第97話 謎の中年男性

「なあ、若いの」


「・・・・」


「なあなあ、若いのー」


「・・・・」


「なあってば!!」


「うるさいな!少しは静かにしてくれよ!!」


謎の中年男性は、健太に聞きたい事でもあるのか、健太に何かを聞こうとしたが、健太は拒んだ。

男は軽くため息をして自分から話す事に切り替える。


「・・・俺はもうこの窮屈な牢屋で12年住んでいる。バドームのスパイだったんだ俺」


「バドームのスパイ?じゃあなんで人間なんだ?」


「あの国は人間を捕らえ、スパイ要員を増やそうと計画していた。それに逆らうと、妻と愛しき娘が殺されてしまうのだ。」


 人間を捕らえてスパイとして活かそうとするバドーム帝国、一体何故その様な事を企むのだろうか。


「スパイ?何で人間を?」


「全ては領土拡大の為じゃ、エルフの人口は10万を超え、12万人になりつつある。人が増えれば土地がいる。バドーム帝国は東へ東へと領土を拡大したいのだ。」


 東へ領土拡大、それは健太に様々な思考が生まれた。バドーム帝国の下側、つまり南にあるのはピカトーレンとラマ国。

ということは、東はバピラ以外の国がある?若しくは空き地?未知なる土地?

いずれにせよ領土拡大はピカトーレンやラマ国の侵入ではないとい事になる。

では何故、ボ=ギールはラマ国に侵攻する?その矛盾はなんだ?


「バドーム帝国は軍事国家だ、国民全員が軍人だ。そして我らはその軍人を助ける為の駒に過ぎんのだよ」


 この男は一体誰なのか、バドームの内情に詳しそうだ。どうやらリサもこの話には興味がある様で、腰を下ろし、彼に質問をする。


「ねぇ、おじさん。エルフ達はピカトーレンやラマには攻めて来ないの?」


「そうじゃな、ピカトーレンとラマは生産した食糧や衣類、軍備品等の70%はバドーム帝国に納めている事はマーズで勉強したであろう?そんな生産の源であるピカトーレンやラマの国を易々と滅ぼすような事はせんじゃろう。」


 それを聞いた健太とリサは顔を見合わせた。じゃあ何故、バドーム帝国はラマ国に侵攻しようとしているのか。

リサは再び質問を続けた。


「おじさん、今ね、ラマ国にバドームのエルフ達が侵攻しようとしているの。何故なのかわかる?」


「何!?エルフが?」


「それで国民の命が狙われたら生産量も減り、自分達の首を絞めるだけの筈なのにどうして侵攻を考えるのかしら・・・」


「それはな、何か目的が必ずある。一部の土地侵略、緊急資源略奪等が考えられるが、一番に考えられるのは・・・一部の人殺しだ。」


 中年の男はスラスラと応え、自信満々な表情をしていた。どこからそんな憶測をスラスラと言えるのだろう。

健太はデタラメばかり言いやがってと思う気持ちを少し抑えた。


「ん?若いのはデタラメ言うな!って顔をしてる気がするが気のせいかな?」


「え?あ、いや、思ってないさ・・・」

(鋭いなこのおっさん)


健太は気になる事を思い出した。




【「我が帝国、バドームは少しづつ少しづつ領土を拡大しつつある。それは何故か判るか!?バピラを大きくし、発展させ、裕福な暮らしをする為である。」


「領土拡大したらピカトーレンもラマもその分小さくなるじゃねーか?」


「バカか!バピラ以外の領地を侵略し、拡大するのが我が大臣、アル=バード様のお考えだ!その為に大臣は軍略帝国制度をお考えになったのだ。」】



(なるほどな、このおっさんはボ=ギールと同じ事を言っている。)


 健太はようやくわかった。この中年男性に様々なヒントを教えてもらったおかげである程度わかったと確信した。


「なあ、おっさん、奴らの目的はおそらく俺の命だと思う。」


「ほう。それは何故かの?」


 健太はボ=ギールにバピラ湖で出会い、殺されかけたが、返り討ちにした経緯を話した。


「なるほどな、それが理由だというのは一理ある。よかろう、まだ少し情報不足だがお前達を助けてやろう。」


「え?」


健太とリサは2人して声が漏れる。助けてくれるのはありがたいが、助けてほしい相手がエルマではなく、囚われたおっさんだ。


「門兵よ、門兵よ、おるか?」


しばらくすると門兵が現れた。


「ガイ様、どうしました?」


「エルマを、エルマ外交官をここに連れてきてくれ。」


「わかりました。直ちに。」


 門兵はそういうと、階段方面へ消えていった。

遂に謎の中年男性の名前が、ガイという名前だとわかった。

そしてエルマを呼んでくれるみたいだ。




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