第77話 単純
「さあ立て、健太!立って私を見るんだ!」
フクは怒っているのか?それとも健太を元気な姿に戻そうとしているのか、横から見ているハイムにはわからなかった。
健太はまだ立ち上がっていないが、フクは左腰に装備している剣を抜き、健太に向けた。そして話し始める。
「時空を超えただの、バピラの人間ではないだの、詳しくバッド様から聞いてはないが、そんな女々しい人間なんて、初めて見たぞ!お前が何に悩んでいるのか興味はないが、これだけは言っておく!
我々は生きる為に正当な判断をしている!
それは健太、お前もだ!」
「正当な・・・判断・・・」
「そうだ!ラマ国もピカトーレンも家族を養う為、働く、国を守る為に戦う、それはお前もわかるだろ!?」
フクは未だに剣を健太に向けたままだ、今にも切りつけそうな勢いだ。健太はゴクンと唾を飲み、フクから目を逸らす。
「こっちを向け!目を逸らすな!いいか、これは私と健太の真剣勝負だ!」
強い眼付きのフクに対し、健太の眼は弱々しく、明らかに戦意を失っていた。
「健太よ、もしラマ国研究所の誰かがエルフ達に殺されたらどうする!?もし、ピカトーレンのお前の仲間達が紅ピクシー達に殺されたらどうする!?またそうやって怯えているのか?」
「殺・・され・・たら・・」
「そうだ!大切な仲間が命を奪われたらお前も死ぬのか?もし、お前が大人になり、何れは結婚し、パートナーの命を奪われてもそうやって怯えているのか?」
「あ・・あ・・あ・・」
この言葉には当然健太の頭にはマキが思い浮かんだ。以前ボ=ギールと一戦交えた時、魔力を使い果たし伸びてしまった健太には、その後のマキ=オースガの姿や正体は未だ知らないでいた。
健太がソワソワしてきた。フクはそんな健太の振る舞いを逃さず見ていた。あと一押しで立ち直せると感じたのだ。
「お前には今好きな人がいる。守りたい人がいる。結婚したい人がいる。そんな大切な人がいても、このバピラではお前が守らなくてはいけない!それがバピラだ!」
「ハァッハァッハァッううう・・・」
健太はまた頭を抱え始めた。それを見ていたハイムは心配になってきた。
「フク隊長、もうそれ以上は・・・」
「さあどうするんだ健太!守る為に戦い、前に進むのか、それともこのまま腐ったままで余生を送るのか!」
「うああああああああああ!!」
天を仰ぎ、健太はおもいっきり叫んだ、喉が張り裂けても良い、っと思うくらいに叫び、先程までの自分の愚かさを後悔した。
「良いわけ無いだろうがーーー!!あの帝国が許されるわけ無いだろうがーーー!!ピカトーレンが無くなる、ラマ国が無くなる、そんなの俺のリストに入ってねーぞーーーー!!」
健太は再び思い出した。図書館でカイトに殺されかけた事、バピラ湖でボ=ギールに殺されかけた事、それらを考えると、殺意が芽生えた。
そんな健太をハイムはキョトンと見ていた。
「なんていうか・・・単純な奴だな・・・」
とボソリと。
「ハイムよ、健太は単純な奴だから助かる。また同じことがあっても似た事を言えばいいんだ。」
フクはニヤリとしながら復活した健太を少し遠くから見つめた。健太はまだ「やったるでー」等と叫んでいるが、フクはしつこいと感じ無視した。そして・・・
ピピピ・ピーーーーーーー!!
フクはグリフォンの笛を吹いた。
「爺さん、我々は一旦帰ります。ご安心ください、1週間以内に上層部が迎えに行きます。それまでお待ちください。」
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