第30話 ビュルドロー

 健太はシエルの話を聞きながらバピラ湖へ向かっていたが、どうやら到着した様だ。


「さあ、着いたぞ健太よ。メルーもイルグルもいる様じゃの。」


「あ!シエル様〜、健太!こっち、こっちだよー!」


 水辺付近でメルーが手を振って呼びかける。


「うむ、メルー、イルグルよ、ご苦労であった。」


「いえ、僕は特には・・・メルーちゃんが殆ど作業をしたから・・・」


「ほんっと!イーは全く役に立たなかったわよねぇ」


 (イルグルはやっぱり馬鹿正直者だ、あれじゃモテないぞきっと。

 とはいえメルーはどんなこともはっきり言うタイプ。メルーに彼氏が出来たらきっと喧嘩ばかりするかもだな。)

と、2人の会話を聞いた健太はそんな想像をした。メルーとイルグルが先に来て、作業をしたいたという事は判ったが、見渡す限り特に何もない。

一体ここで何をしていたのだろう。


「あのさ、メルーと黒助は何してたの?」


「何ってビュルドローの詠唱よ?」


「ビュルドロー?」


 健太にはまた聞いた事のない言葉が出てきた。きっと魔法の事だろうと健太は感じると共に、自分に魔力がありつつも、ビュルドロー等の魔法の言葉には無知な自分に、少し不安を覚えた。


「まぁ、健太は魔法の存在を知らない国からやってきたんだから、そりゃ〜不安になるわよね、ビュルドローってのはね、大きな空気ボールの事なのよ。つまりね、ビュルドローの中に健太が入ってそのまま湖の底に行って調査してもらうのよ?」


 健太は首を傾げたが、なんとなく理解した。つまり、巨大なサッカーボールの中に自分が入って探索出来るって事だと思った。


「あはっ、何となく理解した様ね。この魔法はね、水魔法で円形を作って砂魔法でその円形をコーティングする1人では出来ない高度な技なのよ。健太、あたしとイーの努力を無駄にしないでね。」


 健太はますます不安になった。魔力の存在だけでもどうやってコントロールするのかわからないのに、魔法属性のコラボとなると更に混乱してしまう。


「あ、あのさ、メルー、黒助、俺は魔法が使えないから水の底に行っても・・・」


「え?健太は魔法の事は考えなくても良いのよ?」


「そうですよ健太君。別に魔法を使用して水底調査するわけではありません。それにメルーちゃんも健太君と一緒に行くから安心して下さい。」


 イルグルの言った言葉に安心した。メルーも一緒ならと健太は安心するのだった。


「さあ健太。さっさと調査して早く帰りましょ?う〜んぬんぬんぬんぬん」


「ニャーオーォォォォォォォォ」


 メルーとイルグルは何やら詠唱し始めた。確かに何やら奥に秘めた力を感じる。


「ハァ!ビュルドロー!!」

「ンニャア!ビュルドロー!!」


 メルーの持っているスティック、そして長い爪を立て詠唱していた2人は健太に向かって魔法を飛ばす。すると健太の周りに円形でコーティングされたビュルドローが覆った。


「こ・・・これは!」


「さ、行くわよ、健太。」


 メルーはビュルドローの中に入り、健太の右肩で腰を下ろした。


「本当に大丈夫なのか?これ・・・」


「失礼ねぇ!大丈夫に決まってるじゃない!」


「・・・わかったよ、行こう・・・」


 健太は湖の中に足を踏み入れる、すると不思議なことに水が入ってこない。

 徐々に徐々に深くなっていく。シエルとイルグルは水が苦手の為、健太とメルーをただ岸より見守る事しか出来ないでいた。


 そして、健太の姿は完全に消え、湖の中へと沈んだのだった。


31話 謎の声へ続く

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