入るとダメ猫ねぇ・・・)


「とにかく!私は帰りますからね!シエル、ここで寝るのは構わないけど、散らかさないでね!」


「わっかりましたあぁぁああ!イズミン受付軍曹殿!責任を持ってこの研究所を見張りますーーよ?よ?

 イズミン軍曹に敬礼!気をつけて、お帰りくだ・・・」


「うるさい!帰る!!」


今も昔も、この様にシエルは酒癖が悪かったみたいで・・・イズミは


バタン!!


と、扉を強く閉めて帰宅していった。


 (まったく!私の依頼されている研究を手伝おうか?とか無理しないでね!とかそういう一言あってもいいのに!)


少しイライラしてしまったが、これもいつもの事であり、次の日には嫌な事も忘れてしまうイズミなのだった。



次の日


「グガー!!グガーーーー!!グガーーーー!!」


「起きろ!」


ガン!!


「グ・・・・グガーーーー!グガーーーー!!」


「起きろ!!」


ガン!!


 ザックス所長は自分のスティックでシエルの頭を叩き、起こそうとしていた。


「ンニャー・・・ん、痛い・・ムニャムニャ」


「ハッハッハ〜、シエル!お前また家に帰らず、ここに泊まったんだな?」


「ンニャ?ザックス所長、何故ここに?ハァ!!しまった!!寝過ごした!!」


「ハッハッハ〜、おはよう、シエル。いい加減に真面な生活をしないと、奥さんに逃げられてしまうぞ?

 まぁ、俺はいいんだがな、一応無遅刻無欠勤の様だしな。酒のおかげで・・・」


そこにメルーがやって来る。


「おはようございます、ザックス様」


「ハッハッハ、おはよう、メルー。今日イズミから連絡があってなー、出産の下見にピクシーの森に行くらしい。すまんが今日は1人で頑張ってくれい。」


「わかりましたザックス様。」


「ハッハッハ〜、さあ、今日も一日頑張ろう!」





 一方、イズミはピクシーの森に早くも到着していた。


「うふ!?相変わらず素敵なところね〜♪」


イズミは森を暫く歩いた。奥の方でドドドっと音が聞こえる。湧水で溜まった水は流れていき、最後に滝に流れてバピラ湖へと繋がっている。イズミはその音は滝があるからと、知っている様だ。


キュウ、キュウウウウウウウ


イズミは流れている滝で何かの弱々しい声を聞いた。


「あら、何かしら・・・」


思わず独り言を漏らし、声が聞こえた場所に近づいた


「こ・・・これは・・・」


白い毛ヅヤ、勇ましい眼、美しい羽、鋭い蹄、

そして特徴ある大きな角、絶滅が噂されている生き物とイズミは遭遇したのだ。


「ユ・・・ユニコーンだわ!?」


見ると後ろ足を負傷している、どうやら怪我をして動けない様だ。


「あらかわいそうに、この森は蔦植物つたしょくぶつが多いから足をひっかけたのね?もう大丈夫よ!?」


イズミは回復魔法でユニコーンの傷を癒す。

良くなってきたようだ。


「うふ♪まだ動けないかもしれないけど、これで良くなっていくはずよ?安心なさい。」


キュ、キュルル


「明日また来るわね。じゃあね」


イズミは手を振りユニコーンから飛んで離れ、再び森と泉付近を見て回る


まさかユニコーンがまだ絶滅していなかったなんて・・・奇跡だわ。でも、10年前は絶滅することはないと思っていたユニコーンが、なぜ急に2年前くらいから姿を消したのかしら・・・



次の日


「ねぇメルー?昼からちょっとピクシーの森に行きたいから後頼んでいいかしら?」


「勿論大丈夫です!もう明日の仕事分まで終わらせてますし、ゆっくりしてください。」


「うん、悪いわね、ちょっと行ってくるね!?」


パタタタタタタタタタ


「イズミさん、もう少しだね、赤ちゃん♪」


そうしてイズミはユニコーンの様子も兼ねてピクシーの森へと移動したのだが・・・


ヒイ、ヒヒイーーン!!


(あら?何かしら?誰かいるわねぇ)


「ったく!手間取らせやがって!さあ、バドームに帰るぞ!」


(あ、あれはゴブリンが2人、一体何をしているのかしら、ユニコーンの様子がおかしいわね・・・)


「ほれ!さっさと動かんか!こっちは早くお前を連れ戻して帰って早く酒が飲みたいんだよ!」


ピシッ!ピシッ!


ヒヒン!!


ゴブリンはユニコーンのおしりをムチで2回叩く。痛々しい音が森に鳴り響く


「や〜っと立ち上がったか〜。

さーて帰・・・ウギャーーーー!!」


「ギャ?おい!しっかりしろ!!何だ何だ?」


イズミはゴブリン2人に対し、水属性魔法でまず1人を攻撃した。


「2人共去りなさい!またやられたいの!?」


「ギャ・・・蒼ピクシー!もう少しだったのに!覚えてろよ!」


ゴブリン達は何度も振り返っては悔しそうな顔をしながら去っていった。


「もう大丈夫よ、しかしどうしてゴブリンはあなたを狙っていたのかしら・・・」


ブルルル


 イズミは考えた。きっと次はゴブリンだけではなく、バドームの数人でユニコーンを探し出すに違いない、それを阻止するには隠れる必要がある、と。


「そうだ、いい場所があるわ!?歩ける?こっちよ!?」


イズミとユニコーンは滝に向かって移動を始め、そして滝裏にある洞窟に隠れた。


「ちょっと湿っぽい場所だけど我慢してね?ここは昔から私の秘密の場所よ。」


ユニコーンはイズミを受け入れていた。そんなイズミも次の日、また次の日とユニコーンの足の様子を見に来ていた。


そしてユニコーンとイズミが出会ってから6日が過ぎた時だった。


「いない・・・足治ったのかしら・・・」


 ユニコーンは姿を消していた。イズミは悟った。元気になったから、更に安全な場所に移動したに違いない、と。

 その証なのか、ユニコーンの角が落ちていた。


「これは・・・ユニコーンの角・・・万能薬を研究する超貴重な素材になるじゃない!ユニコーン・・・ありがとう、そして元気で走り回るのよ!!」

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