第87話 ジョーカー
その日の晩、うるおい屋に早く5人揃った。言い出しっぺの健太が一番遅かったくらいだった。黒助とメルーはお互いが背を向けている、話し難そうなのがわかる。
そこに空気の読めないアイツが・・・
「イルグル君?おチビちゃん?どうしたの?喧嘩でもした?」
リサだ、相変わらずこういう所は子供というか、無神経なのは相変わらずだ。
しかし、イルグルもメルーもリサの質問に応える事なく黙々と食事をするイルグル、静かにお酒を飲むメルーであった。
「遅かったのう健太、先にやっておるぞよ?」
「ああ、すまねえな、じじい、皆をここに呼び寄せて」
「な〜に!ワシは酒さえあればうるおい屋にずっといてもいいんじゃよ、ニャハハハハ・・・って誰がじじいじゃ!!」
「まぁまぁ、もういいじゃねえか、じじい。」
「うるさい!!ところでイルグル、メルー?お主ら一体どうしたのじゃ?喧嘩でもしたのか?リサが心配しているじゃろうに。早いこと仲良くするんじゃぞ!?」
まだシエルは知らない。イルグルが失恋し、メルーが別で失恋し、二人の関係があまり良くない事を・・・
「実は昨日、このトランプでゲームをして、勝負に熱くなりすぎた二人はぎくしゃくする関係になったんです。だから今夜で白黒はっきりつける為に、今日の勝負はクライマックスなんだよ。」
と、健太は適当にごまかしてみたのだが、黒助とメルーそれぞれ健太の方を見ている。いや、睨みつけている。そしてシエルは。
「なんじゃそういう事であったか、で、トランプとやらの勝負はどうやってやるんかの?」
「よし!今日はババ抜きというゲームをやるぞー。」
健太は5人にババ抜きのルールの説明、トランプ1~13のダイヤ、スペード、ハート、クローバーの説明を行い、自分を含む5人にカードを配る。配り終えてカードを見る限り、健太はババを持っていない様だ。
各自、ゾロ目のカードを捨て始め、そしてゲームがスタートする。順番は、まずシエルがリサのカード引く。
リサが健太のカード引く。健太がイルグルのカード引く。イルグルがメルーのカードを引き、最後にメルーがシエルのカード引くの順番である。
その順番で行っていたのだが、まだ誰がババを持っているのかわからない。そしてそのままメルーが残り2枚になってしまった。他4人は5枚の様だ、ババ抜きは本来ならば心理戦なのかもしれないが、初めてトランプをやらせるこいつらの顔を見ても、心理を掴むことが出来ない。どうせなら、今日のうるおい屋のポイント全て負けた者が負担するといった勝負にすればよかったと少し健太は悔やんだ。
そしてそのままメルーが残り1枚となり、イルグルがメルーのカードを引いてメルーが一番に上がった。
「ん?終わり?」
メルーは首を斜めに傾げながら、聞いてきたので、健太はそのままうなづいた。
「なんだ・・つまんないの・・・古代の人はこんな遊びの何処が面白かったんだろうねぇ。」
まぁ素早く上がるとそう思う奴はいるであろう・・・
結局ババは誰がもっていたのだろうか?健太が引いたカードにババが現れた。ババを引いてしまったのだ。
しかし引かれた黒助は無表情、失恋中だからなのか、ルールの理解がまだなのか、よくわからない。
(駄目だ、トランプでスキンシップを図り、メルーとイルグルが少しでも仲良くなれればと思ったのだが、これは失敗だ!)
そんな中、結局次にシエルが上がり、そして、リサ、イルグルが上がり、健太にババが残ったのだ。
「と、まぁ、こういう遊びもある。これがババ抜きだ。他にもあるんだぞ、大富豪、七並べ、スピード、ポーカー等な」
「う~~む、健太よ、そのトランプとやらはお主の時代の物か?」
「ああ、そうだよじじい、基本一人では遊べないけど、5人いると楽しくなるんだ。」
とはいえ、シエルも首を傾げている。面白くなかったのだろうか。
しかしリサは・・・
「なかなか面白いじゃない!健太、今度アタシにもそのトランプってカード作りなさいよ!」
と、面白さは人それぞれであるのがわかった。
健太は基本中の基本、ポーカーを教えてやることに次は考えた。ポーカーを教えようと思ったその時、メルーが話しかけてきた。
「ねぇ、健太、これあなたが全部つくったんでしょ?」
「ん?そうだけど?」
「あんたって意外に絵が上手いのね、そのババの絵。そこのなんだろ、古代語じゃなさそうだけど、なんて書いてあるのかしら?それにあたしこの絵の人、知ってる顔なんだけど・・・」
(何をいってるんだメルーは!?俺はJOKERって書いて、更にトランプで見るジョーカーをマネて書いたんだが・・・まっ普通知らないよな。)
「このJOKERって書いてあるのは、ジョーカーって読むんだ、古代語ではあるんだが、海を渡ったはるか彼方の国の古代語さ。」
健太のジョーカー発言に、4人の食事の手が止まり、健太を見ている。そしてシエルは尋ねる。
「健太よ、お主今なんと・・・?ジョーカーじゃと?」
「へ?・・・ああ・・・ジョーカー・・・」
「うぁあああああああ!!!」
その言葉を言うと、メルーがいきなりジョーカーのカードだけを奪い、ビリビリに破ってしまった!!
メルーがかなり興奮している。一体どうしたのだろうか。
「ハァッハァッハァッ」
「あああ・・俺のトランプが・・・」
健太メルーにガツンと言ってやろうと思ったのだが・・・メルーは目に涙を貯めていた。そしてそのままうるおい屋の個室の窓から出て行ってしまったのだ。一体どうしたというのだ?
「コラーー!おチビ!戻って来なさい!健太に謝りなさいよ〜」
リサの言葉も空しく、メルーは戻ってくる事はなかった。
「な・・なあ・・・じじい、俺なんか悪い事したかな・・・すまん・・・」
「いや、いいんじゃ!とはいえ、メルーに思い出させてしまったわけじゃから、お主たちにも話をしておこう。イルグル、リサよ、お主達も良く聞いておくのじゃ!!」
リサは口に食べ物を詰め込み、口を動かしながらシエルの話を聞く体制に。
イルグルはいつもなら返事をするが、うなずくだけであった。
何があったのだろうか?メルーに思い出させてしまったとは、一体メルーの過去に何があったのだろうか。
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