第102話 蛇陣

 戦闘開始から僅かな時間でボ=ギール隊5000人いた第1陣は2500人にまで減少してしまったのだ。


 しかもそれだけではない。この戦闘で恐怖を感じたゴブリンとオークの半分が戦闘離脱、ボ=ギールの指示を無視し逃げ出していく。


「ボ=ギール様!ここは一旦1陣を引かせてはいかがかと!このままでは1陣は崩壊してしまいます。」


「グヌヌヌヌヌヌヌヌ!!おのれ~~~~!!あの猫め~~~~!!」


 紅いピクシーを除くゴブリンとオークの離脱により、1700人にまで減ってしまったのだ。


「クソッ!やむをえまい、一度退却を・・・」


 ボ=ギールの判断により、退却の指示を出そうと思ったが、フクの指示が一枚上手だった。蒼ピクシーによるウォータースプラッシュが紅ピクシーを襲う。


 遂に1陣は大混乱し、指示をしても聞こえない程の混乱を起こしてしまったのだ。フクに隙はなかった。更にこの戦闘でラマ国の兵士は一人も命を落とす者はいなかったのだ。


 気付けば第1陣は僅か300人になり、ボ=ギール軍は陣営に帰っていた。この時点で兵士の一部しか失ってはいないが、敗北をボ=ギールは味わったのだ。


 一方、ラマ国側は、第1戦は大勝利と受け止めた。そしてフクは皆に声をかけた。


 「皆の者、先ずは成功だ。死人よりも怪我人すら誰一人おらず戦う事が出来たのは、誇りに思う!!ありがとう。しかし、これでボ=ギールを本気にさせたのは事実だ、これからが本当の地獄と思え!今は魔力の回復に備えるんだ!」


「うぉおおおおおお!!」


「やったね♪」


「うごぉおおおお!!」


士気は更に上がっていた。



「おのれ~~~!!やってくれたな~~!!許さん、絶対に許さん!!」


「ボ=ギール様、落ち着いてください。」


「これが落ち着いていられるか!!」


ボ=ギールはいつもの様に暴れていた。それもその筈、この戦闘で敗北となると、大臣アル=バードに殺されてしまうという恐怖もあるからだ。


「・・・クッ!全軍だ、全軍突入する。」


「え?全軍ですか?せめて1000人は残しておいた方が・・・」


「黙れ!!たった500人を15000人で潰すだけ、簡単な事じゃないか!ククク猫め、今に見ていろよ~~」




「ハァッハァッ!国王様~~朗報~~朗報~~国王様、どこですか〜?」


避難誘導側の偵察兵がバッド王の元に走っていた。


「私はここだ!どうした!そんなに息を切らして!?」


「フク部隊長、敵2万のうち5000人を撃破、しかもうちの上層部隊は誰一人欠けていないとの事!」


「ぉおおおおおお」


「すげーなーフク隊長は!」


 避難所で待機している国民とハイム達はその朗報を聞いた。そして・・・


「バッド国王、私もフクと合流します。私一人でも戦闘状況は更に変わる筈です。」


「・・・許可しよう。しかし無理はするな!!」


「はっ!!」


こうしてハイムはフクのいる戦場へと急いだ。


(フク・・・ハイム・・・良きコンビよ・・・そして健太よ、急いでくれ)





「ボ=ギール軍、動きました。数・・・え?・・・数!全軍!!全軍と思われます。」


全軍突入の声にどよめきが生まれた。


「15000人かよ!」


「大丈夫か?俺達」


兵士達が騒ついていたが、フクは冷静に応えた。


「全軍!持ち場に着け、大丈夫だ、絶対に敵の進行を阻止させる!安心して持ち場につけ!!」


 多少不安があるのだろう、特に返事はなく、全員持ち場についた。


 兵士達はフクの顔に迷いがあると悟った。フクはこの15000の敵兵をどう決着をつけようとしているのか?何か作戦があるのだろうか?そんな事を想像する上層部兵士達は少なくはなかった。そこへ、


「フク!加勢する!!」


「ハイム!お前、王は・・・バッド様は?」


「勿論無事さ、避難所で待機してる。」


「ピクシー隊の指示は任せるぞ。」


 ハイムは少し高く飛び、アルミナ平原から近づいているボ=ギール軍を確認した。

そして何か思いついた表情をしながら再び下降する。


「フク、この状況は蛇陣を適用したらどうだ?」


「ああ、俺もそれを考えていたんだ、しかし蛇陣は訓練のみ、実戦するのは初めてだ。」


「何言ってんだ、皆んなを信じなきゃ。培った訓練の成果を出そうじゃないか!」


「・・・そうだな・・・よし!!」


フクの顔から迷いが消えた。そして兵士へ指示をだす。


「壁職、トロル隊、2列になり中央部隊は一歩後ろに下がれ!猫族部隊全員中央を開け両サイドで待機。これより蛇陣形に変更する!」


上層部兵士達はフクの指示に従い移動を開始。


「ピクシー部隊は今から俺が指揮するよ?とりあえず今は魔力の回復に専念して!」


 上層部兵士達は嬉しかった。この2人のコンビ、連携は憧れであったからだ。指示に逆らう者は誰一人いなかったのだ。


 しかし15000のうちエルフは8000人、ピクシー3000人、オーク2000人、ゴブリン2000人と圧倒的に援護射撃をするエルフが多いのだ。エルフ全軍の射撃が来ると・・・フクはそれを心配していた。そして15000人のボ=ギール軍は距離300メートルにまで迫っていた。


ボ=ギールは早い決断をした。

「奴らに休息を取らせるな!全軍、突撃〜!!」


ゴブリンとオークが再び突っ込んでくる。

フクは再び声をかける。

「猫族全軍、土属性パカリ作戦詠唱開始せよ!!」

上層部猫達は詠唱をはじめる、


そしてバドーム側もボ=ギールが指示を出す。


「エルフ隊全軍、矢を射る、構え!!」


 矢が来る!フクはハイムの顔を伺う。ハイムは指示した。


「ピクシー隊、詠唱開始!」


ピクシー達も魔法を集中しはじめた。フクとハイムは顔をそれぞれ合わせ、お互いでうなずいた。お互いで「頼むぞ」と言ったのだ。そしてハイムは叫ぶ。


「猫部隊、パカリ作戦開始!」


「ウニャーーーー!!」

「ニャーーーーゴ!!」


 猫部隊はそれぞれ魔法を使用。今回は地面から手が出てくる魔法ではなく、ゴブリンとオークの場所に落とし穴が!次々とパカリパカリと落とし穴に入っていく。


そして、

「放て〜〜〜!!」

ボ・ギールの声と同時に8000本の矢が襲ってくる!


「ハイム!来るぞ!!」


「よし!全員、開放!!」


 ピクシー隊は詠唱後、魔法を使用。ウォーターバリアで結界をトロルの前に貼った。

 8000本の矢は全てウォーターバリアに吸収されてしまったのだ。


「何!!バ・・バカな・・・」


一番驚いているのはボ=ギールだった。


「我がエルフ最強を誇るバドーム帝国第4特殊部隊の矢が通用しないだと?そんな筈はない!もう一度構え!!」


ボ=ギールはもう一度矢を構えさせる。


「ピクシー隊、ウォーターバリアの継続魔法詠唱開始!!」


 ハイムは次の攻撃に備え、ピクシー隊に指示した。


ドンドンドン!!


どこからかドン!と音がした。


 紅ピクシー3000人がウォーターバリアの薄い場所を見つけその場所を炎獣玉で結界を一部破壊、そのまま2人のトロルに火属性魔法を放つ。


「ぐおおおお!!」

「あじ、あぢぃあっじいよー!」


 トロルは叫ぶ、しかしピクシー隊は全員がウォーターバリアの詠唱をしている。フクは指示した。


「蛇陣、発動、壁全部隊、右に各自ずれよ。」


ピクシーから炎獣玉を喰らったトロルは2人。

陣列を右に2つずらし、破壊された場所は無傷のトロルとなる。


 そして再び放った2回目の矢はウォーターバリア継続によりまたまた失敗したのである。

今のところ、ここまでは順調だ。しかし、魔力がなくなってきた時、その時まだ敵に兵力があれば・・・フクはその事を心配していた。


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