第53話 感情コントロール不制御

 健太はいつの間にか走っていた。上層部のいるエリアへ再び戻る為に走っていた。


 (あいつが・・・バッド王が一人で頑張っている。俺も出来る限りの事はさせてもらう!俺みたいな単なるどこにでもいる16歳が、なんでこんな事しなければならないのかわからないけど、身体が勝手に動くんだ。

 バッド王、お前だけで抱え込むのは間違っている。悩みなんてのは、国民5万人全員で悩めばいい。笑いたい時は5万人全員で笑えばいい!泣きたい時は5万人全員で泣けばいい!!そして頑張る時は5万人全員で頑張ればいいんだよ!!!)


 そんな感情を出し、全速力で走る健太。

上層部エリアに入ると上層部兵隊の注目を浴びた。


「ん?ま、待て!貴様、バッド様と一緒にいた人間だな?」


猫の兵隊二人が健太の通る道を持っている槍を横に下ろして通さなくした。


「ハァッハァッハァッどいてくれ。」


「何を言っている!今はバッド隊・・・王が大切な演説をしている。貴様を通すわけにはいかん!さあ、ここで演説を聞くがよい!」


 猫族二人はキッパリと健太に断りを言い、道を譲らない。しかし今の健太にはアドレナリンが出ている事もあり、自然と次の行動に入る。


「ハァッ!!」


健太はジャンプする


「え?」「何!」


 健太は高く飛んだ、どうやら足に魔力を高めて飛んだのであろう。

道を塞いだ猫族の二人の頭上を軽々と超え、一気に塔の中に入った。


「なっなんて脚力だ、レンジャーの力って侮れないな・・・」


 健太はレンジャーではないが、健太の事を知らない猫族二人はポカーンとしていた。


 そして健太は王の間に再び戻ってきた。

ぎこちない演説はまだ続いていたが、勝手にバッドの演説台へと移動した。


「・・・木下健太・・・今演説中だ、後にしろ。」


 バッドの言葉を無視して俺は演説台に立っているバッドの前に移動した。


「ゼェッゼェッゼェッ、俺は・・・中央地区で奴隷となっている木下健太っていう人間だ。しかし!ここのラマ国上層部の外交官でもある!!みんな!!頼む、王の事をよろしく頼む。バッド王の努力を認めない奴がいてみろ!俺が許さないからな!!ラマ王が亡くなって3年だぞ!3年も国民に黙っていたっていう不甲斐ない出来事もあったが、3年も国民に心配かけさせない為に言えなかったっていう意味でもあるんだ!その想いやりが今の国を創っているんじゃないのか?だから、国民のお前らさ!バッド王を・・・バッドを許してやってくれよ!!」


 つい、無我夢中に暴走発言をした健太。第三地区で水鏡壁からの映像を見ていたが、バッド王の辛そうな顔を見るのが辛くなった健太は無意識に足がここまで勝手に動いたのだ。


「なあ、観てるんだろ?国民全員が水鏡壁とやらの映像で観てるんだろ?だったら・・・」


「落ち着け、新入り外交官!」


「こっちに来るんだ!!」


 駆けつけたラマ国上層部隊長フクやハイムに押さえつけられ、部屋を出された。興奮し、暴走し、バッド王に恥をかかせてしまったが、気づけば健太は・・・・泣いていた。

泣くほどにまで感情が抑えきれなかったのだ。


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