第112話 ピクシーの森

 ここはラマ国上層部最上階、王座の間


「・・・そう、知らなかったわ?まさか貴方のお父様、ラマ・フクロッシが亡くなっていたなんて。」


エルマはバッド王と会話をしていた。


「エルマ外交官、何度も言うが援軍の件は感謝で頭が上がらない!しかし、今健太をピカトーレンに戻させるわけにはいかないのだ!」


「彼は約束してくれたわよ?援軍要請は、ピカトーレンに戻る事を条件にして合意したのよ?それに、一般人でしかも未成年の人間をラマ国に許可なく出国し、王自らがまさか外交官に指名するだなんて、異例中の異例ねぇ」


「エルマ外交官、其方は今すぐ健太をピカトーレンに戻る様にするおつもりなのか?」


「そのつもりよ!?彼も覚悟は決めてもらったもの。」


「待ってくれ、エルマ外交官。彼を、健太をもう少し、もう少しだけラマ国外交官としていさせてくれないか?」


「あら、何故かしら?ピカトーレンの国民はまだラマ国上層部を許してないわ?そんな上層部で尚且つ国の王が、私にお願いするなんて冗談じゃないわ!?」


「頼む、どうかこの通りだ!!」


 バッドはエルマの目の前で膝をつき、そして土下座してお願いをした。流石にこの光景はエルマも想定しておらず、驚きの顔をエルマは見せた。


「バッド連隊長・・・いや、バッド王、王がわざわざ外交官の私なんかに土下座する必要ありませんよ!?」


「健太は・・・健太は図書館の古代資料を研究し、ラマ国研究所で古代語と古代遺跡の研究を重ね、今ラマ国に何が必要で、何をすれば良いか等、理解している人材だ。健太のおかげでロッヂの山猫族も解決したし、昨日はフク・ハイム・健太の3人でバドームからの侵略阻止にも応えてくれた。そして今は負傷した仲間の為に動いていると治療員から報告を受けている。

 お願いだエルマ外交官、せめて今負傷している仲間を助けるまでは、健太をそのままにして欲しいのだ!!」


「・・・バッド王、そんな土下座する様な王をウェルザ様が見ていたら、笑われますよ?」


「エルマ外交官、私はこんな姿を例えピカトーレン国王、ウェルザ様に見られて笑われても構わない!それでも私やラマ国民の為にも今は健太の力と知恵が必要なのだ!!」





 健太はうるおい屋のいつものテーブル、いつもの席でハイムとメルーを待っていた。フクにも声をかけ様としたが、バッド王の側にいる様に言ったのは自分である事を思い出し、声をかけなかった。


 しかし、図書館でフクとメルーと解散した時、「健闘を祈る!」の一言をフクよりもらった。この言葉は健太の作戦を成功させる様にとの気持ちが籠っていた。


しかしアイツら遅い!まだか!

っと、ジュース2杯目に入った時、


「健太!お待たせ。どうした?なんか作戦考えたって聞いたけど?あっすみません、俺うるおい酒ください。」


 来た早々、ハイムは注文をする。この手の飲み屋に手慣れた対応、流石女たらしのピクシーだと健太は感じる。


「あ、すまねえなハイム。バドームに乗り込んで侵略作戦はやはり命に関わるからさ、別の作戦を考えたんだよ。」


「別の作戦?」


「そうさ、メルーがきたら話すさ。」


「メルーちゃんまでその作戦に必要なのか?」


「・・・いや、メルーはハイムの羽を直してあげたいって気持ちが誰よりもある!そんな彼女を放っておけないんだ、スマン!」


 軽く謝罪した時、丁度ハイムのお酒がテーブルに運ばれた。ハイムは一口、二口とお酒を飲み、片手にグラスを持ったままでメルーの事を話しはじめた。


「いや〜俺さ、メルーちゃんが苦手なんだよねー。デート中に俺逃げちゃったじゃん?なんか罪悪感があってさ・・・」


「お待たせ、健太!あ、ハイム様、もういらしてたんですね?」


 メルーだ、メルーがやって来た。ハイムは飲んでいたお酒を吐き出しそうになってしまう。


「ンブブ!や・・・やぁ・・・メルーちゃん・・・」


随分と挙動不審なハイムを見たメルーは、


「???」

(ハイム様一体どうしたのかしらオドオドして?でも、そんなハイム様ってなんか可愛いな・・・)


「あ、そうそう。ごめんね、健太。実は・・・」


メルーは健太に苦笑いしながら誤り、指を指した。そこには・・・


「は〜い、実はのう、来たぞい。」


「は〜い、同じく来ました〜。」


と、シエルとイルグルが何故かいる。しかも既に酒臭い。


「な・・・なんでじじいと黒助がここにいるんだ!!」


「じじいとはなんじゃ!冷たいのう!ん〜〜?健太、今日はバドームからの防衛成功祝いで中央エリアは祝い祭りを急遽する事になったんじゃ!」


「そうですよ!健太君、たまにはこうやってパーーーっと祝い事をしないと、人生損しちゃいますよ?」


(こ・・・この2人は酔っ払ってやがる・・・メルーの野郎、余計なお荷物を・・・)


「わかったわかった!じじいと黒助はここで飲んでろ!大事な話があるから、邪魔だけはするなよ!」


 シエルとイルグルは「ハーイ」と言いながら健太の左隣へ座る。


それを微笑ましく見ていたハイムは健太に問いかけた。


「まっ、健太よ、楽しそうだしいいじゃないか、さあ聞こう、ピクシーの森への話。」


(まっいっか。コイツらも一応世話になってる仲間だしな。うるさくなったら、殴ればいっか。)


「よし、じゃあ話すぞ。俺は地図を見て気づいたんだ。ララ山脈の奥深い山から流れてくる水は、ピクシーの森と全く関係ない事に気がついたんだ。まぁ、どちらの川もいずれは海へと流れてしまうんだけどね」


 健太の説明は単に山から川が流れて海へ流れていく。ただそれだけの話だった。その為、ハイムはしらけた顔をしている。


「で。本題はここからだ。きめ細かく見ると、山脈から一度、この大きな滝を流れてこの湖、つまりチャント高原にあるバピラ湖に流れる。しかし、この地図をよ〜く見るとさ、ピクシーの森から出る湧水も流れてバピラ湖に流れている事がわかる。」


地図を見ると、大きなバピラ湖の隣に小さなピクシーの森がある。


「つまり、バピラ湖からピクシーの森へ続く水中洞窟か何かがあると考えられるんだ。」


「水中洞窟?」


「そうさ、地図をみる限りではピクシーの森は標高の高い所にあるんだ。俺が思うに、ピクシーの森とバピラ湖は繋がっている!バピラ湖から東の方面の何処かに必ずピクシーの森へと続く洞窟がある筈だ。」


「つまり、それを明日探しに行くと、そういう事かな?」


「まっ、そういう事さ、勿論絶対に抜け道があると言い切れないけど、普通に考えて、ピクシーの森の湧水の流れる場所が地図に乗っていない事に気がつくとさ、バピラ湖に流れているって普通思うだろうし、道がありそうじゃん?」


「わかったよ、健太、明朝出発しよう。でさ、本当にメルーちゃんも連れて行く気か?」


 ハイムはメルーに指を指して聞いてきたが、メルーは・・・


「いぇぇええええい!かんぱ〜い!!明日はハイム様と生まれ故郷デート、デート♪

邪魔者健太がいるけれど、デートデート♪」


(・・・・もう酔っ払ってやがる、ってか俺邪魔者かよ!!)


「まぁ、健太、俺は帰る。明日明朝に出発しよう。メルーちゃんは2日酔いじゃなければ参加って事で!」


そう言い残し、ハイムは歩いて帰っていった。普通に飛んで移動するピクシーが歩いて移動しているんだ。やはり不自然に感じた。


(ハイム、もう少しの辛抱だ!堪えてくれ)



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