第94話 夜襲の恐れ有り

 シュールの施設。それは戦争で親を失い、路頭を彷徨う子供を保護する施設である。


 ダークルカンによりこの時代に来た健太は、特例でシュールの施設に保護された。


 本来ならば、親が何処の誰であり、何処でどの様な状況で亡くなった、或いは行方がわからなくなったかが分からないと、保護の対象にはならないのが普通だ。

そんな施設を管理するのが老いたウルフの施設長、シュケルである。





 健太とリサは正座をしていた。

そう、シュケルにより正座をさせられているのだ。


「なあじじい、来て早々なんで俺まで正座しなきゃいけないんだ?」


「やかましい!それに誰がじじいじゃ!リサが急にいなくなれば、ワシやシュールの子供たちに迷惑がかかるだろうが!」


「いやいや、俺は全く関係ないだろ?」


「リサはお前達ラマの研究所で働き、シエルのクソジジイの住処を宿にしてると聞く。

な〜んでワシに一言言わないんだお前達は!」


 シュケルは曲がった行動や非常識な発言等を昔から嫌う。今回リサが勝手に家を飛び出し、健太とシエルの跡を追った事に対し、ご立腹の様だ。

とはいえ、健太には全く関係ない話だが・・・


「とにかく!安否の確認は必要不可欠。次からは連絡せい!」


 リサはずっと黙っていた。いや、よく見ると反省している顔だ。しかも滅多にシュケルに怒られた事のないリサにとってはショックもあったのかもしれない。


「おっ?珍しいじゃねーか、来客と思っていたがお前達か!?」


「リョウ!」


「よう健太、今日はどうした?」


 リョウがシュケルが怒っている声に惹かれてやって来た。


「リョウ、悪いんだがお前とラウルで大至急俺とリサをピカトーレン上層部のビルまで連れて行ってくれ!」


「へ?」





 アルミナ平原、ここに今、バドーム帝国第4部隊の陣がある。

ピカトーレンに3キロと迫ったところで、ボ=ギールは野営を張る指示を出した。


ボ=ギールは顔を包帯を巻きあげ、俗に言うミイラエルフ状態であった。

そしてボ=ギールの部下が気兼ねな表情をしながら話しかける。


「ボ=ギール様、皆で野営を張り次第、食事にしまして、休息致します。明朝、第一太陽の日の出と共にラマ国侵攻作戦を実行致します。」


「・・・明朝・・・だと?」


「は、はい。何か問題がありますか?」


「大ありだ大馬鹿野郎!!メシを食った後、夜襲をかける!我らには時間と結果が必要なのだ!」


「は、はぁ・・・しかしボ=ギール様、夜はラマ国の種族にとっては得意とする時間、ラマ国の兵が少ないからとは言え得策ではありません。ここは朝まで待ち、我らエルフ隊の視覚が良い時間に侵攻するのがよろしいかと・・・」


「黙れ!戦場は何れ火が着く。その灯りで十分だ!全兵に伝えよ、メシ食ったら陣形を整えよと!」


「わ、わかりました。(この人、やっぱりバカなのかな・・・)」





同時間、再びピカトーレン。


 健太とリサはピカトーレン上層部のあるエリアへと急いでいた。


「すまねえな、リョウ!」

「ごめんね、ラウル君」


 2人はウルフの足を利用していた。健太はリョウに。リサはラウルの背中に乗り、移動していた。


 リョウは健太を背中に乗せながらも少し不機嫌気味。


「おい、健太、一体何の騒ぎだ?何でピカトーレンの街方面に向かう必要がある?何で家出娘と一緒にいる?なんでタクシーさせてるんだ?」


 確かにリョウには何の説明も無しに走らせている健太。とはいえ人間が走るよりも何十倍も早いウルフの足をタクシー代わりに利用していた。

しかしもう1人のウルフであるラウルは、マーズでも有名な超天才の知恵を持っていた為か、少し勘づいていた。


「・・・施設長の説教を振り切ってまでこんな行動をするって事は、戦いがはじまるのですね・・・」


 リョウとは別に、何かを察して共に行動をしてくれていた。


「とにかく急いでくれ、ラマ国崩壊の危機なんだ!」


 リョウとラウルは、突然来た来客の健太とリサを乗せ、西へ西へと向かう。



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