第85話 消えたハイム

「ウッ・・・ウッ・・・」


 イルグルはひざまずいていた。健太にもどうすることも出来ない。悲しいのか悔しいのかわからないが、イルグルはただ泣いている。


 メルーはイルグルを引っ叩いたとはいえ、自分は間違ってないといった顔つきである。

そしてイルグルは顔を上げて、メルーに向かって大きめの声で話し始めた。


「メルーちゃん、僕はずっとずっと君を見てきたんだ!!種族が違うけれども、研究員になってから、ずっとずっと君を見て来たんだ!!僕はメルーちゃんの虜になったんだ!!だから・・メルーちゃん・・・」


「イルグル!!それ以上の事は言わないで!!あたしはね、今128才なのよ、ピクシーの婚期は130までって言われているわ。それは今までいろんな人とお付き合いをしたわ?でもなかなか上手くいかなかったのよ。

 そりゃぁ私に何か原因があったり、相手に原因があったりといろいろだったけど、あたしには時間がないの!!焦っているのよ!!それとね、今まで別種族の人とお付き合いした事は無いし、これからも・・・・無い!!!」


ピカ!!ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!!!


トゲのある言葉と共に雷が鳴った。

振られた、完全に振られてしまった。


健太はイルグルにどう声をかけたら良いかわからなかったが、少しでも声をかけて、気持ちを楽にしてあげようと、サポートの意味を込めてアドバイスをする。


「黒助よ、失恋して猫は成長していくんだ、うんうん!黒助よ、頑張れ!!次は猫族の雌に恋をしてくれ!!」


「ウニャーーーーーーー!!」


 逆効果であった。

黒助はそのまま仰向けになり、雨に濡れていた。泣いていたのであろうが、雨の雫により、涙は確認できなかった。しかし、その後メルーが黒助に声をかけた。


「さあ、風邪ひいちゃうよ?後で美味しい物作ってあげるから先に帰ってなさい!!」


 暫く仰向けだった黒助だが、再び立ち上がり、トボトボと自宅方面へと歩いていった。


「ごっめ~~~ん!ハイム様~~。全くうちの研究員がとんでもないご迷惑をおかけしました。もうしばらく公園を一緒に歩いてくださいますか?」


って言って振り向くが・・・


「あら?ハイム様??ハイム様~~~???」


 ハイムがいない!!いなくなっていた。メルーは変装した健太に質問する。


「ねぇ、あなた、ハイム様はどこ行ったの?」


(どうしよう・・・アイツなんで急に血相変えて帰ったんだ??)


「さ・・・さあ・・・どこにいったんだろう・・・」


「んもぅ!!役立たず!!ハイム様~~~~!!ハイム様~~~~!!!」


メルーは泣き声にいつしか変わってハイムを呼び叫んていた。


 次の日の朝、謹慎処分4日目となった。イルグルは余程ショックだったのかビクともせずに寝ていた。健太は声をかけづらく、居づらかったので、研究所へ向かった。

 が・・・ここにも研究所受付でビクともせずに泣きながら寝ているメルーがいた。


「う~~~ん・・・ハイ・・ム・・さ・・ま・・」


 重症だ。ってかここで寝泊まりしたのか、酒臭い。

とりあえず研究所の玄関が荒れているから掃除をしようとする。おそらくメルーがやけ酒して暴れたんだろう。健太は掃除をしていると、小声が聞こえた。


「おーい、健太!!」


「振り向くとハイムだった。」


「ハイム!!昨日どうして急にいなくなったんだよ?」


「はあ?なんで健太知ってるんだ?」


「あ・・・いやいや、メルーから聞いたんだ。今泣き疲れてやけ酒して寝てるぞ」


「そっか、それは悪い事をしたな。でもな、健太、俺も聞いてないぞ、メルーちゃんが128才だったって事、てっきり28才だって思ったからな!!俺まだ30才だぞ?流石にもう少し若い人がいいんだよ、人間のお前にはわからないかもしれないけどね。」


(なるほど、メルーの年を聞いて逃げたわけか・・・まあしょうがない。結局カップル不成立、無駄な一日を昨日は過ごしてしまったか・・・)


 健太は昨日一日を振り返ると、ただ疲れるだけだった事に、ムカムカしてきた。


「なあハイム、俺気が変わった、この研究所の庭掃除しといてくれ。俺帰って寝るわ。」


「はあ??俺は全く関係ないじゃん!!やらない、絶対にやらないからね!!ってか俺先輩だぞ!!」




第10章 ジョーカーへつづく

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