第84話 エリートと凡人の差

 うかつだった、まさか曲芸人の中に紛れ込んでいるとは流石に健太も裏をつかれた。

イルグルは何をするつもりなのであろうか。


おおおおおおおパチパチパチパチパチパチ


 健太はUターンし、小走りにハイム達の元へ戻り始めた。

 黒助は一回二回とお辞儀をした。そして口に何やら筒のような物を咥えた。周りは曲芸が今から始まるとばかりにテンションが上がる。その時であった。


シュッ!!


 (やはり、黒助の奴!!やばい!間に合わない!!!)


 イルグルの吹いた吹矢はハイムにそのまま突き刺さった・・・かに見えた。

 直前の所でハイムは指で吹屋を挟み取りをしていた。

 一瞬の出来事だったので、200人全員に沈黙を吹矢は与えたのだ。

 そして、ハイムは立ち上がって、イルグルのいるステージへと飛んで近づいていく。


 (プププ、黒助よ・・・自業自得だ、そのまま怒られてしまえ!)


「黒いお兄さん、吹屋の曲芸ちょっと失敗して私の所に来てしまったけど、まだ弟子入りして間もないんだもんね、この失敗は次の成功に繋がるんだから、失敗を恐れないで頑張ってね!」


 ハイムはそう言い吹屋をイルグルに返した。そして、再び飛んでメルーの隣の席に戻った。

ここまでの出来事まで、観客はずっと沈黙だった。


パチパチ、と一人


パチパチ、とまた一人


パチパチ

パチパチ


パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ

「おおおおお!!!いいぞ~~~~~」


 200人の観客全員が感動していた。ハイムは照れ臭そうに頭をかいているが、イルグルは這いつくばっている・・・よほどショックだったのであろう。


 攻撃したが、あんな言い方をされたら誰だって負けたって思うであろう。きっとイルグルも諦めたであろう。


 メルーの目も既にハイムに対してハートの目になっている。


ここまでハイムとイルグルの格の差が明らかになれば、もう大丈夫だろうと悟り、健太は曲芸場を後にした。





 さすがに今日は疲れてしまった。うるおい屋で少し食事をとり、流回矢るえしを見ると4周目に入っていた。時計を見ると、もう少しで19時になりそうだった。ハイムとメルーは恐らく公園でそろそろクライマックスとなる頃だが、もう邪魔をしないでいよう。メルーも結婚相手が見つかってよかったし、ハイムも嫁さん見つかってよかったんじゃないかなと健太は1人、うるおい屋でサインし、会計をしながら思った。


 健太が居候しているフクの家は、このうるおい屋から真っすぐ公園を突き抜けていった先にある。


 勿論公園を通らず遠回りしても帰れるが、かなり遠回りになる為いつも公園を通る。もしハイムとメルーがいても無視しようと考えた。


(って事で、公園を歩いているわけだが・・・って・・・いるじゃないかあいつら。)


ハイムとメルーが公園を低く飛んでいる。


 条件反射だろうか?なぜか健太はベンチの裏側にある策を超え植木に隠れてしまった。


(何やってるんだ!俺は!!)


しかも俺が隠れてしまった場所に先客がいたみたいだ。


[あ・・ごめんなさ・・]


[いえ・・・こちらこ・・・]


[黒助!!お前何やってるんだ!!]


[それはこっちのセリフですよ!!]


[僕はね、あの男ともう一度勝負します!!]


[バカ!やめとけ!エリートピクシーだぞ!!]


[いいんです。本気で戦ってそれで負けたら諦めが付きます]


[そっか・・・わかった!じゃぁ見届けよう!!]


[何言ってるんですか?健太君も手伝ってくださいよ!!]


[はぁ??そんな事できるわけないだろうが!!]


[僕にとっては真剣なんです!!ここに僕が台本書きましたから、これらのセリフを言ってください!!行きますよ!!エイ!!]


 健太は黒助に押され、植木から飛び出すように外に追い出された。

そして残念ながら、目の前にハイムとメルーがいるではないか・・・


 ハイムとメルーは「???」的な顔をしている。そしてイルグルも植木から飛び出した、どうやら作戦実行の様だ。


 サングラスをかけた猫がハイムに絡み始める。どうやらイルグルはチンピラになりきっている様子。


「ピクシーの兄ちゃんよ!!かわいい娘つれてるじゃねぇか!悪いがボク・・・オホン!俺がこの娘と付き合ってもらうぜ?」


(・・・なんなんだあのセリフ・・・)


 決め台詞の様にカッコよく言ったつもりのイルグルは、そのまま健太を見ていた。いかにも、(次のセリフはあなただから早く言え!)と、言っている様な者だった。

健太は慌てて台本を見る。


「そ・・そうだ!おとなしくおれさまたちのいうことをきいていたほうがけがをしないぜ」


 しかし、台本を丸めていかにも自然に言ったつもりだったが、モロに棒読みだった。


「あら?よく見たら曲芸場にいた新人さんじゃないかな?あなたも人が悪い、あの吹矢にはモコモコ獣の涙が入っていた。あなた・・・一体何者だ!」


「フッ、知っていたのか。確かにあの吹矢に細工はした。あの涙の成分は非常に臭く、一週間は臭さと戦う事になる。その吹矢を見破っても、今ここで吹矢をもう一度お見舞いしてや・・・」


パーーン!!


 公園全体を良い音が鳴り響いた。なんとメルーがイルグルを平手打ちしたのだ!


「イルグル!!いい加減にしなさい!!」


(ゲゲゲ!バレてる!!やばい、俺もバレてる・・・かも?)


「そこのイルグルの友達かしら?そこの猫もあたし達に何を企んでいるのよ!?」


(やばい・・・万事休す・・・とはいえ俺はまだバレてないだけでも助かったが・・・)


ポタ・・ポタ・・ポタポタポタポタポタタタタタタタサーーーーーーーー!!


 雨が降ってきた。まるでこの雨はイルグルに頭を冷やせと天から言われている様な雨に思えた。



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