第61話 引き継ぎ

 次の日の朝、健太は寝過ごしてしまった。

流石に昨日はあっちへこっちへと移動、極め付けにリサが同行、最後にうるおい屋と、ハードスケジュールに身体がついていかなかった様だ。


 寝過ごしたとはいえ、研究所の仕事はない。今日は外交官として昼から出張だ。腕時計を見る限り、10時過ぎであった。


 健太はラマ国上層部に向かう前に、一旦研究所へ向かう事にした。いや、自然と向かっていた。その理由わけは・・・リサとメルーが上手くやっていないのではないかと心配になったからだ。


「よぅ、少しだけ邪魔するぜ〜じじい、朝メシまだだから何か食わせてくれ〜。なんせ黒助の奴が・・・」

(ん?何か騒がしいぞ?)


「はぁ?砂糖がないって意味わからないんだけど・・」


健太の予想は的中した。リサとメルー其々それぞれが向き合って言い合いしている様子。


「あたしも、シエル様もイルグルも、珈琲はブラックなのよ!健太はガキンチョだから飲めないし。」


「砂糖が無いなんてコーヒーじゃない!何とかしなさいよ!」


「はあ?あんたね、居候のクセに生意気よ!」


「何よ〜!」


「早く砂糖を手に入れて来なさいよ、このボイン人形!うぬぬぬぬぬぬ!」


「砂糖なんか要らないって言ってるでしょ、このペタンコ女!んむむむむむむ!」


 健太は片手で顔を掲げてしまう。


「お前らなあ・・・砂糖なんかで喧嘩するなよな〜。」


 健太は上層部に行く前に研究所に来てよかったと感じた。健太はリサとメルーを上手く煽て、互いを落ち着かせた。

次に、研究所に暫くいなくなる為、リサに自分のやっていた仕事・・・と言っても雑用だが引き継いだ。勿論リサの事だ、やらないとは思うが、一つでもやってくれたらじじいも喜ぶだろう。


 健太ものんびりとしている訳にはいかない。上層部に行く前、最後にリサに一言伝える


「リサ、ここは他国だ。人間は俺とお前しかいない。でも絶対に手を出すなよ!?この国は今、ピカトーレンに対し、考え方を変える方向にあるんだ。決して問題を起こすなよ!」


「わかってる!それに問題児のあんたなんかに言われたくないわよ!」


予想通りの言葉の為、健太は驚きはしない。

 リサと話し終えると、そのまま所長デスクに座り、手で顔を洗っているシエルに顔を向ける。シエルも昨日は健太と同じ行動をしていた為か、少し眠たそうだ。

 それでもシエルは健太が自分を見ている事に気づくと、真面目な顔になり、コクンと頷いた。


明らかに、行って来い!の合図だ。


健太も頷き返し、メルーとリサ、イルグルに片手で手を振り、上層部に向かう為、研究所を出たのだった。

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