第105話 弱者

 モグモグモグモグと、荷馬車の屋根上で腰をかけ、何かを食べているのは、先程リサとエルマが同時に名を呼んだ健太であった。

健太はボ=ギールに向かい、Vサインで応える。


「援軍、参上!!」


「き、貴様は!」


 健太は右手に持っている肉に一度かぶりついてから喋り始めた。


「ん〜、まんいなおれ、んまーらおんらまんいおおを・・・」


「健太、なに言ってるのかわかんないわよ!?お行儀の悪い所を直しなさい!」


 リサに怒られた健太は一度口に入れた肉を早々と飲み込み、再び喋りだした。


「不味いなこれ、おまえらこんな不味い物をいつも食べて生きてきたのか?」


「な・・・貴様!俺様達の食糧を!!」


「ところでなんでダサい仮面を付けてるんだ?お前、ボ=ギール様だろ?」


「グッ・・・殺す・・・」


 そう、ボ=ギールはアル=バードに顔を殴られ、カイトに顔を燃やされ人前に見せられない程の怪我をしていた。そうなってしまったのは、全てここにいる健太が全て悪いという感情が、どんどんと高まってきていた。


「ボ=ギール様よ、ピカトーレンとラマ国で大事に大事に育てた食料をお前たちは食べているんだ。そのありがた〜い国に戦争を仕掛けている。ありがたい国を攻めるとは何事か!決して許す事は出来ない!この罪は大きいぞ!!」


「あー?クソガキが、何を言ってやがるんだ?バピラ以外からの侵入があった場合、我々が責任を持って侵入を阻止するというバピラ法案がある。それを我々は守っているではないか!」


「何言ってんだパカタリが!バピラ以外からの侵入は今まで一度もない!つまりお前らはなんの仕事もしていない!ただの裏切り者国家だ!」


「パカタリ・・だと?どうやら俺様を怒らせた様だな〜。クックック、死を与えてやる!」


 健太は荷馬車屋根上から一気に飛び降り、ボ=ギールに向けて聖スティックを持ち身構える。


「よし、ここは先手必勝だ!喰らえ!ボ=ギール!!」


 健太は聖スティックに魔力を込め始めた。小さな声で詠唱を始めた。既に健太はほぼ魔法発動をマスターしたと言える。

しかし・・・


「まっ、待て!待て!小僧!きたないぞ!」


「へ?」


 ボ=ギールが待ったをかける。一体どうしたのか。健太は思わず集中力を切らし、詠唱していた魔力は失われた。


「なんだよ!戦いにきたないもクソもねーだろ!?」


「俺様の兵はまだ残っている!そして貴様らの兵も残っているんだ。先ずはお互いの兵力勝負をするのが筋であろうが!」


「は?」


 どうやらボ=ギールは健太と戦うつもりが有るのか無いのか、一体どういう戦いを望んでいるのか全くわからなかった。


「つまり、総力戦がしたいのか?」


「そ、そうだとも!そして・・・」


 ボ=ギールのわけのわからない提案に苛立ちを見せたのはエルマであった。

 

「そんな事をする必要はないわよ?ボ=ギール隊長」


「なに?どういう意味だ!」


「我がレンジャー隊は援軍としてこのアルミナ平原にきたのよ?連れてきた兵全員は士気が高いのよ、何故かわかる?それはね、手柄を一番にあげて貢献し、一歩でも上へ上へと目指す物が多いからなのよ。

 お陰様であれを見なさい。」


 エルマは指差している先は、既に殆どのエルフが横たわっている姿であった。レンジャー隊によりあっさりとやられてしまっていたのだ。


「な・・・なんだと・・・」


 ボ=ギールは驚いたと共に、焦りを感じ始めた。このまま引き返しても、ここで戦っても死んでしまう。何か、何か作戦はないか・・・と。

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