第83話 裏切る健太

「・・・やめだ!もう奴らの邪魔するのはやめだ!」


 健太はやっと気付いた。何でハイムとメルーのデートを尾行していたのか?当然だが、別にメルーが好きだからではない。だからと言ってハイムが気になるわけでもない。単に、メルーの恋を応援したいが為に、気になって尾行していた事に気がついた。お父さんでもないのに・・・




メルーは健太にこう言っていた事があるそうだ。


「あたし、130歳になる迄に結婚したい」


「上層部に1人かっこいいピクシー族がいるんだよ。」


「あああ!!こんなところにシワが増えてる!!」


「もし、健太がピクシー族だったら、あたし健太とデートしてるかもね。」


 そんな発言と今回のハイムとのデートが、健太の感情に火が付き、わざわざ猫族変身セットまで購入し、尾行してしまったのだ、健太はもう邪魔はしない事を・・・


「嫌です!!僕はあんな奴認めません!!」


と、健太とは真逆な考えを持っている者もいた。イルグルである。


「な、なあ黒助?お前好きな人いるだろ?その人の気持ちになって考えてみようぜ?俺はさー、マキちゃ・・・」


「ええ!いますとも、僕自身の気持ちで考えた行動だと思っています。例え種族は違っても、私にとっては大切な子なんですよ!」


「な・・・マジか?なあ黒助、メルーはピクシーだぞ?お前は・・・」


「わかってますよ!ここからは僕1人でメルーちゃんと謎の男を尾行します。健太くん、メルーちゃんを諦めたんなら、僕の邪魔はしないで下さい!」


そう言うと、黒助は走り去っていった。


 こうなれば、メルーの心配より、黒助の方が心配だと健太は判断。ハイムとメルーは今おそらく昼ご飯と予想した。


(よし、先回りして映画館で先回りを・・・じゃない、映画館はバピラにはない、あるとすれば曲芸だ、よし、曲芸場で待ち伏せだ!ハイムならきっとメルーを、連れてくるはずだ!)





 健太の腕時計は14:30を回った。曲芸会場には既に150人近く集まっている。


 ハイム達はまだ来ない。健太の感が外れたかと思っていた頃、健太の予想通り、ハイムはメルーを連れてやって来た。


「あ~、ここだよメルーちゃんこの曲芸がさ~面白くってねぇ。」


「へぇ~~そうなんですね~~。」


 (やはり来たか、ってかメルーの奴、更にべっとりとハイムにくっついてるじゃねぇか・・・これはマジでハイムにホの字なのかもしれないな。さて、肝心な黒助は一体何処で尾行してやがるんだ?)


「え~~お集まりの皆様、本日の曲芸披露にお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。皆様に曲芸が始まります迄の~お願いと~ご案内を申し上げます~・・・」


 (いかん!曲芸が始まる。始まってからだとまた面倒なことになりそうだ。奴はどこだ!探せ探せ・・・曲芸とはいえ、150人は集まっている。その中から探すのはなかなか難しい。ハッ!!)


ピーララピーララピララララーー♪


(曲芸が始まってしまった。ハイムも他の客も曲芸人を見ている・・・曲芸よりもハイムを見ていたいメルーは曲芸ではなくハイムを見ている。そうか!!メルーみたいに曲芸人を今見ていない奴を探すんだ!そいつが黒助だ!!)


ピーーララララピッピッピーーラッピッピー♪

(っくぅ・・・いない!!)


ピーラララララッラッラッラララララーーー♪


ォオオオオパチパチパチパチパチパチパチパチ


 曲芸の一つが終わった様だ。イルグルは未だ発見出来なかった。もしかしたら、いないのかもしれない。健太は少しだけ安心した。


「わぁあああ!!ハイムさん、この曲芸すっごい楽しいですね~~~。」


「でしょ~~?よかった~気に入ってもらえて~~。」


(何言ってんだメルーの奴、曲芸なんて全く見てなかったじゃねえか!)


 (アイツらはアイツらで楽しんでいるのはいいんだが・・・多分大丈夫だろう、この曲芸場は大丈夫そうだな・・・出るとしよう。俺は猫族の曲芸に興味がないし、だからと言って人間の曲芸にも興味があるわけではない。)


 健太は出口へ向かった。会場を出る寸前で曲芸者が客に話し始めた。しかし、その話の内容が健太の足を止める事になってしまう。


「は~~い皆さん、今日は来てくれてありがとう!!次の曲芸に入る前に、お話があります~~~実は今日は30分前に弟子入りした曲芸人がいますので紹介させていただきます~~。は~~い、新人さん、いらっしゃい~~~。なんと弟子には初めての黒毛猫です。紹介します。ルイーグです。」


 (新人さん?どうぞどうぞ頑張って一人前になってちょうだい・・・ハッ!!待てよ?

 新人?30分前?黒毛猫??ルイーグ??ルイーグルイーグルイーグルイーグルイルグル・・・イルグル・・・しまった!!)



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